TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2016年度 > / Update: 2016.11.20
テーマ:ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用 発表者:青木和人氏(Code for山城,オープンデータ京都実践会代表,立命館大学院公務研究科講師) 日 時:2016年11月19日(土)14:00〜16:00 会 場:大阪大谷大学ハルカスキャンパス 参加者:15名 はじめに 今日の図書館は本の貸出だけでなく様々な機能が求められており,特に近年地域情報拠点として公共図書館が 注目されている。2005年には文部科学省『地域の情報ハブとしての図書館』が発行されている。公共図書館 での地域情報発信事例として,箕面・豊中市立図書館の「北摂アーカイブ」などがある。 1.ウィキペディア・タウンとは ウィキペディアはほとんどの方は見たことはあるだろう。インターネットで何かを検索すると上位に出てきて, ちょっと調べるのは便利という認識だと思う。ウィキペディアは,誰でも無料で見たり編集したりすることがで きる。また,自由に2次利用ができ,世界各国語で展開されているのが特徴である。しかし,調べるだけでなく 書くこともできる,ということは知っていても,なかなか書く人は少ない。 ウィキペディア・タウンの取り組みが始まったのはイギリス・ウェールズの町から。2012年に街の地域文 化や観光情報をウィキペディアに掲載し,QRコードで簡単にアクセスできるようにした。日本では2013年2 月に横浜市で初開催され,東京・二子玉川でウィキペディアの地図版と言われるオープンストリートマップを書 く「マッピングパーティ」と合わせたイベントが開催された。自分は元々,地理情報システムの専門であり,そ のあたりから感心を持ち,ちょうどその頃あった京都オープンデータ勉強会に参加し,京都府立図書館司書や現 在の仲間と知り合い,やってみることにした。2014年2月に第1回を行い,2か月に1回ぐらいのペースで 続けている。 2.オープンデータ京都実践会,Code for山城の活動 オープンデータ京都実践会として,京都市内を中心にまちあるきして,まちの歴史や文化を調べて,まちの知 られざる歴史や文化をウィキペディアに書いて,インターネットを通じて,みんなに知ってもらう活動を行って いる。流れとしては,午前中1時間ウィキペディアについての説明を聞き,1時間ほどまち歩き,お昼休憩後, 午後からは文献を調べてウィキペディアを編集し,最後に成果を発表し合う。更新項目数としては通常3件ほど だが,新しい項目を作ると喜びも大きいので1件は新しい項目を作るようにしている。 京都市内で数回行った後,自分の住んでいる京都府南部でやりたいという思いがあり,Code for山城という団 体名で,精華町で知り合いの図書館職員と協力して行った。図書館だけでなく町としての後援・協力があり,地 域のまちあるき団体やITボランティア団体の協力で,いわゆるふつうのおじさん,おばさんも一緒にウィキペデ ィアを編集することができたことが大きい。 自分のまちは「なにもない」と思っていても,観光地じゃないだけで,地域には,歴史・文化的に貴重な資産 がたくさんある。地域の方がそれを知ることが重要で,まちを歩き,資料を調べ,調べたことをみんなに知って もらうことがおもしろい。観光地の京都市ではなく,精華町でのウィキペディア・タウンでそれに気づいた。ま た,行政としてのバックアップがあると地域団体の協力や参加もあることがわかった。精華町では国立国会図書 館関西館でも開催した。 今まで開催されたウィキペディア・タウンのうち,主催16回,協力6回と日本で開催の半分近くは関わって いる。 3.郷土資料の活用 ウィキペディア・タウンの開催場所として,図書館こそぴったりの場所である。図書館には郷土資料が集めら れている。その郷土資料が役立つが,その一部や事典・辞書などの特によく使う参考資料の多くは貸出しできな い。別の場所での開催の場合は事前にコピーを取る必要性があり,開催のハードルが高くなる。図書館の協力が あると,テーマに合わせた関係資料を事前に司書が調べて集めておいてもらえて非常に助かる。 ウィキペディアの約束事は,@著作権を守る(参考文献の事実情報を抜き出し箇条書きにし,文章として再構 成する),A検証可能性を担保する(資料の出典を付ける)の2つ。郷土資料を使うことで,見た人が資料に気 づき,実際に図書館等に見に行くなど,郷土資料へつながるデジタルな入り口になっていると考えている。 4.他地域へのノウハウの展開 京都での活動から広がり,岡山県笠岡市の北木島,和歌山県橋本市,伊丹市立図書館などでも行った。また岡 山市で,公民館の地域講座としても全国で初めて開催した。 5.地元高校生が地域情報発信 新しい取組として高校生を対象にウィキペディア・タウンを行った。国立国会図書館の近くの京都府立南陽高 校で夏季プログラムとして実施した。新興住宅地に住み古くからの地域をあまり知らない高校生が,地域のまち 歩き団体とともにまち歩きをし地元を知り,国立国会図書館資料を使って調べて,地域の情報をウィキペディア に登録した。 これまでウィキペディアは高校教育において信頼できないものであると教えられることも多かった。しかし今 回,図書館の文献による情報収集・確認の手法を学び,出典を示した検証可能性のある情報発信の学習を行った ことで,ウィキペディアだけでなく,社会に流布している様々な情報の検証力を高めることができた。さらに今 後の展望として,学校図書室と公共図書館が連携して,ウィキペディア・タウンを行ってはどうかと考えている。 6.ウィキペディア・アート 京都府立図書館の近くに京都市美術館や京都国立近代美術館があることから始まった,アートに関するウィキ ペディア編集のイベント。作品自体は載せられないので,作家のページを作ることとしている。大阪新美術館, 弘道館などでも行っている。 まとめ ウィキペディア・タウンは,地域を再発見して,住民自ら地域情報の発信をすることである。公共図書館から 地域情報を発信でき,公共図書館の郷土資料の再発見になる。また情報発信で情報検証能力を高める学習ができ たり,文化芸術の情報発信もできたりする。いずれにしても,参加者が楽しいことが一番重要である。 これからの展望としては,行政や地域のまち歩き団体との連携,他地域へのノウハウの展開,さらに多様な分 野,担い手を集めた活動へとつなげたい。ウィキペディアのマルチメディア版,ウィキペディア・コモンズへの 写真のアップロードは比較的取り組みやすく,自分の思いを書けるローカルウィキというのもある。いろいろな 引き出しをもって今後も続け,広げていきたい。 ※当日のスライドについては,以下で公開されている。 http://www.slideshare.net/kazutoaoki/20161119wikipedia-townaoki (文責:河西聖子 京都府立大学京都政策研究センター)