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日本図書館研究会研究例会(第361回)報告 1


日 時:2020年10月18日(日)10:00〜15:00
会 場:エルおおさか南ホール(南館5階)
    *オンラインでも開催
共 催:エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

例会1(10:00〜12:00)
テーマ:寄贈図書による文庫
発表者:西野 稔氏(アジア図書館)
参加者:44名(現地20名,Web24名)
 本を処分したい人はどこでその本を片づけるだろうか?知識のかたまりである本をゴミとして捨てることに気
が滅入る人も多いと思う。そんな人が本を引き渡すところに寄贈図書の文庫がある。この文庫について調査した。
 寄贈図書による文庫はどこにあるだろうか?通勤や通学で日々使う公共の場に文庫がある。地下鉄,モノレー
ルや私鉄の駅に,バスの停留所,まち角にある。北海道から東京,名古屋,福井,大阪,長崎,大分,宮崎など
全国に存在している。一方,病院でも寄贈図書は役立っている。入院患者や外来患者に向けての文庫が病院内に
ある。また図書館も寄贈図書を受けいれる場所であり,図書館の蔵書に余る本が,寄贈図書の文庫として図書館
外に設置されている。市町村のごみ収集の場でも本を回収してリサイクル本として再活用している自治体がある。
 文庫が設置されている場所は,駅(改札内,改札外),道路脇といった屋外と,病院,役所という屋内である。
書棚は,スライド式やソファーと一体というように立派なものもある一方,スチール製本棚やボックスに入れる
だけという簡易なものもある。文庫の蔵書については小説が中心だが,ビジネス書,医学書,歴史書,旅行書,
絵本などがあり,場所によってはマンガや洋書もある。それぞれの文庫では蔵書印を押して,自由に貸し出す文
庫ではあるが,読んだ後で返本してもらうように促している。
 寄贈図書の文庫は,「本の提供者」「本の利用者」「設備の維持者」という三者を利害関係者として成立して
いる。
 大阪モノレールの文庫を,第三の空間として利害関係者,特に「本の利用者」がどんな行動をとっているのか
を観察した。駅構内のため乗客は常にその前を通っている。チラッと見る程度の“消極的行動”もあるが,文庫
を目指してきて本をとり出して確認,選択したり,休憩所のベンチに座って読んだり,借りて行ったり,本を返
却したりの“積極的行動”をとる人がいる。駅の文庫と休憩所をあわせて自分の居場所,第三の空間として積極
的に活用している乗客が居ることが分った。一方「本の提供者」は本を処分するために持ってきている人が多く,
大掃除,引っ越しの季節の寄贈が多い。「設備の維持者」として,駅員は巡回や清掃の折に文庫の状況を確認し
て,問題のある本の取り除きや本の整理をしている。
 この利害関係者の三者がうまくバランスして活動することによって,寄贈図書の文庫は成立している。このた
め本の提供が少なくなったり,設備の維持管理が疎かになれば,蔵書の質は低下して文庫として成り立たなくな
る。このため文庫の「蔵書の質」を維持するため,関係者がマスコミなどを通じて広く本の寄贈を求めたり,地
元の高校との協力で文庫の維持管理をしたりすることがある。この三者の利害関係者の協力により寄贈文庫が成
立していることがわかった。
 今回は,鉄道の駅の文庫を調査したが,今後は病院内の文庫や,第三の空間としての鉄道・駅と本との関係に
ついて調査を行いたいと考えている。
                                    (文責:西野稔 アジア図書館)