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日本図書館研究会研究例会(第329回)報告


テーマ:学校図書館におけるアクティブ・ラーニング
発表者:桑田てるみ氏(国士舘大学21世紀アジア学部)
日 時:2017年5月27日(土)13:30〜16:30
会 場:灘中学校灘高等学校図書館
参加者:31名

 次期学習指導要領では,主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング,以下AL)が取り
上げられている。いまこそ学校図書館の出番!と思っても,なかなか具体的には何をどうしたらい
いかわからないのが現状である。そこで,学校図書館を活用した,ALとしての「探究学習」を提案
されている桑田てるみ氏に,学校図書館の働きを活かした探究学習について発表してもらい,さら
に,学習の導入としての一手法,ジグソー法のグループワークを行う研究例会を開催した。
 まず,発表者より「学校図書館における主体的・対話的な学び」について報告がされた。
 改訂学習指導要領が3月に公示された。「何を学ぶか」という指導内容を見直し,「どのように学
ぶか」「何ができるようになるか」の視点を加えるというのである。各教科の特質に応じて,ALの
視点から授業改善を図るのが大きな特徴である。しかし,検討の過程で使用されていたALという文
言は使われず,新指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という文言となった。
 学校図書館でのALを考えると,これまでの探究的な学習は深い思考が必要な学習であり,新しい資
質・能力を育むことができるALとなりうる。そこで学校図書館ができることは,「学習支援」(考え
る学習の支援)と「場の提供」(多様なメディアの提供,ラーニング・コモンズ)である。「対話的
な学び」とは,「人」との対話のみにあらず,「先人」との対話も含み,図書館こそ,その場である。
 現行の学習指導要領解説に示された「総合的な学習の時間」の「探究的な学習」の姿は,「課題の
設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の問題解決的な活動が発展的に繰り返されて
いく。また,調べ学習と探究的な学習の違いは,調べ学習は「調べることに重点を置く」学習で,探
究的な学習は「自分自身の問いに関する答えを求める」もので,プロセスも大切にする。オープンエ
ンドでもよく,むしろ新しい疑問,わからないことが出てきて,次の探究につながる方がよい。すっ
きり終わらなくてもいいのである。

 具体的な活動については『思考を深める探究学習〜ALの視点で活用する学校図書館』(全国SLA刊)
を参考に,6プロセス・9アクションの説明がされた。資料提供・レファレンスサービスはどのプロ
セスでも重要であり,しかし,どのような資料提供が求められているか,考え直す必要がある。すな
わち,回答を提示する資料提供だけではなく,考えさせるための資料提供が必要であり,問いのレベ
ルにあった資料を提供することも必要なのである。
 後半は,ALとしての知識構成型ジグソー法のワークショップを行った。知識構成型ジグソー法は大
学発教育支援コンソーシアム(CoREF)が独自に開発した学習法で,Aronsonのジグソー法とは異なり,
関わり合いを通して,一人ひとりが学びを深める狙いを持っている。
 今回のワークショップは参加人数の関係から,4人組のジグソー班と3人組のジグソー班が形成さ
れた。結果として,グループ人数の差が資料の差となり,資料の検証に役立った。
 今回の「問い」の設定は,「知恵袋に寄せられた中1の疑問『フリーター・ニートって問題だとい
われるけど,結局,何が一番問題なの?』に対して,中3として答えよう」。それぞれのジグソー班
からABCDの4種類の資料の中から1つを手に,資料の種別ごとのエキスパート班に分かれ,自分たち
の資料に書かれた内容や意味を話し合い,グループでの理解を深めるエキスパート活動を行った。そ
の後,もとのジグソー班に戻り,エキスパート活動での理解の報告をした。元の資料を知っているの
はそのグループでは自分一人なので,自分の言葉で説明するしかない。他のメンバーから残りの資料
の説明を聞き,それぞれの資料の知恵を組み合わせ,問いへの答えを考えた。
 全体での発表の際,4種類の資料をもとにしたグループと3種類の資料しかなかった(Dの資料がな
い)グループでの差が現れた。クロストークののち,個々で自分なりに考えた「問いへの答え」をま
とめた。
 ワークの最後に,知識構成型ジグソー法のメリット・デメリットを考えたが,やはり資料の準備の
大変さが大きかった。問いの設定,エキスパート資料の準備は,授業者の仕事となるが,学校図書館
としてそのサポートがどこまでできるか,大きな課題である。エキスパート活動の資料もだが,それ
を補完する資料の準備も必要である。今回も学校図書館研究グループの協力のもと,多数の資料を用
意していたが,的確なサポート資料とはならなかった。資料や学習者の把握がより求められることが
明らかになった。参加者のうち,1/4が教諭で,今後の授業での学校図書館の活用が期待される会と
なった。
                                                  (文責:狩野ゆき 灘中学校灘高等学校)