TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2017年度 > / Update: 2018.2.25
テーマ:占領期京都と京都図書館協会の成立 発表者:福島幸宏(京都府立図書館) 日 時:2017年12月25日(月)19:00〜21:00 会 場:日本図書館研究会事務所 参加者:12名 始めに 始めに,研究の目的とその背景となる最近の研究の進展の概要が説明された。 本研究の目的は,当事者的な断片的な記述から離脱した戦後図書館史の総体的な把握であり,その背景には 近年の京都の占領期についての研究の飛躍的な進展があること,特にGHQや文部省の政策文書の分析が進んで きていることが挙げられた。 続いて,キーパーソンとして,湯浅八郎・大佐三四五・西村精一・北村信太郎・小野則秋について簡単に紹介 された。 1.占領期京都と文化政策 注目している地域である京都の特殊性が説明された。軍政部が京都を民主教育推進のモデル地区にする構想を 持っていたこと,また,その背景として,戦災被害が当時の大都市で一番軽微だったため他の都市より反発が 少ないと想定され占領軍の西日本の拠点であったこと,更に大学の街であり,知識人層が流れ込むメディア空 間という把握もあったことが指摘された。 2.京都図書館協会への胎動 京都図書館協会設立に向けた動きとして,図書館法制定に向けた従来の議論の整理と占領軍の意向を見た動き が概観された。その中で戦前からの関係者と新しい人材が結集したこと,図書館法制定に向かった関係者の中 に大佐・西村という京都図書館協会設立にも関わった人々がいたこと,湯浅・大佐という人材を通じて占領軍 とも関係があったことが指摘された。関連して,1946年に結成された日本図書館研究会について,サーク ル活動などの文化運動への理解も含めて紹介された。続いて同志社を拠点として始まった図書館講習所の概要 と影響について概観された。さらに米軍第6軍司令官クルーガー大将の寄贈によって始まったクルーガー図書 館の活動と,それが開架・貸出・アメリカ式運営という図書館のモデルとして影響したと指摘された。 3.京都図書館協会の設立 京都図書館協会の設立時の詳細について,1947年10月の準備委員会と同年11月の発会式の概要から始 まり,協会が主催した講習会を含めた設立直後の活動の概要が紹介された。さらに,浜地藤太郎が創立した私 立図書館である「和風図書館」についてその概要と初期の事務所が和風図書館におかれていたなどの関係性が 紹介された。 さらに,初期の協会は同志社を中核とした戦前からの実績のある大学図書館員を軸としていたことが指摘され たうえで,同業者組合としての色彩が強かったこと,学校図書館を中心とした活動だったこと,読書サークル ・学生部会の存在が大きかったことが指摘され,更に小野・国会図書館論争など国立国会図書館とは距離のあ る活動であったことも指摘された。 また,戦後文化・読書運動との接点としての「和風図書館」の重要性が指摘され,更に戦後文化運動のアクタ ーのひとつとしての図書館運動という解釈が提示された。 4.京都図書館協会の展開 京都図書館協会設立後の動きとして,占領下で発足した教育委員会制度との関係,意見書を多数提出したこと を含む専門家集団としての活動,近畿・全国レベルの図書館活動との関係,講習会の京都府下への展開,関連 団体の設立などの項目について概観された後,1950年5月の京都における全国図書館大会が一つのピーク であったのではなかったのかと指摘され,さらに1972年の事実上の解散に至る展開について概観された。 その中で,当初は人事や技術面で蓄積された専門知識と同業者組合としての協会の力量が示されたが,その後, 関連諸団体の動向や国政・府政自体の構造転換・大学の司書課程の整備,湯浅の東京への移動(ICU総長就任)や 小野の教職追放(のち解除)などもあり,また府主導の講演会の動きや部門別協議会の成立などもあって協会の 独占的地位が崩壊していったと指摘された。 おわりに 総括として,占領期京都の状況が非常に大きな要因となっていたことや良書推薦運動が社会的武器となったこと が指摘され,その上で青年研究グループの動きとの関係性が概観された。 更に,戦前からの動きとして,テクニカルな部分との連続性と思想との断絶が指摘された。 研究委員としての追記: 今回は,新事務所を会場とした初めての研究例会であった。研究委員会としてプロジェクターを購入したことも あり,新事務所は二十人弱の研究例会なら十分開催できる環境にあると感じた。 (報告:藤間真 桃山学院大学)