TOP > 大会・研究会等 > 研究大会 > 2008年度 / Update: 2009.7.17

第50回(2008年度)研究大会全体報告

2009年2月22〜23日
於:神戸山手大学・神戸山手短期大学

日本図書館研究会

第1日目 / 第2日目 / 参加者感想 / 若干のまとめ
開催案内(スケジュール表等)
*詳細報告は、『図書館界』61巻2号に掲載しています。

 2008年度研究大会を兵庫県で開催した(3年で巡回)。第一日目は個人及びグループ研究発表,第二日目は「図書館サービスの持続的発展を探る:生涯にわたる学びを支える図書館からの発信」と題してシンポジウムを行った。150名(延べ243名)の参加があった。なお第50回を記念して,酒井忠志名誉会員に講話をお願いした。

第一日目の概要(参加者130名)

〈個人研究発表〉

司会:渡邊隆弘,日置将之

1. 立花明彦(静岡県立大学短期大学部)
「英国における視覚障害者への図書館サービスに関する研究:第2の録音図書館・カリバー録音図書館(Calibre Audio Library)の特色と役割についての考察」

 日本では全国約80館の点字図書館が点訳・音訳ボランティアを養成し,点字・録音図書を制作,利用に供している。横並びのサービスであり,立体化・ネットワークが必要だが,国主導のそれは米国・北欧のようには現実期待できない。民間で基幹施設を設立するほかなく,発表者は英国にモデル・示唆を求める。2006年以来,民間機関RNIBに属する図書館サービス部門「トーキングブックサービス」とNLB(英国盲人図書館)の2機関が役割分担。この下にパイプ役の第二の図書館があるが,本発表はこれを的に,その一つCalibre Audio Libraryでインタビューを行い,関連資料を通して考察した。

2. 鈴木史穂(安積黎明高校図書館・東北大大学院)
「子どものための情報ナビゲーション:公共図書館における児童資料の組織化を中心に」

 子どもたちの読書・情報環境は,近来大変貌を遂げた。ケイタイなど多様な媒体の中で生活している。図書館はどのように情報を届ければよいかを考えるため,2008年6月都道府県立図書館と,Web‐OPACが検索できるようになっている市町村の公共図書館を対象に尋ね,子どもたちにどのような情報ナビゲーションをしているのか,児童資料の組織化(分類・目録・配架)を中心に調査した。組織化に十分効果を得ていない例,独自の接触で検索を助けている図書館の例等を把握し,総合的に評価した。

〈グループ研究発表〉

司会:木下みゆき,家禰淳一

1.湯浅俊彦(「マルチメディアと図書館」研究グループ)
「日本における電子書籍の動向と図書館の役割」

 出版コンテンツのデジタル化が急進している。紙による情報資源の提供は2006年をピークに明白に下降し,2007年10代女性では携帯電話による読書の割る合いが書籍によるそれを超えた。電子書籍への注目が高まっているとして,出版コンテンツの流通を横軸に,「Web図書館」を縦軸として今後の公共図書館の役割について検討した。

2.中西美季,日置将之(児童・YA図書館サービス研究グループ)
「文庫と公共図書館の関係について:アンケート調査による大阪の現状」

 文庫に関する検討は昨年度の史的検討から,今年度は,現在の文庫と公共図書館の関わりや文庫運営の状況等を把握するため,アンケート調査を実施した。図書館,文庫とも多様であり,文庫が図書館づくりで果たした役割も,図書館が文庫を支援した活動を把握しようとしたものである。結果,総括して一般論を述べることは難しいことが判明した。しかしその多様性をもとに,現代,社会状況等を勘案して文庫と図書館の関係をつなぎたいとまとめた。

3.加藤ひろの,村林麻紀(読書調査研究グループ)
「中小公立図書館における蔵書構成と利用実態について」

 公立図書館における利用と所蔵の実態を調査し,利用者のニーズに応える蔵書構成を検討した。次の点にポイントをおいている。

 調査方法としては,ネット上のOPAC検索による調査と現地調査の2つを用い,ニーズの高い資料や著者の所蔵・予約状況などを見た。調査対象館は,児童書の丁寧な選書で知られる館,予約が大きい館など,特色を持つ自治体の児童書・一般書について,著作,著者等をあげ,所蔵数・タイトル数・予約数を尋ねた。
 中小公立図書館の蔵書構成がニーズへの対応の成否は館ごとに差異がある,児童書で差が激しい,分野間の差もある,以上を把握した。
 また,図書館はニーズの変化に対応しきれず,蔵書への反映が遅れがちになっている。一方地方では,流通条件の悪い中小書店に比べて,図書館は読者の期待に応えていると判断。専門職的経験の積み重ねで,ニーズに対応した豊かな蔵書構成をするところに図書館の意義がある,と結論した。

4.川崎秀子(図書館学教育研究グループ)
「司書養成カリキュラムの今後,展望-〈大学において履修すべき図書館に関する科目〉をめぐって-」

 図書館法第5条1項の改正により,講習科目【14科目20単位】依存状態から脱し,省令に規定される大学において履修すべき図書館に関する科目の検討経過(下記2案)を整理し,最終案を評価し課題を示した。

 発表者は上記2案の次の点を評価した。

 また下記の点を批判した。

5.渡邊隆弘(情報組織化研究グループ)
「〈次世代OPAC〉への移行とこれからの目録情報」

 次世代OPACの諸機能が実効性をもって動作するために,今後目録情報で重点的,新たに整備されるべき事項を整理・考察した。
 次世代OPACはGoogleとの対比で語られることが多いが,対象情報を圧縮・構造化したメタデータの存在を前提とする図書館目録においては,個々の資料に対する目録情報のありかたにも焦点があてられるべきである。各要素の種別が管理されないシステムが広範に使われているが,書誌情報の内実を問いただす必要がある。
 目録情報整備の観点,特に伝統的に構築されてきた既存の目録情報どう改善するという観点から,次世代OPACを考える。なお目録規則をめぐってもRDAや国際目録原則など多様な動きがあるが,当発表は,次世代OPACの諸機能の実効性を考察したものである。目録規則関係については,実運用面に触れるにとどめた。


酒井忠志名誉会員
〈第50回記念講話〉「研究大会を始めた頃」

 日本図書館研究会が開いていた研究グループ合同発表会を,1967年,統一テーマを掲げた「研究大会」とした。前歴から通算して第9回と称した。テーマは「市民の権利と図書館」だった。『中小レポート』から4年,日野市立図書館建設から2年,『市民の図書館』(1970)が準備中だった。
 〈その1〉発表として,小倉親雄「アメリカの公共図書館:その起源と伝統」と森耕一「バークベックと職工学校」がなされた。〈その2〉は活動に評価のある館からの事例研究だった。「貸出とレファレンス・読書案内:日野市の場合」(前川恒雄),「読書会について:七尾市立図書館の場合」(笠師昇),「〈動く図書館〉による家庭読書のすすめ:豊中市における」(白瀬長茂),の3件である。
 『図書館界』100号,101号に論文その他の記録がある。「近来にない充実した大会であった」との評があった。そうした研究大会が50年間も継承されているのは驚きである。

〈図書館研究奨励賞〉

受賞:安田 聡氏(豊田市中央図書館)「レファレンスサービス12年間の軌跡-豊田市 中央図書館での経験から」(本誌59巻3号)

〈会務報告〉

事務局

第2日目の概要(参加者113名) 司会:高鍬裕樹,村岡和彦

シンポジウム「図書館サービスの持続的発展を探る:生涯にわたる学びを支える図書館からの発信」

 山本順一氏は,教育基本法改正に伴う教育三法と,社会教育法,図書館法,博物館法の社会教育三法の改正を対象として,「図書館をめぐるこの国の法的枠組みは変わったか?」と問いかけた。構造的に好転したわけでないこと,改悪?された部分,特に教育委員会関係に注目した。

 谷邦子氏は,大阪府の場合に集中しつつ,市場化テスト,大阪国際児童文学館などへの地方行革の断行を指摘,批判した。

 西野一夫氏は,図書館法改正を巡る動きの中で活発なロビー活動を展開し,国会議員などへの訴えと,活動の成果として,衆参両院の委員会採決で指定管理者制度牽制の文言が挿入されたことなどを挙げ,こうした活動が今後重要なポイントと述べた。

 塩見昇氏は,教育基本法の改定に伴い,各自治体では教育振興基本計画の策定が求められることになった。これを逆に図書館活動に生かす一歩とする可能性を指摘した。また図書館法改正での活発なロビー活動をここにおいても展開することができるか検討する必要を訴えた。

 参会者の討議豊かに,今日まで図書館界が展開してきた活動を基盤として,現今の法・行政の構造的転換点に立つ図書館が今後とも持続して発展していくための道筋を探った。


参加者の感想から(全部ではない)

〈発表全体に対して〉

〈個人発表について〉

〈グループ発表について〉

〈シンポジウムについて〉

〈運営について〉

〈酒井名誉会員の講話〉

〈今後取り上げてほしいテーマ〉


[若干のまとめ]

 全体的に「現代的課題で勉強になった」など,「よかった」との評が多かった。“前年にくらべて"との枕詞がつけられた意見もあったが。

 個人発表は,好評面もあり批判は少なかった。発表意欲を基礎としており,発表申込に概要原稿が厳密に出されているからであろう。

 グループ発表については時間厳守とした。それが「守れなかった」「途中で切る形が不適である」と意見は分かれたが,総じて評価を得たと見たい。もっとも,発表グループ数が少なかったことが時間面の余裕を生んだとも思われる。発表内容に対しては,評価を得たケースもあったが,「紹介,纏めた発表が多い」「自己の意見に乏しい」「考察不足」といった評もあった。「発表前に内部討議したか」「研究ができていないグループは研究グループ助成金の返還を」「研究委員会が〈事前に精査したか〉」「事前のチェックが大切」といった厳しい意見もあった。
 発表のための「概要」の提出を厳格にし,予稿集にも完全原稿を掲載すること,そうでない場合はプログラムから外すなど,参会者・聴衆に目線をおいた決断が必要と感じさせられた。

 シンポジウムについては,「今日の危機的状況をまさに取り上げたテーマ」との評価が多かった。ただ,質問過多との批判があった。“予定質問"を次の方々にお願いしていたのである。永利和則(小郡市立図書館),中道厚子(大阪大谷大学),石橋進一(枚方市立図書館),福西敏文(子どもの読書と教育を考える会)。当方としてはこれによって議論の深まりを得たと感謝しているが,不要との感想もあった。

 会場からも活発な質問・意見が出された。質問用紙を用いたが,これも今回発案したもので,質問過多との批判の一因となったであろう。

 運営については,ほぼ好評を得たと考える。とくに,前年度の反省に立ち,会場大学との綿密な連絡,下見を重ねたことが有効と考える。

 酒井名誉会員の講話には大いなる賛同を得たが,企画が遅れ,時間の設定に不足があった。

 今後取り上げてほしいテーマは,先に記したように多々あった。複数人からあったものは,「養成・研修,図書館員の教育」「資料費問題」「支援サービス」などがあった。「図書館評価」もその一つであるが,第45回大会でテーマとしている。

 50回記念大会を無事終えたが,講演者,参加者のお力と,会場をお貸し下さった神戸山手短期大学・川崎佳代子学長のご協力のおかげである。研究委員会として深くお礼申し上げたい。

(文責:志保田務 研究委員長,桃山学院大学)