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日本図書館研究会研究例会(第326回)報告


テーマ:ウェブスケールディスカバリーの運用とその展開可能性
発表者:飯野勝則氏(佛教大学図書館専門員)
日 時:2017年1月22日(日)14:30〜16:30
会 場:大阪市立生涯学習センター難波市民学習センター第4研修室
参加者:27名

1.ウェブスケールディスカバリーが生まれるまで
 1990年代の後半になると,図書館では従来の図書や雑誌に加え,様々な電子媒体のコンテンツを
 扱うようになってきたことに伴い,以下のような課題に直面していた。一つはこれらをどのように管
 理・提供していくのがよいかという問題であり,もう一つはこれらのコンテンツをOPACでどのように
 表示させるのがよいかという問題である。前者を解決するためのアプローチとして,リンク集や横断
 検索機能などが生まれ,後者に関しては検索結果を様々なファセットを用いて絞り込むことができる
 機能をもつ,「ディスカバリーサービス」と称されるサービスが提供されるようになった。また,こ
 れらの複数の機能を組み合わせたサービスも登場し,課題はまだ残しつつも利用者からは一定の評価
 を得ることができた。

2.ウェブスケールディスカバリーとは何か
 ウェブスケールディスカバリーとは,図書館単体としてのコンテンツを対象としていた従来のディス
 カバリーサービス(インスティチューションスケール)をウェブスケールにまで拡大したものである。
 機能としては,図書館OPACなどの自前のコンテンツから商用のデータベースまでを統合的に検索し,
 視覚的に工夫されたユーザーインターフェース上で検索結果を統合的に表示することができ,以下の
 ような特徴を持っている。
 @クラウドサービスとして提供されている。
 A図書館や各種の商用データベース等から収集されたメタデータを統合した,ウェブスケールな検索
   用の「セントラルインデックス」を所有している。
 B電子リソースに対し,定期的に自動でデータ更新(ハーベスト)を行うための仕組みを持ち,利用
   者に最新の検索データを提供することができる。
 C単一の検索窓で検索を行うことができ,検索結果を「関連度」順に表示することができる。
 現在は3社から4種類のウェブスケールディスカバリーシステムが提供されており,佛教大学ではそ
 のうちの一つである“Summon”というシステムを使用し,「お気軽検索」という愛称で提供している。
 佛教大学図書館の蔵書数は約100万冊であり,OPACのレコード件数が約100万件に留まるのに対
 し,お気軽検索では6億3600万件という膨大な数のレコードが学内向けに利用可能となっている。
 ただし,ウェブスケールディスカバリーとは最大で「ウェブスケール」に達する情報資源を利用者の
 求めるスケールで可変的に扱うことのできるサービス(スケーラビリティ)であるというものであり,
 常にウェブスケールを対象としているわけではない。一方でスケール概念の混在が,利用者に混乱や
 誤解をもたらす可能性もある(スケールの錯視)。
 
3.ウェブスケールディスカバリーの運用
 佛教大学では2011年4月にウェブスケールディスカバリーを導入し,2015年4月には画面デ
 ザインを一新した。利用状況の推移をみると,導入前に比べ導入後は紙媒体の雑誌レコードへのアク
 セスが大幅に増加した。また,2015年4月に画面デザインを一新した結果,図書館ウェブサイト
 のトップページへのアクセスや「お気軽検索」の利用が大幅に増加した。さらに,デザイン修正前の
 旧ポータルサイトの時代と修正後を比較すると,図書館ウェブサイトのトップページにアクセスした
 利用者がサイト内で遷移する割合が増加し,図書館ウェブサイト内の様々なコンテンツが有効利用さ
 れるようになってきたことが窺える。遷移先で多いのは新聞・ニュースや保健医療などのデータベー
 スを一覧にして集約したページであるが,最近ではマイライブラリーへのアクセスも増加している。
 多くの利用者に利用されている「お気軽検索」であるが,利用の増加に伴い利用者の不満や誤解も増
 加している。それらを内容によりグルーピングすると,大きく以下の3種類に分けられる。
 @「スケールの錯視」による不満の連鎖
 A「利用者の思い込みやスキル」から生じる誤解
 B「情報量や情報のデザイン」に起因する不満
 @は,本来はデータベースベンダーに由来するようなリンク切れなどの問題を図書館の問題として利
 用者に捉えられてしまうものであり,図書館員にとってもデータベースベンダーに対してエラー修正
 要求を出してもなかなか対応してくれないという不満が生じることがある。Aは,ウェブスケールデ
 ィスカバリーを使えば何でも検索できるという誤解や,説明なしに誰でも簡単に使うことができると
 いう思い込みが挙げられる。Bは,検索結果が多すぎる,適切な順序で表示されないなどの不満であ
 る。これらの不満や誤解の解消に向けて様々な取り組みを行う必要があるが,重要なのは図書館員が
 ウェブスケールディスカバリーの現状を正しく理解した上で,利用者に対してガイダンスなどの広報
 活動を行うことである。多くの不満や理解は利用者の理解によって解消される可能性が高い。そこで
 解消しきれない問題については,図書館員が介在し,ベンダーとの間で様々な手立てを講じ,根本的
 な解決へ導くことが重要である。また,図書館員の視点から現状を確認し,日々手を入れていくこと
 が必要である。ウェブスケールディスカバリーのいいところは,表示をどうするかということは各大
 学にゆだねられている点であり,この部分は図書館員が一番やらなければならないことではないか
 考える。
 
4.公共図書館への展開
 ウェブスケールディスカバリーは殆どが大学図書館を中心として普及してきたが,その先駆けである
 AquaBrowser Libraryはもともとオランダの公共図書館で採用されたシステムであり,必ずしも公共図
 書館に使えないというわけではない。海外の公共図書館の利用例をみると,単館での利用例もあるが,
 コンソーシアムでの利用例も存在する。コンソーシアムでの利用は,コンソーシアムの参加館でただ
 一つの検索インターフェースを共有する方法(シングルインスタンス)と,コンソーシアムの参加館
 は一つの検索インターフェースを共有するほか各参加館に応じた検索インターフェースを有する方法
 (マルチインスタンス)に分けられる。このうちのマルチインスタンスでの利用の場合,図書館員が
 介在することによって画面構成や表示順の管理を行うことが可能であるというメリットが存在する。
 ただし,日本の公共図書館の現状としては,日本語の電子リソースがまだ少ないため,費用対効果の
 面からの検討が必要であると考える。
                                                           (文責:田村俊明 紀伊國屋書店)