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日本図書館研究会研究例会(第344回)報告


日 時:2019年1月22日(火)19:00〜21:00
会 場:相愛大学本町キャンパス
テーマ:姫路市・枚方市における学校司書研修について−訪問調査からの考察
発表者:学校図書館研究グループ 羽深希代子(箕面市立南小学校)
参加者:12名

1.はじめに
 2014年の学校図書館法改正による学校司書法制化があり,学校司書の配置が進んでいる。
しかし,司書や司書教諭の資格を持っている学校司書はいるものの,採用時に資格を問わない
自治体も多い。資格の有無に関わらず,学校図書館で働く上での研修は常に必要とされている。
 当グループでは,学校図書館関係者の研修について考えてきた。その一環として,2017
年〜2018年にかけて兵庫県姫路市,大阪府枚方市において教育委員会と学校司書の方々に
聞き取り調査を行った。目的は,最近学校司書配置施策が始まった2市で,学校司書の研修を
検討する過程における,公共図書館による学校司書への研修の実際を調査するためである。
 なお,2市との比較として,1992年から学校司書配置を始めた大阪府箕面市の学校司書
の研修状況を併せた表を配布した。

2.姫路市・枚方市の学校司書研修
〇全体的な研修について
 姫路市では,市立図書館企画の研修が年3回程度行われている。枚方市では,学校司書連絡
会(市立図書館主催)を月1回,中央図書館で行っている。
〇新任者研修
 姫路市では,図書の分類と配架,学校図書館の環境整備のしかた,選書と除籍,子どもと本
を結ぶための読書活動など。枚方市では,チェックリスト(『学校図書館スタートガイド』参
照)による館内環境のチェックや統計の取り方,市立図書館の団体貸出の説明など。
〇学校司書単独以外の研修
 姫路市では,調べる学習指導者研修会を開催し,図書担当教諭と学校司書が受講した。枚方
市では,司書教諭・学校司書研修を年に4回開催。
〇校外出張(研修)の参加について
 姫路市では出張は認められていない。枚方市では府教委主催のフォーラムに全員参加。

3.考察
 学校数や配置条件などの違いがあり,単純に比較できないところもあるが,以下のような特
徴と課題を指摘したい。
1)姫路市・枚方市においては,共に学校司書配置に市立図書館が深く関わっていることもあり,
市立図書館主導の研修は充実している。姫路市は「学校司書初任者研修」をはじめとする独自に
作成したマニュアルを使いながら研修を行っている。枚方市は月1回の確実な研修を保障して
いる。
2)自己研修については,枚方市は出張が認められており,平日のみではあるが旅費の支給も行
われている。一方,姫路市では勤務時間内の出張は認められておらず,個々の向上をめざした研
修に行きにくい。
3)枚方市では,先行実施で2014年度に配置された4年目の学校司書と,2016年度配置
の2年目の学校司書の間で,研修に求めるものが違ってきている様子がうかがえた。これからは
学校司書自身が研修をつくり,お互いが講師となるような学び合いが必要だろうと考える。なお,
枚方市では2018年度からすべての中学校に学校司書が配置されており,10人から19人と
倍増したことによって,さらに課題も多くなるが,試行錯誤しながらよりよい研修体制を工夫さ
れることを期待したい。
4)しかし,自分たちだけで学び合うのには限界がある。自治体の枠を越え,さまざまな学びの
機会をとらえた研修をし,その結果を学校司書同士で分かち合うことは,その市の学校司書全体
を向上させる大きな力となる。教育委員会や市立図書館は,そうした自己研修を奨励し,応援す
る施策を講じる必要があるのではないだろうか。
5)また,互いに学び合いスキルアップを図るためには,学校図書館間,また学校図書館と公共
図書館の間で,ストレスなく情報交換ができることが重要である。姫路市も枚方市も,学校司書
用メールアドレスがないが,学校図書館においてネットワークで学校司書がつながり,レファレ
ンスの答えを共有したり,互いの実践を交流し,その資料や成果物を見ることができるような環
境は,そのこと自体が日々の研修であり,次の研修テーマを生み出すだろうと考えられる。学校
図書館の中で,仕事をしながら即座にネットワークが使えるような環境づくりが求められる。な
お,学校間や公共図書館とのネットワークは,予約に応え,知る権利を保障するという基本的な
学校図書館サービスの充実につながることは言うまでもない。
6)箕面市は,決してよい雇用形態とは言えないながら,25年という年月をかけて作ってきた
司書連絡会を中心に自分たちで取り組むべきテーマを考えて研修を作っている。また公に保障さ
れた研修以外にも,個々人がさまざまな研修の機会をとらえて,自治体の枠を越えて全国に学び
を求め,学んだことをお互いに分かち合う機会も持っている。個人のスキルを磨くだけではなく,
「どの学校図書館でも同様のサービスが展開される」ための研修であるという共通認識を持って
いる。

4.まとめ
 個々の学校図書館をよくするためには,配置された学校司書への研修が欠かせない。その内容
は,日々の仕事のスキルから学校図書館とは何かという理念まで,幅広く学べることが求められ
る。近年,自治体による学校司書への研修は増えてきているが,公共図書館が学校司書への研修
を担っているところは現状としてまだまだ少ない。
 姫路市も枚方市も,ただ本がある「図書室」ではなく,学校教育に資する「学校図書館」をつ
くろうと本気で取り組んでいる。今後は,学校司書が教育委員会や市立図書館から提供される研
修を利用するだけでなく,自分たちで課題を掘り起こし,解決のための研修を作っていくような
体制づくりができていけば,さらに充実した学校図書館実践が生まれていき,よりよい学校図書
館となり,子どもたちの読みと学びが深まるのではないだろうか。そうしたがんばりにふさわし
い学校司書の雇用形態改善も,同時に求めたい。
                                                 (文責:羽深希代子 箕面市立南小学校)