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日本図書館研究会研究例会(第345回)報告


テーマ:災害時における男女共同参画センターの情報機能の役割に関する一考察:
    阪神・淡路大震災から熊本地震までの連携・協力を中心に
発表者:木下 みゆき(大阪大谷大学)
日 時:2019年1月26日(土)14:00〜15:30
会 場:大阪大谷大学ハルカスキャンパス LectureRoomB
参加者:8名

1.はじめに
 平成29年度から日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究C)により,岩手大学男女共
同参画推進室の堀久美氏を研究代表者として,女性の震災記録活動がもつ新しい社会創造に果
たす役割と可能性についての実証的研究に取り組んでいる。その一環として,一昨年9月から
11月にかけて,被災地の男女共同参画センター(以下,「男女センター」という。)の情報
部門担当者を対象に,地域の女性が発信した震災記録の収集や提供について男女センターが担
った役割や機能の実態を把握したいと考え,研究代表者と共にヒアリングを行った。

2.『災害時における男女共同参画センターの役割調査報告書』より
 東日本大震災翌年の平成24年3月,内閣府男女共同参画局が『災害時における男女共同参
画センターの役割調査報告書』を発行した。調査の目的は,「東日本大震災に際して,被災地
の男女共同参画センター及び全国の主な男女共同参画センターがどのような被災者支援や災害
・復興対応を行ったかを明らかにし,男女共同参画センターの災害時における役割と課題を検
証する」ことと記されている。当調査の平成23年8月,つまり発災から5か月時点で,回答
のあった82施設のうち,71施設(86.6%)が被災者支援等なんらかの活動を実施した
と回答している。実施報告内容のうち,情報関連機能に該当する事項をピックアップすること
により,この時点で明らかになっていた災害時の男女センターの情報機能の役割を振り返る。
 まず,最も事例が多かったのは,震災関連資料展示コーナーの設置である。男女センター内
に独立した情報ライブラリーや情報コーナーがある男女センターでは,そこが情報提供の場と
なった。被災地の男女センターのみではなく,各地の男女センターで関連図書,新聞のクリッ
ピング記事や既刊のジェンダー視点での防災関連資料が展示された。これは日頃から男女セン
ター利用者に向けて,課題解決に役立つテーマやタイムリーなジェンダー問題を取り上げたテ
ーマ展示コーナーを設置している男女センターでは,真っ先にできることであったと考えられ
る。
 二番目に多かった事例は,インターネット上の情報発信である。閉館せざるを得なかった発
災直後からポータルサイトを開設した被災地男女センターの例をはじめ,県外被災者を受け入
れる施設に隣接する男女センターによる支援情報の発信等,臨機応変に対応したことがうかが
える。次に多かったのは,男女センター広報誌で震災や防災をテーマに取り上げた事例である。
これに関しては,発災からかなりの時間が経過してからも各地の男女センターで継続して取り
組まれている。

3.公益財団法人せんだい男女共同参画財団へのヒアリング結果より
 まず,発災直後,財団が構築した「被災女性支援のためのポータルサイト」が果たした役割
についてたずねた。この時既に新聞にもいろんな関連情報が掲載されていたが,女性に特化し
た情報はなかったので,そのような情報をまとめて発信することの必要性を感じたとのことで
あった。また,「この先もっと頑張ろう」等の呼びかけがあったが,女性に対しては性別役割
分業観に基づいた頑張りを求めるメッセージが多かったので,それぞれのペースで日常を取り
戻そうというメッセージを発信しようと考えたとの説明があった。当ポータルサイト構築は,
様々なサイト情報を得ることで,自分たちだけで抱え込まなくてもよいという思いを持たれる
ことが必要ではないかと考えた財団職員による発案であり,多様な背景を持つ女性に向けた情
報をまとめて発信することで,女性同士の繋がりが生まれる効果も期待されたといえる。
 次に,図書資料スペースによる情報収集・組織化・提供・保存等,男女センターが有する日
頃のライブラリー機能が活かされたことについてたずねた。これに関して,日頃から女性のミ
ニコミ誌を収集していたので,いろんなグループのテーマごとの活動があることを把握してい
たことは積み重ねになったかもしれないとのことであった。ただ,発災後は利用者が男女セン
ターに足を運ぶのが難しかったため,情報発信の方法としては紙媒体よりもインターネットが
取り入れやすく,前述の「被災女性支援のためのポータルサイト」開設に取り掛かったとのこ
とである。 

4.熊本県及び熊本市男女共同参画センターへのヒアリング結果より
1)熊本県男女共同参画センターにおける実践
 まず,発災当時及びヒアリング時も熊本県男女共同参画センター業務を担当している県職員
に,避難所に性被害防止のためのポスターを掲示した経緯及びその効果についてたずねた。ポ
スター掲示は市男女センターからの情報提供で取り組んだとのことであった。避難所では性被
害が起こり得るという東日本大震災の経験に基づく情報が全国女性会館協議会の繋がりで市男
女センターに入って,それをもとに市男女センター館長が動き,そこからスタートした。情報
の流れということと,東日本大震災の経験が活かされ,非常にありがたかったとの発言があっ
た。
 県職員として,平成25年に内閣府男女共同参画局が「男女共同参画の視点からの防災・復
興の取組指針」に基づいて作成・公表しているチェックリストを用いて避難所を回った。その
際,男女別の更衣室があるとか,授乳室があるかとか,衛生用品などの配布状況あるいは据え
置きとか,間仕切りがあるか等を確認し,その後のフィードバックも行ったとのことである。
 次に,阪神・淡路大震災の際に兵庫県立男女共同参画センター・イーブンが行った取組を参
考にして,女性総合相談室における相談内容の周知のため,熊本日日新聞に「女性の悩み相談
 熊本地震」を掲載したきっかけや,具体的なイーブンからの情報提供等についてたずねた。
これについては,4月中旬,イーブンから当時の新聞記事をまとめた冊子が届き,すぐに地元
紙に話をして協力を依頼したとのことである。毎週水曜日,計10回連載された。記事を見て
電話をしたという方がおられ,新聞に載った翌日は電話相談件数が増えた。掲載された新聞記
事の内容も含め,県男女センターが担った役割に関して相談事業を中心に,『平成28年熊本
地震におけるくまもと県民交流館の対応について』にまとめられている。
2)熊本市男女共同参画センターにおける実践
 発災当時及びヒアリング時も指定管理者として熊本市男女共同参画センターの運営を担って
いるはあもにい管理運営共同企業体職員である館長に,発災直後の状況をたずねた。市男女セ
ンターとして何をすべきなのか思い浮かばない,誰も教えてくれない中で,まず,市男女セン
ターが所蔵している東日本大震災の報告書を片っ端から拾い読みをして,当時,東北の男女セ
ンターがどう動いたのか,どういうことに困ったのかを読み解いていったとのことである。こ
れは全国の男女センター間での日頃からの資料交換が定着していることにより,実現できたこ
とで,あらためて情報共有の必要性を感じた次第である。
 館長が困っていることを察知して,あるスタッフが全国女性会館協議会の相互支援システム
があることを知らせた。館長は報告書で過去の被災地男女センターでのいろんな取組を読み,
発災翌日の4月15日には前述の性被害防止のためにポスター掲示を行おうと決めている。
 また,「東日本大震災後,東北で活動している男女センター職員が良いタイミングで来てく
ださり,それぞれに自分たちの経験を話してくださり,こちらの話を聞きに来られたりして情
報が共有できたことがとても役立った」との発言もあった。
5.さいごに
 東日本大震災後,災害・復興拠点としての男女センターに関する考察やシンポジウム等は頻
繁に行われてきたが,情報機能に特化した報告や研究は十分だとは言えない。今回の調査結果
等を踏まえ,今後さらに,ジェンダー視点での情報発信や伝達及び継続を中心に,男女センタ
ーの存在意義を改めて明確にし,それを維持するための支援策等についての研究を進めたい。
 具体的には,国立女性教育会館による全国的な支援や,都道府県男女センターによる市町村
男女センター及び地域で活動している女性団体への支援等が考えられる。今後,全国の男女セ
ンターが平素からのさらなる情報交換や連携を強めることにより,これまでの災害時の実践や
総合機能を持つ男女センターの強みを活かした地域の防災力の推進拠点となり得るであろう。
                                (文責:木下みゆき)