TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2016年度 > / Update: 2016.11.20

日本図書館研究会研究例会(第322回)報告


日 時:2016年6月27日(月)19:00〜21:00
会 場:大阪市立総合生涯学習センター
テーマ:枚方市の学校図書館教育充実事業についての報告
発表者:市川直美(学校図書館研究グループ)
参加者:23名

1.学校図書館教育充実事業の概要
  枚方市の人口は405,297人(2016年5月現在),市立小学校は45校,中学校は19校である。
  平成26(2014)〜27(2015)年度,学校図書館教育充実事業において「3中学校区を実践研
 究校区とし,3中学校に学校司書を配置し,校区の司書教諭・学校図書館ボランティアとの連携のもと,
 中央図書館と連携し,学校図書館の機能向上,充実を図り,その実践内容を検証する」として,平成26
 年6月,枚方市で初めて学校司書が枚方市立第四中学校,長尾中学校,桜丘中学校に配置された。学校司
 書の勤務条件は,以下のとおりである。
  身分:任期付短時間勤務職員
  人事所属:社会教育部 中央図書館
  給与所属:学校教育部 教育指導課 
  勤務地:中学校。必要に応じて校区内小学校でも勤務。
  勤務日数:週31時間。週5日勤務
  指揮命令系統:学校内では学校長の指示に従う。
  この事業の特徴は,@中学校区の学校司書として,業務内容を中学校図書館だけでなく,校区内小学校図
 書館の整備や読書活動推進への支援としたこと,A枚方市立図書館の任期付短時間勤務職員を学校司書に配
 置したこと,B中央図書館に学校図書館支援グループを新たに設置し職員を配置したことである。

2.取組内容
  中学校では,日本十進分類法による配架とレイアウト変更を行った。日本のほとんどの公立図書館や学校で
 採用されている日本十進分類法によって,誰もが一定のルールで同じように本を探したり返したりできるよう
 になり,小中学校を卒業しても市立図書館や高校の図書館を利用できると考えたからである。この他,開館時
 間の拡大,教科・季節・新聞記事等に関連した特集展示,図書委員や先生方のおすすめ本の展示,調べ学習へ
 の資料提供,統計などに取り組んだ。
  3校の来館者数・貸出冊数の1ヵ月当たりの平均が2年間で増え,徐々に学校図書館を日常的に利用する
 ことが生徒に浸透している。また,授業での活用では国語や総合的な学習の時間だけでなく,英語・理科・
 美術などでも資料収集の依頼があり,校内全体に広がりをみせている。
  小学校では,棚番号をはがして日本十進分類法による分類ラベルを貼り,並べ替えた。所蔵本が分野ごと
 に並び,複本や足りない分野などが見えた。教職員全員による作業では,配架のルールや所蔵本に関心を高
 めていただくことができた。
  司書教諭研修は年1回だったのを,平成25年度より年4回に増やし実施している。

3.問題点と対応
  平成26年度,司書教諭と学校司書の役割分担やボランティアの位置づけがあいまいであること,また,
 関係者に目指すべき学校図書館について共通認識がないことが問題となった。
  そこで平成27年度,「学校図書館検討委員会」を開催し,教育指導課が実践研究校区である3中学校区の
 小中学校長・司書教諭・学校司書に出席を依頼し,中央図書館も加わり,討議した。
  その結果を「枚方市の学校図書館のあり方について 第1版」にまとめ,平成28(2016)年4月,校
 長会で周知した。今後これをもとに,めざす学校図書館像や役割分担について研修を行い各校で実践を進め,
 問題や課題を検証してさらに改訂していく予定である。

4.今後の取組と課題
  この事業は,平成28〜29年(2017)年度「読書活動推進事業」と名称変更し,継続になった。平成2
 8年4月には,新たに7中学校区に市立図書館から7人が配置され,計10中学校区に10人の学校司書が配
 置されている。
  また,平成28年度には,小中64校の学校図書館の蔵書データベース化・オンライン化を実施し,平成29
 年4月より本格稼働させる予定である。
  今後の課題は,@小学校での学校司書の役割と活動内容の検証,A学校司書のスキルアップと支援,B環境整
 備と図書館活用の促進等である。
  報告後,ボランティアと学校司書の役割の違い,学校司書の授業への関わり方等について活発な意見交換が行
 われた。
  参加者から「長年活動しているボランティアより数年で契約の切れる学校司書が入るほうが本当に学校図書館
 は活性化するのか」という問題提議があった。ボランティアにしっかり研修すれば十分やっていけるのではない
 かという意見だった。
  それに対してボランティアの立場から,「ボランティアとして踏み入れてはいけないと思うところがある。例
 えば,学校の授業支援。授業でブックトークをと言われてもできない。学校司書という専門性とボランティアの
 違うところである」,「学校司書は学校司書,ボランティアはボランティアとして日々活動している。自分の周
 りのボランティアもそういう意識でやっている」との発言があった。他の参加者からも「授業でのブックトーク
 は,学校司書が先生と打ち合わせしてやるもの。ボランティアでは先生の意図とずれてしまう恐れがある」との
 意見が出た。
  その後,学校司書は授業にどのように関わるべきかという論議になった。「学校司書と先生が一緒に授業を作
 ることを積極的に考え,学校司書が加わることで教育のイメージを広げるという考え方で進めたらどうか」とい
 う提言があった。
  学校司書とボランティアが互いの立場を尊重し,各々の役割に基づいて活動することが学校図書館の活性化に
 つながるのではないだろうか。そのためには,学校司書には安定した雇用による経験の積み重ねが必要である。
  また,授業支援,情報活用の支援は学校司書の役割であると考える。その役割を果たすために専門性を高める
 研修と実践の継続が重要であると改めて認識した例会であった。
                                (文責:市川直美 枚方市立中央図書館)