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日本図書館研究会研究例会(第348回)報告


日 時:2019年5月31日(金)19:00〜21:00
会 場:関西大学梅田キャンパス702教室
テーマ:関西大学KU-ORCASのデジタルアーカイブプロジェクト
発表者:菊池 信彦(関西大学アジア・オープン・リサーチセンター)
参加者:8名

 2017年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された関西大学アジア・オー
プン・リサーチセンター(KU-ORCAS)のプロジェクトについて,KU-ORCASの菊池信彦が報告を
行った。
 報告前半ではKU-ORCASのプロジェクトのコンセプトやその内容,センターの様子について紹
介を行った。まずは,広報用のYouTube動画をもとに,KU-ORCASのプロジェクト全体の概要につ
いて説明した。KU-ORCASは,東アジア文化研究のためのデジタルアーカイブの構築と研究,そ
れを通じた研究のブランディングを目的としたプロジェクトである。「研究のブランディング」
を端的に表現すれば,「東アジア研究といえば関大,関大といえば東アジア研究」と,研究者は
もとより,図書館員や一般の方にも広く認知されることを目指すものである。
 本事業の根幹には,IIIFに対応したデジタルアーカイブの構築と運用がある。そこで提供され
るコンテンツは,主に関西大学図書館の所蔵資料であり,これにKU-ORCASの研究者の個人蔵書が
加わる。具体的には,東西言語接触に関する資料群(例えば辞書や文法書等)や,関西大学の一
大コレクションである泊園文庫や大坂画壇コレクション,そして,飛鳥等の考古学研究資料であ
る。KU-ORCASでは,「研究リソースのオープン化」の名のもとに,これらの画像に対してパブリ
ックドメインマークを付与し,また,書誌データをクリエイティブコモンズライセンスゼロ
(CC0)で提供している。公開時点の資料点数は3,000点程度と小規模だが,今後も公開点
数を増やしていく予定である。
 KU-ORCASのコンセプトは,前段の,そしてセンター名にも掲げられている,「オープン」にあ
る。KU-ORCASでは,「研究リソースのオープン化」のほかにも,「研究グループのオープン化」
「研究ノウハウのオープン化」そして「研究成果のオープン化」(ただし,「研究成果」に関し
ては策定途中)を事業計画に掲げている。「研究グループのオープン化」では,YouTubeを使っ
た教育リソースの配信をしており,今後は,クラウドソーシングシステムを通じた翻刻プロジェ
クトを予定している。「研究ノウハウのオープン化」では,デジタルアーカイブの構築やデジタ
ルヒューマニティーズにおけるデータ利活用の方法を共有するポータルサイトの公開に向けた準
備を進めている。最後に,「研究成果のオープン化」によって,学術論文や講演会等のイベント
の記録をオープンアクセスとして公開することも計画している。
 報告の後半では,KU-ORCASが抱えている問題や課題について述べた。ここでその詳細を踏み込
むことはしないが,特に重要なのが,文部科学省による私立大学研究ブランディング事業の見直
し,すなわち,助成期間の短縮とその影響である。この事業見直しによって,当初5か年計画で
あったものが3か年に短縮され,今年度をもって文部科学省からの助成が終了することとなって
いる。現在のところ,KU-ORCASのプロジェクト自体は規模が縮小する可能性はあるものの,当初
予定していた年限は継続する方針である。しかし,助成の打ち切りによって,デジタルアーカイ
ブの継続的な運用や追加開発,そしてそこで公開するデータを利用したデジタルヒューマニティ
ーズ研究の見通しが立てられなくなってしまった。文部科学省の決定は,デジタルアーカイブの
存続を危うくさせ,ひいては大学における教育と研究の基盤を損なわせものであることは,ここ
で改めて記しておきたい。
 以上のような流れで報告は終了し,最後に質疑応答に移った。質疑応答では,図書館等のデジ
タルアーカイブと大学で研究活動の一環として作成されるデジタルアーカイブの位置づけが異な
ること,コンテンツやメタデータのライセンスに関する検討経緯等,率直な意見が交わされた。
                                                                      (文責:菊池信彦)