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第47回(2005年度)研究大会全体報告

2006年2月19〜20日 於:桃山学院大学

日本図書館研究会

第1日目 / 第2日目 / 参加者感想
開催案内(スケジュール表等)
*詳細報告は、『図書館界』58巻2号に掲載しています。

今年の運営の特徴

 2006年度第47回研究大会は,全国各地から多数の参加者を得て,大阪府和泉市の桃山学院大学を会場として開催した。参加者総数は158名であった。

 今大会の運営上の特徴は,研究会として初めて分科会方式を採用したプログラム編成を行ったことである。ただ,参加者アンケートからもわかるように,この方式での運営には賛否両論があった。

 シンポジウムに関しては,「多様な図書館の管理形態」をテーマとし,具体的には指定管理者制度を中心的な話題として報告論議が行われた。内容は各報告に譲るが,大会2日目の月曜日という設定にも関わらず多数の参加者があり,この問題についての関心の深さを表す結果となった。

 ここでは,当日の報告及びレジメ等から大会を再構成し概観しておきたい。

第一日目の概要

〈個人研究発表〉

「録音図書のデイジー化における利用者のニーズについての考察」
立花明彦
(静岡県立短期大学)
 国内の点字図書館等視覚障害者情報提供施設でDAISY(Digital Accessible Information System)の制作と貸出が開始されたのは1998年であるが,早くも2002年でテープ図書の貸出を上まわる状態になった。このことを受け,今後のDAISY図書の計画的促進のために,利用者ニーズ調査を行った。その結果,DAISY図書を増加させるためには「文学書」,「医学・薬学」等の分野を意識した提供が必要であることがわかった。
「CIPA合憲判決とCOPA違憲判決の検討:情報を止める位置について」
高鍬裕樹
(大阪教育大学)
 2000年に米国で成立した「子どもをインターネットから保護する法律」(Children Internet Protection Act:CIPA)と「子どもをオンラインから保護する法律」(Child Online Protection Act:COPA)は,ともにインターネット上の「未成年に有害」な情報から子どもを保護することを目指したものであるが,これらについての憲法判断が分かれた。情報を受信側でせき止めようとするCIPAと,発信側への措置義務を課したCOPAの違いが現れた形である。
「電子ジャーナルの長期保存と3つのアプローチ」
後藤敏行
(東北大学附属図書館)
 電子ジャーナルの誌数及び利用者数の増加に伴う長期的保存にどのように取り組むかを,第三者機関による保存を考える「集中アーカイブ」,雑誌購読者が自らの購読コンテンツを保存する「分散アーカイブ」,機関内学術情報生産者の協力をもとに蓄積配信を図る「機関リポジトリ」の3つの観点からこの問題について考える。現状からは,広報や保存のためのプロジェクトなどの立ち上げが必要になるのではないか。
「情報リテラシー科目のeラーニング化と図書館の役割」
小松泰信
(大阪女学院大学)
 大学全入時代が現実のものとなってきた昨今,受け手の要求に応じた教育体制の多様化が必要とされている。情報通信手段を活用した個別形態の学習が実践されている大阪女学院の事例では,eラーニングの手法により学習者と教員などの学習支援者の間で非同期的支援が可能となった。また,自分の進捗に併せて学習することのできる図書館が,あらたな学習空間として見直されるなど,将来の図書館サービスの展望を考える上で好機である。
「市民が作る子どもの読書環境」
鈴木嘉弘
(掛川市子どもの読書活動を考える会)
 「子どもの読書活動推進法」を契機として,掛川市の「子どもの読書活動推進計画」を策定するため,2002年12月の準備会を経て2003年12月に,市民グループ「掛川市子どもの読書環境を考える会」が結成された。このグループによる「計画」策定にいたる2年間の活動の報告が行われた。

〈グループ研究発表〉

「「レファレンス」をめぐって:省令科目内の位置づけの再検討を中心に」
前川和子,志保田務,中村恵信(図書館奉仕研究グループ)
 レファレンスサービスは従来図書館サービスとして重視されていたものであり,その手段など時代的進展を見せている。このレファレンスサービスを基盤として,司書教育が実際的に依拠している省令科目,情報サービス関係科目の構造,定義について1999年に発表したが,その後,情報環境が変化する中で再考の余地が生じている。それらの点の今日的実態を把握し,その改正を睨んで考察する。
「セマンティックWebと資料組織法:概念体#2;0N系管理の今後」
渡邊隆弘(整理技術研究グループ)
 資料組織法において近年停滞する主題アクセス法の改善可能性として,オントロジの手法を考察する。オントロジとは,対象世界の基本概念や概念間の関係を体系づけたものであり,あくまで分散・非集権的な情報を前提として共有(相互利用性)を目指すセマンティックWebにおいて,「意味」の共有を扱う。この手法のシソーラスへの応用では,より機械処理になじむ概念管理,階層関係だけでないより緻密な関係構造の表現が期待される。
「図書館職員養成課程のFD」
柴田正美(図書館学教育研究グループ)
 現行の司書・司書教諭養成科目の成立からおよそ10年,時代は変化し,これらの科目をとりまく環境も変化した。その結果,次第に現実との乖離が進んできている状況がある。そこで,これらの改善改革のために実態を把握し,来るべきカリキュラム改訂に備えることを目指す。このため,受講生を中心としたアンケート調査を行い,授業改善の内容を司書・司書教諭教育担当者全員の共通認識としていくことが求められる。
「少年院内図書室についてのアンケート」
脇谷邦子(児童YA図書館サービス研究グループ)
 今から40年前に始まった,大阪の図書館と少年院との交流の歴史及びその内容の詳細について,多くの図書館及び少年院関係者へのインタビューを中心に明らかにする。加えて,少年院へのアンケート結果等も踏まえて,少年院の読書環境や読書の活用方法について概説し,読書活動の意義について考察する。また,矯正図書館基準案についても触れ,少年院への図書館サービスを進めるための法務省矯正局と図書館双方の役割について考察し,図書館で実行できる具体的な取り組みについて提案する。
「科目「情報検索演習」の調査とその検討;試行」
藤間 真(情報システム研究グループ)
 現行の司書課程科目の特徴となっている「情報検索演習」(1単位)の内容について,科目が設けられて10年になるが,これまでに全体を概観する試みはなかった。このため,この科目の実情を明らかにする調査に取り組んだ。今回は予備調査として各大学の講義計画を収集し,比較分析したところ,検索以外の内容も含まれていたりする実態が判明してきた。今後,他の科目との相対関係や図書館員に必要な検索技能等について研究を進める。
「オープンソースと図書館システム―導入への評価モデル―」
村上泰子,北克一(「マルチメディアと図書館」研究グループ)
 近年日本ではLinuxに代表されるOSS(オープンソース・ソフトウェア)の導入が加速している。図書館におけるOSSの導入は1999年にLibrary Journal誌に言及され,現在までに多くの図書館向けOSSが開発されたが,OSS導入には,コスト削減や独自に改良・拡張可能という利点の一方,法侵害(システム同士の連携)・技術面(セキュリティや品質)・運用上(サポート)等のリスクがあり,導入の各段階で評価を要することになる。
「平野勝重氏インタビュー報告」
奥泉和久,小黒浩司(オーラルヒストリー研究グループ)
1 上田市立図書館の新館建設(1970)の背景には,母親たちを中心とする粘り強い図書館づくり住民運動が存在した。この経緯を当時の上田市立図書館司書である平野勝重氏の証言等によって再検証する。この運動の意義として,(1)大正デモクラシーとの関連性(母親運動が図書館経営に繋がることができた理由としての,同館図書館協議会の猪坂直一の働き) (2)住民参加による図書館づくりの模索 (3)住民との関係性を重視した図書館経営を挙げる。

第2日目の概要

シンポジウム「多様化する図書館の管理運営」

 今回のシンポジウムでは5人の方々に報告をお願いした。東京学芸大学の山口源治郎氏には公立図書館の全般的な視点から基調報告をしていただく。壽初代氏(前・和泉市立和泉図書館)には,住民サービスを進める行政の立場から,館長時代の体験をお話しいただく。清水昭治氏(堺市の図書館を考える会)には,住民として指定管理者制度反対運動を展開してこられた立場からお話しいただく。西野一夫氏(川崎市立中原図書館)には,自身の図書館の直面している課題とともに,『図書館雑誌』編集長として全国の事情に精通しておられる立場も交え,お話しいただく。最後に,名古屋大学の中嶋哲彦氏から,専門の教育行政,教育法的な観点からこの問題についてお話しいただき,その後,全体討議を進めていくことにしたい。

 司会は研究委員会から、志保田務(桃山学院大学),木下みゆき(大阪府立女性総合センター情報ライブラリー)がつとめた。

「山口源治郎氏(東京学芸大学)
 図書館経営の多様化の経緯と内実,特に「構造改革」が何をもたらしたかを概観し,それがどのような理論的・実践的な問題を提起しているのかを検討する。特に,80年代京都の管理委託問題から,90年代,2000年代の構造改革につながる図書館における雇用破壊の進行の問題(非正規化,アウトソーシング),図書館サービスと図書館員の専門性の劣化の問題がある。また,「構造改革」による公立図書館行政・サービスの役割や社会的性格の転換が見られる。そこには「公共性」の変質の問題や「公立図書館」概念の問い直しの問題などがある。
壽 初代氏(前・和泉市立和泉図書館)
 和泉市は近年開発が進み人口が急増した地域である。これに伴い新図書館建設の要望が市民より起こり,和泉シティプラザ図書館が2003年4月に開館した。本市では窓口業務に一部委託を導入している。その要因として,市民サービスの向上(開館時間・開館日の拡大や専門職の確保),効率的な財政運営の追求がある。職員を雇うことは至難であり,アルバイト体制では熟練職員が育たない問題があった。90%の司書配置等を仕様として委託業者を選定した。
清水昭治氏(堺市の図書館を考える会)
 堺市の図書館に指定管理者制度導入の動きあり。2006年4月の全国で15番目の政令指定都市となった。このなかで,2005年に開館する予定であった東図書館に指定管理者制度導入計画が示された。これに対し,「堺市の図書館を考える会」が中心となり民営化を撤回させる運動を行った。
西野一夫氏(川崎市立中原図書館)
 サービス内容の見直しや電算機の更新によって,貸出,予約の件数が急増した。その結果,このことに伴う課題が発生してきた。カウンター業務,予約関連の業務で7割の時間がかかり,本来の目的としての読書・文化・学習を支援する図書館の役割に影響を与えている。このような問題への対応が求められているなかで,この問題をとらえていきたい。
中嶋哲彦氏(名古屋大学)
 「公立図書館への指定管理者制度の導入〜公共サービスの民間開放と社会教育機関の管理運営〜」をテーマとしてお話しいただいた。2003年,地方自治法が改正され,公共サービスの民間開放を推進する政府方針から,公の施設の外部委託を可能にする指定管理者制度が導入された。これを歓迎する自治体も見られるなか,一方で,公共サービスの質の低下への懸念や平等提供原則への危惧も生じてきた。こうしたことについて文部科学省の受けとめかたはどのようなものであったのかを検証する。

(文責:寒川登 研究委員長)


参加者の感想から

〈個人・グループ研究発表について〉

〈シンポジウムについて〉

〈運営について〉