TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2019年度 > / Update: 2020.3.1

日本図書館研究会研究例会(第353回)報告


日 時:2019年12月28日(土)10:00〜12:00
会 場:大阪府立中之島図書館 別館2階
テーマ:図書館における非正規雇用を考える:同一労働同一賃金と会計年度任用職員は図書館労働を
    画期的に改善するか
発表者:原田 安啓(姫路大学)
参加者:44名

※図書館を学ぶ相互講座2019年度第9回・図書館サービス研究グループ2019年12月研究例会と共催

発表概要
 働き方改革は,同一労働・同一賃金の原則を掲げ従来の日本的労働から独仏型に近い環境に移行しようとする
 もので国の本気度が窺える。同じく公務員労働を改善するためとして,「会計年度任用職員」を登場させた。
 自治体の条例化の実態をみる限り,フルタイムには相当の改善があるものの,非正規の大多数を占めるパート
 タイムにはそれがあまり見受けられない。働き方改革に非正規公務員労働は水を差しかねない。
1.働き方改革の背景
 日本は,少子高齢化が進み,労働力も減少する一方で年金や医療・福祉費用が増大し続ける。GDPは伸び悩み
(国民1人当たり名目GDPは2018年IMF統計26位),低成長のままでいる。政府(厚労省)は「成長と分配
の好循環」の旗じるしの下で経済成長をはかり,局面打開をはかるために労働生産性の向上を重要施策と位置づ
けた。これが機会均等,均衡原則による「同一労働・同一賃金」となって,2020年4月から実施される
(中小企業は2021年4月)。
 同時に,70万人ともいわれる(自治労2016年統計)非正規公務員(職員)の労働改善(生産性向上)を
はかるために出てきたのが,総務省による「地公法」「自治法」改正に伴う「会計年度任用職員」である。
2.会計年度任用職員
 総務省の事務処理マニュアルによると,会計年度任用職員は補助的条件付(会計年度末まで)職員と位置づけし,
(自治体労働は)任期の定めのない常勤職員(正規)を中心とする原則を前提とした上で,マニュアルの指針によ
り自治体が条例化後任用する二段構えの構図となっている。
 採用には競争試験または能力実証を行う必要あり,任期は1年だが再任を妨げられないが,このとき「新たに設
置された職」と位置付ける。今まで恣意的に各自治体がバラバラな基準で任用していた「非正規職員」のうち特別
職非常勤職員(地公法3条3項3号)は,省令で定める有識者等に厳格化,臨時職員(地公法22条),は常時勤
務を要する職の欠員に限定し,枠外の職員は,一般職非常勤職員(地公法17条)に合流させた後,会計年度任用
職員とする。会計年度任用職員はパートタイム(22条の2第1号)とフルタイム(22条の2第2号)に分かれ,
1号(パート):報酬+費用弁償+期末手当
2号(フルタイム):給料+諸手当・退職金
が支払われる。なおフルタイムとは週38時間45分勤務する職員のことで,これより1分でも短ければパートタ
イム職員に位置付けられる。
無期雇用・正規化
 民間の有期労働者は労働契約法18条により,5年を超えかつ事業者に希望すれば無期雇用に転換できるが,公
務員には適用されない。また公募の導入により,長年の継続雇用も厳しくなる(雇用継続期待権の阻止)。正規職
員になるには当該自治体の採用試験を受ける道しかない。
3.各自治体条例化の実際
 全国の自治体数は1727団体,ほとんどの自治体に非正規職員がいるから大部分の自治体で進むことになる。
2019年11月現在条例化のできた自治体数の把握が困難で,公表されているのも限られる状態だが条例化の傾
向を見てみる。
 1号(パートタイム),2号(フルタイム)とも総務省の事務処理マニュアルに沿う形で報酬や給与を支給する
としていて,パートタイム職員にも期末手当を支給する自治体がほとんどとなっている。
(1)1号(パート),2号(フル)職員とも規定している。:この種の条例化自治体が最も多い。
(2)フルタイム職員は想定していなくて,パートタイム職員のみを規定する。:東京都初め道府県に多く一部区
市がこれに続く。
給与(報酬)の決定
(1)会計年度任用職員用の給料表がある。
  県市町共多くの自治体が給料表を作成している。
(2)当該区市の常勤職員の給料表を使用する。
  杉並区や徳島市などでこれも多い。
(3)上限額を決め任命権者が決定する。
  県区市共にあり,最も多い形かもしれない。
(4)給料表無し。堺市や神戸市など。ただ神戸市は規則に委任しているが,最高裁判決(H.22.9.10)に
違反する恐れがある。
任用職員の給料表がある自治体の具体的内容
1級(定型・補助的業務)(単位:円)
  1号144,100〜93号247,600
2級(専門的知識・技能)
  1号194,000〜125号304,200
3級(相当高度な知識・教育職など)
  1号230,000〜177号358,400
 これとは別に非常に低い例(福岡市)もある。
 *号給・金額は自治体によって異なる。
現行の非正規の図書館員の位置づけ
 現在臨時・非常勤の図書館員はどう位置付けられるかは,実際の任用を待つまで不明だが,甲府市の例では,1級
補助的・定型的業務に保育士と司書を位置付けている。
4.懸念される事項
 厚労省が主導する「同一労働・同一賃金」は機会均等・均衡のためのガイドラインを有し,合理・不合理を判断す
る基準を示し,裁判での労働者側・事業者側の主張事項にまで踏み込み,解決機関として行政によるADR(訴訟手続き
によらない紛争解決の方法)を行うなど,政府の本気度の高い制度設計となっている。
 一方「会計年度任用職員」では,総務省の「事務処理マニュアル」はあるが,待遇を決定するのは自治体の条例に
基づく任命権者の任用によるという二段構えの制度設計である。
 パートタイム(週38時間45分未満)とフルタイムに二分していて,フルタイムは相当の改善が見込まれるが,
おそらく圧倒的に多いと思われるパートタイム職員は期末手当のみの改善にとどまり,むしろ条例化によって較差が
固定化される恐れがある。
 公務員には労働契約法やパートタイム・有期雇用労働法非適用のため,自治体に「無期雇用転換」義務はなく,較
差を埋める義務もない。また継続雇用が可能とはいえ,期限付き(会計年度末まで)職員であることと,上限額を決
められる(全国市長会)ため,数年で頭打ちとなる可能性がある。
 結論としては,2020年4月以降の条例化後の任用状況を注視することに尽きる。
                                                                            (文責:原田安啓 姫路大学)