TOP > 大会・研究会等 > ワークショップ > 2015年度 > / Update: 2015.1.4

ワークショップ報告「学校図書館専門職員制度化の課題について考える」


日時:
2015年8月30日(日)13:30〜16:30
会場:
灘中学校灘高等学校図書館
参加者:
39名

 上記のテーマのワークショップを,研究委員会と学校図書館研究グループの共催で開催した。

 塩見昇氏の「図書館界」66巻6号(2015年03月)特別寄稿「学校図書館専門職員制度化の課題」を受け,参加者が能動的に考えることを目的に,ワールドカフェのスタイルを応用して,討論を行った

 まず,塩見昇氏に論点整理をしてもらった。

●塩見氏による論点整理

 2014年学校図書館法改正によって,初めて法制化された学校司書の職務,専門資格,養成等について検討し,しっかりした専門職としての展望を明らかにすることが本日の課題であり,学校図書館問題の大変重要な焦点となっている課題である。そのためには,共に学校図書館の専門的職務に関わるとされる司書教諭との協働,連携の在り方,この関係をどう考えるのかが,焦点になってくる。両資格の差別化も,論議しておきたい論点の一つである。2014年の法改正により,何が決まったのか,何がこれからの課題として残っているのか,ということをはっきりと正確認識しておくことが,前提として大変大事である。

 次に,文科省協力者会議の報告「これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について」をきっちり正確に把握して,少なくともそれ以下にはならない,後退しないというところをおさえておくことが重要である。

 中身に関しては次の4つである。

 一つ目は,学校司書という名称が法律で明記されたけれども,それは何をする人なのかの理解をつくるということ。

 何をするかについては,第6条が,今到達地点としてはっきりしている。「専ら学校図書館の職務に従事する職員」だというのが法律上の規定である。附則に,学校司書の職務とは「専門的知識及び技能を必要とするもの」と明記されている。この二つを合わせたものが,法律で決まっている,今のところの学校司書の中身になる。だがこれだけでは何がそれに当たるのかがわからない。

 文科省の「学校図書館担当職員の役割・職務,資質能力の向上に関する協力者会議報告」で,@児童生徒や教員に関する「間接的支援」に関する職務 A児童生徒や教員に対する「直接的支援」に関する職務 B教育目標を達成するための「教育指導への支援」に関する職務と整理されているが,大変律儀に全部「支援」という言葉にまとめている。一つの学校の教育活動のベースがあってそれに対して求められたら支援するというイメージを強く持ってしまうと,学校司書の仕事が受動的な印象が強く,ともに教育をつくるという能動性が曖昧になってしまいかねないということも,議論の素材としておきたい。

 二つ目は,司書教諭との違いを明確化すること。学校司書をできるだけ中身のしっかりしたものにしていこうとすると,その差別化がどうしても必要になってくる。法的に二つの職を両方ともに高めていこうとすると,矛盾してくる。

 司書教諭が「学校図書館の専門的職務を司る」,学校司書は「専ら学校図書館の職務に従事する」職務となっている。この表現では二つの仕事に違いはほとんどないのではないか。「専ら」という文言が学校司書にはあり,学校図書館以外の仕事をしたらいけないというわけではないが,一応専任という感じがかなり強く出ている。また,「専門的」が入っているかいないかというところで,学校司書の方は司書教諭ほど専門的ではないということを意識して表現したのかわからないが,そういう違いがある。

 近年まで司書教諭がほとんど発令されてこなかったので,人もおらず,職務内容も曖昧,たまたまその職についている先生の関心と個人的力量にすべてが委ねられていた。だから,司書教諭についての共通イメージが存在しない。同じような仕事をする人を二つ法律に明記するというのはありえない。言葉をできるだけ明確にしなければならない。何より中身を明確にしなくてはならない。曖昧にしたままで学校司書をできるだけ高いレベルで位置づけるというのは不可能であろう。

 三つ目は,差別化したときの司書教諭をどういうものとして考えていったらいいか。

 学校図書館の専門的職務をこなすことは,充て職の司書教諭では不可能だろう。専門的職務という以上は,専ら学校図書館で仕事をするというのが前提である。では,司書教諭をなくしてしまうのかとなると,経緯に照らして大変難しい。司書教諭は学校図書館を教育の中にどう生かしていくかという部分で,教師でないとできない仕事があるはずである。

 四つ目は,一つ目から三つ目を前提に学校司書の資格内容,養成方法,採用の問題等々,学校司書の制度化の中身をどうするか。

 

 別表
 〈学校司書養成教育カリキュラム(塩見案)〉
前提:現行の司書資格取得要件を前提とし,総単位数を司書に必要な24単位と合わせる。
それ以上とすることも,以下とすることも理由は立たないし,現実的でない。
全科目2単位で考える。講習では選択科目を1単位とすることはあり得る。
【必修科目】11科目22単位
   図書館概論   *司書資格科目と共通
   学校経営と学校図書館(学校図書館概論)
   学習指導と学校図書館
   学校図書館サービス論
   情報サービス・演習 *司書資格科目と共通
   学校図書館資料論
   資料組織法・演習 *司書資格科目と共通
   読書教育
   教育総論
   教育心理学
   教育方法・授業論
【選択科目】1科目2単位(又は2科目2単位)以上
   生涯学習概説
   図書館史
   図書館(情報)ネットワーク
   教育制度・法制
   子ども文化論
   著作権
   学校図書館実習

 

 できるだけ高いレベルで学校図書館の専門家として位置づけ,しかも司書教諭とは明らかに違う仕事であることを明記した学校司書を,どういう中身にするか。資格要件の内容としては,図書館の専門家というのを軸にした方がいい。学校の図書館の専門家であるとすれば,学校教育についての基礎教育は必要である。現行の図書館法の司書は24単位となっており,それを超える30何単位と考えるのは全くナンセンスである。24単位の司書資格と同等程度の資格にする,司書資格に必要な科目を共通のベースにしながらそこに学校教育に関する専門科目をいくつか付加する,というのが常識的な線だろう。参考として,私案を考えた(別表参照)。

 採用要件としては,子どもたちもしくは子どもたちを指導している教師が学校にいる時間に必ず就業している,フルタイムの常勤の専任職員が絶対条件である。学校教育活動を担う専門的職員という立場で,継続雇用の保障の明記も必要。1年や2年という期限付きの職員ではそういう仕事を担うことは難しい。

●グループワーク

 以上の論点整理を受け,グループワークに入った。まず,「図書館の仕事で自分が好きな(得意な)仕事」を1つずつ挙げながら自己紹介。グループワーク1のミッションは,「学校図書館(学校図書館専門職員)の専門的職務は何か」。まず,付箋に書き込みながら個々で考え,その後それをグループで話し合った。続くグループワーク2では,「学校図書館の専門的職務を整理しよう(公立図書館との違いを意識して)」というミッションで,グループワーク1と同様,さらに付け加えるべき仕事を個々で考えた後,グループで話し合った。

 グループワーク3はラウンドを3回設け,各ラウンドごとにじゃんけんで勝った人が“島守”として一人残り,負けた人が旅人として違うグループを求めて旅に出,新たなメンバーで話し合うやり方(ワールドカフェスタイル)で,討議を進めていった。

 ラウンド1のミッションはグループワーク1,2で挙げられている学校図書館の仕事を「学校司書と司書教諭はどこがどう違うのか」という観点で,仕分けしていく。仕分けの分類として「学校司書の仕事」「司書教諭の仕事」「両方の仕事」「図書館業務以外の仕事」を考えた。

 グループ替えがなされたラウンド2のミッションは,ラウンド1の観点に「どんな勉強(養成時)が必要か」の視点をプラス。今までに挙がった仕事と照らしながら考えていった。ラウンド3は学校司書と司書教諭の差別化を「現職者への研修」の視点から考え討議した。

 グループ討議の結果,学校司書と司書教諭の差別化が論点であったが,「両方の仕事」に振り分けられる仕事が多く,なかなか差別化が難しいことが明らかとなった。

 仕事の内容としては,「学校司書の仕事」は図書館資料の管理に関わる仕事が一番多く,「司書教諭の仕事」は学校図書館の運営に関わる仕事が,「両方の仕事」としては教科等の指導に関する支援に関わる仕事が一番多く振り分けられた。

 養成に関しては,科目名と内容的なものが混在して挙げられていたので,整理する必要がある。

 研修に関しては,学校司書に対しては,教育学に関する研修の必要性が,司書教諭に対しては,図書館学に関する研修の必要性が挙がっていたが,やはり両方共に必要とされる研修が多かった。すなわち,司書教諭と学校司書が一緒に研修を受ける場を設けることが最も効率的なのであろう。

 最後に,塩見氏よりの講評で,まとめとした。

●塩見氏による講評

 「司書教諭の仕事」が出てこないので,だんだんと「両方の仕事」のところが膨らんでいくという傾向があったようだ。一般的に制度としての司書教諭は実態がないわけだから,その仕事をイメージしろといってもなかなか難しいのは当然。強いて言うなら,おそらくこれから制度化されていくであろう学校司書の仕事なり専門性なりをよく理解して,そのことを学校の中に広げてもらう役割を期待することになると思う。

 本当はあえて二職種置く必要はないだろう。しかし,今は二職種を置かざるを得ない。司書教諭を消すという方向の法改正は,大変困難であるから,両者があるという前提で考えるのが現実的だろう。

 より意識的に,どちらが積極的にやるか,どちらかでなければできない,という意味合いで踏み込んで差別化をやったほうがいいだろう。逆に,そこから養成・研修の内容も当然連動していく。この仕事をするためにはこういう勉強をする必要がどうしてもあるだろうと,かなり踏み込んでいかないと判断しにくいだろう。

 

 今回のワークショップでは,各々が自分の問題として考え,話し合うことが目的であったので,方向性を持ったまとめをすることはしなかった。しかし,参加者の中の,今までは「あなたたちには研修はありません」と言われ途方に暮れていた人が,自分たちも研修を求めてよいのだと気づいてくれたことに一つの成果があったように思う。学校司書にとっては教師との関係で学校図書館の仕事を考えるいい機会となったのではないだろうか。自分たちの仕事を整理するきっかけとなったワークショップであったと思う。

 関西のみならず,東京や岡山,遠くは長崎からの参加もあった。大半が学校司書だったが,司書教諭,大学図書館司書,公立図書館司書の参加もあり,立場の異なる方が参加されていたことによる多少の話にくさがあった。「でもそれはそれでよい面も」などの感想もあり,違った視点を知ることも,自分たちの仕事の見直しには大切なことであったと思う。

 話し合いで挙げられた,仕事の内容,養成・研修に必要な項目については,共催の学校図書館研究グループの研究に委ね,整理・検討して,提示できる形にしたいと予定している。

(文責:研究委員・狩野ゆき/学校図書館研究グループ・市川直美)