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日本図書館研究会研究例会(第323回)報告


テーマ:「第11回日中国際図書館学セミナー(第8回上海国際図書館フォーラム)」報告
発表者:北村由美(京都大学附属図書館研究開発室)
日 時:2016年7月30日(土)14:30〜16:30
会 場:大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)
参加者:9名

 2016日7月30日の日本図書館研究会では,7月6日から8日にかけて上海図書館に
おいて開催された第8回上海国際図書館フォーラム(SILF)ならびに,合同開催された第1
1回日中国際図書館学セミナーについて報告をした。SILFは,6日に登録がはじまり,7日
の午前中に開会式と基調講演が行われ,午後は図書館見学とプレナリー・セッションがあっ
た。8日は,6つの分科会が同時並行で開催された。
 
 基調講演では,中国図書館学会副理事長,IFLA会長,中国国家図書館長,上海図書館委員会
長による報告がなされた。特に印象的だったのは,中国国家図書館長の韓永進氏による国家戦
略における図書館の今後のビジョンについてである。中国は,2049年に中華人民共和国設
立100年を迎えた後の2050年に先進国入りをめざしており,政策に連動させた図書館の
今後を模索していくことの重要性が強調されていた。例えば,アントレプレナーシップ支援と
いったことや,また,国際連携の分野では,「一帯一路」政策にあわせ,シルクロード図書館
という方針が紹介されていた。一方で課題としては,国内の図書館の格差が挙げられていた。
 
 午後のプレナリー・セッションでは,上海図書館,デンマークとメキシコの公共図書館,ア
イルランドのコーク大学,カナダのマクギル大学から,各館の最近の動向に関する報告があっ
た。ホストである上海図書館は,デジタル・ヒューマニティに力を入れており,家系データベ
ースに加えて,最近取り組んでいる上海と関係が深かった清末の政治家,盛宣懐(1844−
1916)の個人資料のデジタル化についての紹介があった。
 
 7月7日は,6つの分科会のうち1つがSILFと第11回日中国際図書館学セミナーの共同開
催となり「インクルーシヴな空間やサービスの設計」というテーマのもと,3つのパネル報告
が組まれた。それぞれのパネルにおいて,松井純子事務局長の紹介のもと,立花明彦(静岡県
立大学短期大学部)「The Act on Elimination of Discrimination and Library Services in 
Japan」,岩井千華(九州大学大学院博士課程)「A Study of the Efforts of the Regional 
Library and Private Library to Complement the Public Library」,北村由美(京都大学附
属図書館)「Inclusive Planning Process for Space and Services at Kyoto University Lib
rary」が報告を行った。
 
 うち北村の報告は,2014年4月に開設された京都大学附属図書館におけるラーニングコ
モンズをはじめ,図書館員に加えて,学生や教員など学内のステークホルダーの協力をえて実
現した空間とサービスの設営について紹介した。なお,各分科会は30人から70人程度が出
席している模様であった。一つ残念だったのが,通訳の手配の関係からか,SILFと第11回日
中国際図書館学セミナーの共催分科会は,中国語と日本語のみの通訳となり,参加者が限られ
てしまった点である。この点に関しては,次回以降,検討する必要があるだろう。
 
 最後になるが,SILFに参加する最大の意義としては,欧米の中国研究図書館関係者に加え,
東ヨーロッパやアフリカなど世界中の図書館関係者との交流ができることに尽きるだろう。
筆者の場合は,トイレで並んでいる間に出会った北欧アジア研究所の司書の方や,その方の友
人で,フランスの公共図書館の中国語コレクション担当の方(現在はオランダ・ライデン大学
のアジア図書館に移動)との交流を通じ,ヨーロッパにおけるアジア研究担当の司書の方がた
の知見を得られたことが,新鮮であった。今回のように,日中国際図書館学セミナーが共催さ
れる場合は,日本からの参加者同士の交流も大きな魅力である。ぜひ若い会員の皆さんに,参
加して頂きたい会議である。
                                  (文責:北村由美)