TOP > 事業計画 / Last update: 2010.5.7
以下に掲載の事業計画案等は、2010年5月30日開催予定の本会評議員会で審議されます。
本ページには、『図書館界』62巻1号(2010.5)掲載の日本図書館研究会決算・予算・事業計画関連文書のうち、事業計画(案)と各役員による説明・呼びかけ文を掲載しています。決算・予算表等は省略していますので『界』と合わせてご覧ください。
1998年年6月の国会は「国民読書年に関する決議」をあげ,2010年を「国民読書年」とすることにしました。そこでは,人生を豊かにするだけでなく,感性を磨き,表現力を高め,創造力を豊かにし,人生を深く生きる力を身につける上で欠かせないものとして,読書を把握しています。そのために,決議では,読書の街づくり,読書に関する市民活動の活性化など,読書への意識を高めるために国をあげて努力することが宣言されています。
図書館は人びとに読書を保障する機関といえます。しかし現在では当然とされる読書の保障という役割は,歴史的にみると比較的新しいものです。アメリカの場合,20世紀初頭の公立図書館は読書への意識を高め,積極的に読書を促進し,それが図書館員の責務だとされていました。しかし人びとに読書を保障するという意識は希薄で,専門職である図書館員が選んだ図書を読ませるということが,期待されていたのです。したがって,とりわけ道徳的観点や思想的観点による図書の選別が重要とされていました。当然ながら,この観点から著者や個別の図書の内容について論議がされたのです。 1939年の『図書館の権利宣言』の採択で,読書を保障する公立図書館という基本的な土台が打ち出されました。そして読書への意識を高め,積極的に読書を促進してきましたが,図書の内容に踏み込むことは敬遠されてきました。それと関連して,図書館情報学が読書の研究,すなわち読書の社会的意味,読書と図書館利用との関係について研究することも少なくなっていったといえます。
しかしながら1980年代以降,例えばジャニス・ラドウェイ(Janice Radway)は開拓者的研究を行い,それまで図書館でも低くみられていたジャンル・フィクションが,人生を豊かにし,生きる力を身につけていく上で重要な役割を果たしていることを説得力を持って示しました。ラドウェイの研究結果は,現在の公立図書館での読書案内サービスに適用されたりしています。またハリエット・ロング(Harriet Long)はエスノグラフィックな手法を用いて,社会的基盤としての読書の意味を解明しました。さらに歴史研究では,クリスティン・ポーリー(Christine Pawley)が,性別や年齢でステレオタイプ化された読書行為について,実証にもとづいて反論を提出しています。
こうした業績はこれまでの図書館や図書館情報学に建設的な問題を突きつけていると思われます。
昨年の「2009年度事業計画等の提案にあたって」では,「日図研の会財政が非常に悪化」してきていると書き,早急に対応できるところを見直しました。会員全体に直接関わる部分,すなわち会費,『界』の頁数,ブロックセミナー,大会,セミナーなどには手をつけないという方針のもと,『界』印刷費,理事会などの費用,原稿料などの削減を行い(支出の削減),一方では広告などの獲得,時機に適した良質の図書の発行(収入の増大)を実施しました。そうした措置によって,本年度の決算は単年度の収入で,ほぼ単年度の支出をまかなうことができました。それでも基本的に赤字の構造になっています。会員の減少を最小限に食い止め,会員の入会に努めるという努力目標も設定しましたが,残念ながら十分に達成できたとはいえません。会員数の維持は会の財政にとってというよりも,全体としての本研究会の研究の力量に関わるものとして重要で,引き続き会員の皆さまには,入会の勧誘をお願いしたいと思います。
以下に収めた事務局長および各委員長,担当からの提案説明,抱負と事業計画,予算案などの内容をご検討いただき,5月30日開催の評議員会(本会の実質的な最高議決機関)の審議に向けて,会員の皆さんが多くのご意見,ご提言をお寄せくださるよう期待しています。お寄せいただいたご意見は当日の討議資料として活用させていただきます。
(かわさき よしたか 京都大学)
2009年度決算ですが,一般会計は特別会計からの繰入れにより昨年並みの繰越金となりました。特別会計は売上げの伸び悩みで,繰越金が減少しています。以下,予算と大きく違っている項目を中心に説明します。
一般会計の「収入」では,「会費」が予算よりも約27万円多くなっています。個人会員の会費収入は予算とほぼ同じでしたが,団体会員の会費納入が予算より約30件多いことによります。『図書館界』の売上げも予算を上回りました。広告料は予算より25万円少なくなりました。引き続き努力をしたいと思います。一方,「支出」では,「会合費」「交通費」ともに予算額を下回りました。「研究調査費」は原稿料が少なくなっています。「研究助成費」については,ブロックセミナーが実施されませんでしたので,50万円が未執行です。「国際交流費」は特段の事業がなかったことにより,未執行となっています。「通信費」は『図書館界』61巻5号の郵送費が増えましたので予算を超えました。
特別会計ですが,『図書館資料の目録と分類』は120万の予算にたいして150万でした。増訂第4版になり売上げが多くなりました。また,『本をどう選ぶか』,『公共図書館の役割を考える』,『新・大学生と図書館』,『子どもの読書環境と図書館』はいずれも低調でした。『図書館の発展を求めて』は販売委託先から毎月一定の入金がありましたが,予算を下回りました。一方,支出の方ですが,『構造的転換期にある図書館』を作製しましたので,それにかかる「編集費」「印刷費」を執行しました。「印刷費」は予算額とほぼ同じになりました。また,「上海市図書館学会との交流費」は未執行です。全体として繰越は昨年より170万円少なくなりました。
第2特別会計,いわゆる「図書館研究奨励賞基金」は,奨励賞副賞10万円を執行し,次年度への繰り越しは1,120万円となりました。
このように財政面では一般会計が年々厳しい状況になっています。例年のことですが,個人会員数を減らさないことと,団体会員の継続が大事だと考えています。個人会員,団体会員の入会に向けて,会員の皆さんのご協力を,あらためてお願いしたいと思います。
ここに提案する事業計画・予算案の審議と承認は評議員会(5月30日開催)の役割ですが,会員の皆さんの声を反映させたいと思いますので,電子メール(アドレス:nittoken@ray.ocn.ne.jp @は半角で)等で事前に事務局まで,ぜひご意見をお寄せください。
「研究活動」では,『図書館界』の年6回刊行,研究大会,図書館学セミナー,ブロックセミナー,研究例会があります。ブロックセミナーは全国各地域で開催することを目指しております。昨年度は実施できませんでした。年度内に2ヶ所程度は開催可能ですので,評議員,会員のみなさまのお申し出をお待ちしています。また,今年度は第7回国際図書館学セミナーが,上海万博の関係で場所を移して杭州で行われます。「出版活動」として『図書館界』61巻5号の350号記念特集「図書館・図書館学の発展―21世紀初頭の図書館」の特装版を刊行する予定です。「研究の奨励と会の拡大に関わる活動」では,「留学生への『図書館界』の無料頒布」が10年目に入ります。これは,図書館研究の奨励と国際交流の一環として,日本で図書館情報学を学ぶ留学生に,1年間を単位にして『図書館界』を寄贈し,図書館研究や図書館の理解に役立ててもらうという趣旨です。詳しくは82ページを参照して下さい。さらに,今年度は2011年〜2012年度の役員選挙を実施します。
一般会計予算案については,会費収入を昨年と同額計上しました。もちろん新規の入会を増やすことと継続して会に参加していただくことにより,昨年並みの収入を目指しています。広告料も昨年度と同じにしました。また,昨年度は350号記念特集号のために特別会計からの繰入金を計上しましたが,今年度は繰入れを行いません。
支出については,昨年度の実績を基にしながらもできるだけ節約できるものは再検討して計上しています。「雑誌刊行費」ですが,昨年は350号記念特集がありましたので増額しましたが,今年度は通常の年間480ページの予算となっています。
「特別会計」の収入の方では,『図書館資料の目録と分類』を昨年より30万円多くして150万円にしました。また,『新・大学生と図書館』や『子どもの読書環境と図書館』などはそれぞれ昨年より少なく見積もりました。また,『図書館の発展を求めて』は60万円を計上しました。一方,支出の方では,『図書館界』350号記念特集の特装版刊行のために「印刷費」などを計上しました。さらに,第7回国際図書館学セミナーの予算を30万円,役員選挙費に50万円を計上しています。
財政を支えるのは会員皆様の力です。引き続き会費の前納,会員拡大,資料販売等に皆様のいっそうのご協力と積極的なご発言をお願いいたします。
なお,事務局は毎週月・木曜日,午後1〜5時に事務局員が常駐しておりますので,連絡はその時間帯にお願いします。ただし緊急の場合以外はなるべく文書,ファックス,電子メールでご連絡ください。
(にしむら かずお 三郷町立図書館)
『図書館界』の編集という重要な役目を担うようになって,いよいよ6年目を迎えました。これまでも,図書館界全体の発展や活性化につながるような誌面づくりと,会員の皆さまのニーズに応えること,この二つを常に念頭に置いて『界』の編集に取り組んできました。今年度も『界』というメディアの意義を高められるよう,努力していきたいと思います。
『界』は,学術雑誌としての性格と,現場の実践を重視した現場に資する活動や研究の発表の場という二つの側面を備えています。学術論文や調査報告論文の投稿,《現場からの提言》への投稿,いずれも会員の皆さまの研究や実践の成果を積極的に公表いただくことを期待するものです。投稿論文には,昨年度から《論文》の表示を付すようにしましたが,これは学術雑誌である『界』が,査読の結果,論文として掲載していることをより明確に示そう,という考えによるものです。
また,前号(61巻6号)掲載の《現場からの提言》のように,「論文」と呼んでもおかしくない意欲的な投稿もあります。《現場からの…》で『界』が重視するのは,現場の図書館員の工夫や問題意識です。個人でも共同研究でも構いませんので,現場の課題を整理して積極的に投稿されてはいかがでしょうか。
《書評・新刊紹介》では,これまでもさまざまな図書を積極的に取り上げてきました。依頼を主体にしていますが,投稿も受け付けています。「この本の書評(新刊紹介)を書きたい」という方は,本会アドレスへメールでお寄せ下さい。また,「この本を書評に取り上げてほしい」という要望でも構いません。
昨年度の『界』で特筆すべきは,何といっても350号記念特集号(61巻5号,2010年1月)の発行です。1947年5月から足かけ62年8か月の歳月を経て到達した350号ですが,これを記念して「図書館・図書館学の発展 ― 21世紀初頭の図書館」と題する特集号を刊行しました。前回300号(2001年9月)の構成と手法を継承しつつ新たなトピックを追加して,2000年以降の図書館界の動向や発展を,文献レビューによって整理し,評価を行いました。これを見ると過去10年の図書館界の動向がわかるよう構成されています。全体として27本の論文を掲載し(うち1本は61巻6号掲載),予定を上回る300ページ強での刊行となりました。350号のために特別予算を組んでいただきましたが,会員の皆さまにはその分をしっかり還元できたと思っています。なお今年度は,これの単行本化を予定しています。
61巻では,350号の文献レビューのほかに,以下の記事を掲載しました。
投稿論文7,現場からの提言4,第50回研究大会グループ研究発表4,同シンポジウム5(討議含む),「構造的転換期にある図書館の法制度と政策(まとめ)」1,書評11,新刊紹介8,エコー2,追悼文(青木次彦氏)1,ほか。なお,2009年度図書館学セミナーの特集は,開催時期の関係で62巻1号に収載しています。
依頼原稿のみで構成される研究大会特集号(61巻2号)と350号を除いても,投稿論文と《現場からの提言》を合わせて11本が掲載できたことはよかったと思います。61巻全体の総ページ数は648ページ(350号だけでは304ページ),59巻の392ページや60巻の462ページをさらに上回る増ページとなりました。刊行にご協力いただいた執筆者の皆さまに,この場を借りて御礼申し上げます。
1年前に連載を終了した60巻記念企画が,『構造的転換期にある図書館:その法制度と政策』という単行本として発行されました。まとめてお読みいただくと,現代の公共図書館・学校図書館・大学図書館が抱えている社会的な問題点や背景がわかります。
なお,会員数の減少に伴い,『界』発行にかかる費用の見直しを迫られています。この点,会員の皆さまのご理解とご支援・ご協力をお願いいたします。
(まつい じゅんこ 大阪芸術大学)
日本図書館研究会にとって「研究」は,もっとも中心的な課題です。すべての会員の方々が懸念なく参画していただけるよう研究活動の場を築き,会合等へお誘いすることを研究委員会は任務としています。
旧年度は,2010年2月21−22日,51回研究大会を京都市今出川の同志社大学で開催できました。 時間的なはこびでは滞りはなく,かねてから指摘された「発表持ち時間厳守」にもご協力を得て応えることができたと思います。内容的にも力のこもった発表が揃いましたが,多少今後に心がけるべき点がアンケート上に記されていました。それらの詳細については,本誌次号に特集される第51回研究大会報告で,皆様にお伝えすることとします。
初日は個人・グループの研究発表です。個人発表の募集要項は本誌62巻3号(9月)に掲示します。2名程度と枠の限度がありますが奮ってご応募下さい。研究グループへは9月中にメールで連絡します。ところで近年,研究グループからの発表申込やそのレジュメの送致,予稿集原稿の提出に遅滞,欠落が散見されます。各グループにおかれては,早めにテーマを決定し発表内容を固める準備をなされるよう希望します。こうした準備行動が遅い場合の多くで,テーマの精選,掘り下げに疑問が呈されるケースがあるという,符合ぶりが見られました。
2日目はシンポジウムです。先の第51回シンポでは,JLA図書館の自由委員会などのご協力で「図書館の自由に関する宣言改訂から30年:その今日的展開」をテーマとし,熱心な議論が行われました。
次回第52回大会のテーマ設定の時期に来ています。皆様から時宜にテーマのご提案をいただけるよう望んでいます。この52回研究大会全体の予告は,本巻4号(11月)に掲載する予定です。
図書館学セミナー,昨年は「読むことに困難のある人へのサービスを考える」をテーマに,大阪府のドーンセンターで11月29日に開催しました(本号特集で報告)。
本年度は11月,兵庫での開催を予定しています。本巻2号(7月)に予告し,3号(9月)に次第を公示する運びとなっています。詰めはこれからです。皆様,テーマ,開催日数(1日制か2日制か)等ご希望,ご提案をお寄せくださるよう切望します。
ところで,研究大会・セミナーの会場(費)に窮しています。研究大会,図書館学セミナーは,京阪神の3地区で重ならぬよう順繰りに開催しています。会員の所属大学等で,51回研究大会の同志社大学様のように,無料の会場を提供いただけると幸甚です。
日常的な研究発表の場です。会員の希望テーマ,講師を軸に月1回弱開催。本誌に予告,記録を掲載します。担当は佐藤毅彦委員です。ただし必要経費程度しか用意できません。本会のメールアドレスに申込願います。参加無料。本年度6月は篠原由美子氏(松本大学教員),7月は松井一郎氏(枚方市職員),別掲していますが,ご期待下さい。
特別研究例会を5月30日(日)午前,京大医学部・芝蘭会館別館で開催。講師:川崎良孝理事長(本号別掲)。午後の評議員会と別会場です。ご留意を。
固有のテーマをもって研究活動をし,研究大会に研究発表するグループ(7名以上の会員で構成)に対して,研究計画の提出を受け本委員会で審査し,理事会承認を得て原則年3万円を助成しています。今年は2011年度に始まる2年間の助成申請手続きをしていただきます。新規の受付をするとともに,既成グループの継続手続きも必要です。応募期限を厳守して下さい。本誌第5号(1月)に募集記事を掲載します。ただ別掲のような財政不良で増額申請をそのまま承ることができる状況にありません。ご理解をお願いする運びとなります。各研究グループは,研究大会での発表が義務付けられていますが,研究例会での発表をもってそれに変えることができます。
国際研究セミナーは当委員会とは別組織(木下みゆき理事担当)ですが,本年,中国・杭州で8月下旬開催です。前号61巻6号p.609のご参照を。
当委員会は6理事と共に十余人の精鋭委員を擁し毎月1回の委員会を堅持,任務に邁進しています。
(しほた つとむ 桃山学院大学)
ブロックセミナーは,各ブロックの会員からの申し出によって開催されます。申し出のあった会員の意向(開催地・テーマ・講師など)は最大限に尊重します。また,経費は原則として全額を日本図書館研究会が負担します。
本会の諸研究活動は,京阪神を中心に開催される場合がほとんどであるため,ブロックセミナーは会員の最も身近なセミナーとなります。
皆さんからの積極的な企画をお待ちしています。なお,連絡先は下記のとおりです。(→ 連絡先等)。
(たけしま あきお 京都精華大学)
(たかぎ きょうこ)