TOP > 大会・研究会等 > 研究大会 > 2009年度 / Update: 2010.7.12
2009年度の研究大会は,同志社大学(今出川)を会場にお借りし,開催した。第一日目は,個人及びグループの研究発表,第二日目は「<図書館の自由に関する宣言>改訂から30年:その今日的展開」と題してシンポジウムを行った。延べ263名(166名)の参加があった。なお第一日目,グループ発表終了後,図書館研究奨励賞表彰があり,中山愛理「19世紀後半のアメリカにおける巡回文庫の導入:州図書館法と実態の検討に基づいて」(『図書館界』60巻4号,2008.11)が受賞,川崎良孝理事長から賞金等を贈呈。同日終了後交流会をもった。
「本離れ」現象にある10代の子どもたちが本と出会い,読書をするための「仲介」的働きの例を,算数・数学教室を出発点とした公文公による「くもんのすいせん図書」,会員家庭に直接配達するシステム(7重点)に見る。基盤に読書対象のグレード・順序の効果への脳機能画像法成果の応用を挙げ,同画像法につき概説した。これらの営為へ批判もあるがそれを把握したうえ,全国SLAの「何をどうよませるか」などとの比較で優位性を例証,先行する諸研究をレビューとも重ね,公文の挑戦が図書館活動に刺激を与え得るとする論及に深みを与えようとした。
埼玉県立図書館(浦和・熊谷・久喜)では,1993年以降,参考調査事例集を作成,更新・累積しWebサイトで公開してきた。2004年にレファ協(NDL)の参加館となる。伴って「レファレンス事例集 担当者マニュアル」「埼玉県立図書館レファレンス事例集の一般公開に関する基準」を作成。前者は改訂を継続中。2008年度,独自の事例集提供を終了し,《レファ協》DBを基盤に県立としての検索サイトを供している。1館,1県立システム,全県ステージを経て全国システムに繋いだ経緯を,検索統計等を土台に報告。下記の事象を効果と評価した。(1)相互批判機能の発生,(2)類似例の悉皆的把握,(3)同県立3館の主題分担。
2004年に立案され,2007年度末「国立国会図書館60周年を迎えるに当たってのビジョン」(館長の名前をとって「長尾ビジョン」)に引き継がれたNDL電子図書館構想を,「萌芽期」「準備期」「離陸期」の3時期に区分,考察した。考察の視点は下記3点である。
1)国立国会図書館の役割と電子図書館構想
2)大規模デジタル化,ウェブ・アーカイビングと著作権問題
3)官と民の関係
NDLの最近10年間を振り返り,広報への傾注,存在感醸成への努力は認められるものの,実際の存在感を高め館界の信頼を得るには,新たなモデルの構築が不可欠であるむね論じた。
学校図書館との連携への公共図書館側の知識等の不足の根源を司書課程の教育に求め,近畿内で次の順に調査を重ねている。
(1)司書課程で学校図書館が如何に扱われているかを調べ,関係テキストを把握。
(2)それらのテキストで学校図書館がどのように扱われているかを調査,集計。
(3)養成課程教員にアンケートする。
(4)以上を総合。
(5)改正省令への意見作成。
今般の発表では,(1)(2)関係で生涯学習論,図書館概論,図書館サービス論,児童サービス論4科目から8点のテキストを採り,学校図書館,連携等に関する記述を摘出し,短評した。また(3)のアンケート項目(案)を提示し,会場に意見を求め,着手を明示した。
《共同研究者》飯田寿美,市川直美,谷嶋正彦,土居陽子,中村由布,二宮博行,羽深希代子
2009年著作権法改正で,NDL電子化蔵書からの,情報検索用サーバへの複製等について,著作権者の許諾外で実施できるむね規定された。重要改正点は,非常に強い権利である映画に無許諾で字幕付加ができるとしたことである。ただし公衆送信は許されない。
以上の報告を基に下記の分析をした。障害者向けのデジタル化は未だ不十分である。主因は音訳,DAISYへの複製件数が少ない点にある。改正法では図書館以外への保障が弱い。
結論として,NDLデジタル・コンテンツの早期広範な提供,障害者向けの公衆送信権の確立,汎用的複製を可能とする法整備,それらガイドライン整備の必要性を論説した。上記実現のための武器として,図書館界における実績,統計を挙げ,その活用の要を論じた。。
図書館法規の改正に基づく諸相の変化を把握し,2012年度からの移行への対応策について検討した。まず,新科目の概要(現行科目との相違),策定経緯,パブコメ,HP上のQ&Aなどの紹介があった。特に新科目,消滅科目について検討。1単位あたり時間数についてについて確認の必要を訴えた。また,新カリキュラムを先行実施すべく立案した大学の事例を紹介。さらに,司書資格取得者の就職難,就職で役立たないという大学内での司書課程の存在価値の低さ,図書館情報学検定試験の有効性と問題点を指摘した。
AACR2(英米目録規則第2版)は‘Cataloging’の語を含まない「RDA(Resource Description and Access)」として全面改訂されるとしてその章構造を示し,またそれへのFRBR(IFLA1997年策定)の影響,枠組み導入の様相を下記のように提示した。
1.FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records)とは
2.RDA改訂プロセスに見るFRBRの影響
3.RDA全体草案に見るFRBRの具体化
また今後の目録規則のあり方,特に我が国目録規則へのRDAの影響につき考察した。
学術機関リポジトリの範囲を(1)に質し,図書館業務か否かを(2)のように追究した。また2006―2009年のデジタルリポジトリ連合プロジェクト,関連イベントを詳細に紹介した。
(1)大学図書館の事業としての学術機関リポジトリは例えば下記のように広範に亘る。
・大学紀要など,自機関刊行物の電子ジャーナルにプラットフォームを提供する
・自機関授与の学位の論文,受託した助成研究の成果報告,灰色文献の電子保管
・自機関の教員等が個々の著作をセルフアーカイブするための手段の提供
(2)リポジトリ業務は図書館労働内に居を占めるのか,他部局との協働がかなうか,電子化内容,迅速度に関する外部対応の責めを図書館が負うのか等,今後の方途を探った。
2009年の法改正「大学における科目」の「児童サービス論」の展開について考察した。講習科目からの離脱を軸に1956〜2009年のテキスト24冊を詳解,下記の点で分析した。
(1)図書館法施行規則内容の項目を数量的にどれだけ掲載しているか。
(2)図書館を構成する4要素のもとに「児童サービス論」として掲載しているか。
(3)資料論中心ではなく,サービス論として必要な項目が掲載されているかどうか。
(4)大学での必修2単位科目「児童サービス論」で教授すべき項目はなにか。
以上の結果,哲学理論的把握,実務的・経営的教育内容による展開の必要を主張した。
利用者行動が多様化し,図書館利用のため「自由」を守る図書館サービスにもさまざまな問題点がでている。また,Web・IT環境の進展で図書館サービスはその幅を広げる可能性を持つと同時に,新たなプライバシー問題や,子どもたちへのネット利用規制をはじめとする資料提供の自由に関する危惧等が出ている。環境が大きな転換期にある今日において「図書館の自由」に立って考えなければならない事案が多い。現場がどう対処するか。今回のシンポジウムでは,理念と実例,諸外国の事情等を交え検討した。
JLA図書館の自由委員会委員長・山家篤夫氏は,「図書館の自由に関する宣言」そのものと国内の近年の関係問題を紹介した。沖縄国際大学・山口真也氏は学校図書館における図書館の自由を中心に収集制限規定の問題を論じた。資料提供に関して未成年者保護や,利用者情報の取材への図書館現場等における対応の問題などについて,共同通信編集委員・佐々木央氏は「外部から見た図書館の自由」を語った。獨協大学・井上靖代氏は米国における図書館の自由をめぐる最近の動向をPatriot lawの影響,SNSなどWebサービスの動向等を含めて提議,論及した。最後に前田章夫・大阪府立中央図書館司書部長が,図書館の自由に関する一間題としての安全管理等を論じた。
研究大会として落ち着いた大会であった。好天気で,会場,同志社大学の良さもあり,大人数の参集があった。京都という地理の人気もあったであろう。下準備,運営も大過なく,同志社大学関係者,特に宇治郷教授のご尽力にあずかるところが大である。発表申込に概要原稿の日限厳守も励行され,当日配布資料も少なく,発表時間も概ね守られた。それが守れなかった,途中で切る形が不適であると意見は分かれたが,総じて評価を得たと見たい。提出予稿が常識的に発表時間を越える分量のものが多く,しかも,発表時の縮約原稿が用意されていないと見ざるを得ない発表が少なくなかった。
発表内容に対しては,評価を得たケースもあったが,グループ研究発表は,総じて「紹介,纏めた発表が多い」,「自己の意見に乏しい」,「研究の何たるかが分かっていない」,「新味がない」,「何のための発表か」,「考察不足」,といった評にさらされた。研究委員会に対して「事前に精査,チェックすべき」と厳しい意見が寄せられた。発表のための「概要」の提出を厳格にし,予稿集にも完全原稿を掲載すること等は前年得た結論だが,厳格に実行できなかった。新年度の大会発表の受付では,研究委員会から,各グループに自己評価を求め,年間活動の総括,研究としての新知見性の申告をしてもらうよう,理事会から助言を得ている。これを実行し,精鋭を選りすぐった発表とする。ご協力をお願いしたい。
「図書館の自由」をテーマとしたシンポジウムは,議題そのものへの評価は得た。しかし,次の点に批判を受けた。(1)メンバーの構成,(2)時間配分:特にコーディネーター自身の発言に時間を取りすぎた,(3)フロアの有為の人材を活かさなかったこと,等の点である。
(文責:志保田務 研究委員長,桃山学院大学)
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