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日本図書館研究会研究例会(第335回)報告


日 時:2018年1月27日(土)14:00〜16:00
会 場:大阪市立総合生涯学習センター第5研修室
テーマ:雑誌の図書館 大宅壮一文庫の成り立ちとこれから
発表者:鴨志田浩氏(公益財団法人大宅壮一文庫事務局)
参加者:25名

 雑誌の図書館として著名であり,2017年に実施されたクラウドファンディングで注目を
集めた大宅壮一文庫(東京都世田谷区八幡山)について,当文庫事務局の鴨志田浩氏による講
義を行った。
 まずは,文庫創設者の大宅壮一と文庫概要について紹介された。大宅壮一(1900〜70)
は,大阪府三島郡富田村(現・高槻市)生まれ,旧制茨木中学を中退後,東京帝国大学文学部
社会学科に入学した。大学中退後はジャーナリズム活動に従事した。「一億総白痴化」「恐妻」
「阪僑」などを造語した人物であり,鋭い時代感覚で世に影響を与えた。大宅壮一は「雑草文
庫」と称して自ら収集した資料を親しい作家や編集者に惜しむことなく開放していた。大宅壮
一の死後,その遺志により1971年に「財団法人大宅文庫(のちに公益財団法人大宅壮一文
庫)」が設立され,現在に至っている。
 大宅壮一文庫が注目されるようになったのは,ジャーナリストの立花隆が1974年に発表
した「田中角栄研究〜その金脈と人脈」(『文藝春秋』1974年11月)がきっかけとされ
る。雑誌専門の図書館の性格から,マスコミ関係者の利用が増え,利用者全体の9割がその関
係者であった。
 そのような沿革を持つ文庫であるが,私立の施設であるので,入館料が主な収入となる。来
館者が年々減少し,運営資金が不足するという経営課題を抱えているという。
 そこで運営資金を確保するために注目したのが,不特定多数の人からインターネットを経由
して資金を調達するクラウドファンディングであった。日本最大のクラウドファンディングサ
ービスを行っているReadyforを利用して「大宅壮一文庫を存続させたい。日本で最初に誕生し
た雑誌の図書館」のプロジェクト名で寄付を募った。3千円,1万円,3万円,5万円,10
万円の寄付枠を設けて,寄付枠に応じて特典を受けられることにした。目標額は500万円で
あったが,760人の方から854万5千円と目標を超える寄付を集めることができた。
 インターネットを中心に注目を集め,目標を大きく達成でき,小口の支援の場合,クラウド
ファンディングが効果的ということを確認できたが,支援者のほとんどが利用経験者だったこ
とも分かり,利用者増につながらなかったことも判明し,クラウドファンディングの難しさも
確認できたという。
 クラウドファンディングのほかに,文庫の雑誌記事索引を紹介された。大宅壮一は専任スタ
ッフを雇い,独自の分類法「大宅式分類法」に基づいた索引分類を行っていた。現在も索引の
充実化が進められ,データベースでは7万語の検索タグがあり,なかには「阪神優勝時に道頓
堀に投げ込まれたカーネルサンダース人形」という一風変わった記事も探すことができる。
 以上のような流れで講義が終了し,質疑応答に移った。なぜ利用者が増えないのかという質
問に対して,ジャーナリストの一定の需要はあるが,文庫以外にも利用できる手段が増えたこ
とや,ネットメディア関係者の利用者が少ないという課題などを提示した。この他に,過去の
雑誌広告を調査するなど学生の利用が目立つことや,公益財団法人ならではの運営規定につい
て鴨志田氏から紹介があった。
 25名の参加があり,大宅壮一文庫への関心の高さが窺える研究例会だった。
                                                 (文責:佐藤悠 大阪市立中央図書館)