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日本図書館研究会研究例会(第319回)報告


テーマ:「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」の概要と調査結果の利活用
発表者:阿部健太郎氏(国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係長)
日 時:2016年3月3日(木)19:00〜21:00
会 場:大阪市立難波市民学習センター多目的室
参加者:22名
 
 国立国会図書館(NDL)では,2014年12月に標記の調査を実施している。今回の例会では,
担当係長の阿部氏に,調査の概要や利活用事例,類似調査との比較等についてご発表いただいた。

1.調査と調査結果の概要
1.1 調査の目的・対象
・図書館が果たすべき役割についてのニーズや図書館利用も含む広い意味での情報行動の傾向を把握し,
 今後の図書館の在り方の検討に資する基礎的な情報を図書館政策立案者,各図書館及び図書館情報学
 研究者等に提供することが目的。
・現在の図書館利用者だけでなく,図書館を利用していない潜在的な利用者も調査対象。

1.2 調査方法
・総務省の住民基本台帳に基づき,居住地,年齢,性別で回答者数(5,000名)を割り当て,
 オンライン調査を実施。
・調査結果(回答データ)等はカレントアウェアネス・ポータルで公開しており,二次利用が可能。

1.3 調査の概要
・「情報行動の傾向」「公共図書館の利用実態」「公共図書館への意識」の三つを調査の柱とした。
・質問項目は「職業・世帯年収・最終学歴等」「ネットやテレビ・新聞等のメディア情報取得行動」
 「公共図書館の利用頻度や目的,期待する役割」等

1.4 調査結果の概要
・メディア別の情報取得行動は「インターネットを閲覧・検索する」「テレビ(ワンセグを含む)を視聴する」
 の頻度が高い。
・インターネットに関する意見について「非常にそう思う」「そう思う」と回答した割合は「インターネットの
 おかげで情報入手が容易になった」(92%)が最も高く,「インターネット上の情報が正しいかどうかは
 容易に判断できる」(25%)が最も低い。
・紙の本の入手方法は「本屋(店頭)で購入」(68%)が最も高く,次いで「オンラインで購入」(45%),
 「図書館で借りる」(31%)と続く。
・情報機器の世帯所有率は高いものから「パソコン」「テレビ」(各97%),「固定電話」(84%),
 「DVDレコーダーやブルーレイレコーダーなどの録画機」(76%)と続く。
・2014年1月〜12月の1年間で公共図書館・移動図書館を「利用した」人は,全体の40%である。
・図書館を「利用した」と回答した人の利用目的は「図書,視聴覚資料やその他の図書館資料を借りる/返す」
 (81%),「図書,雑誌,新聞などを図書館で閲覧する」(49%)の順で高くなっている。
・図書館を「利用していない」と回答した人の利用しなかった理由の上位は「図書館に行く必要性を感じない,
 興味がない」(36%),「本や雑誌は購入する」(27%),「余暇がない」(19%),「図書館が
 近くにない」(17%)となっている。
・公共図書館の役割に関する意識について「非常にそう思う」「そう思う」と回答した割合の上位は「公共
 図書館は,読書好きや教養を育むため,重要である」(80%),「公共図書館では,無料での資料の
 閲覧や,インターネットの利用などができるので,全ての人に平等な機会を与えるのに重要な役割を果た
 している」(71%),「公共図書館 が近くにあることで,その地域の生活の質が向上する」(66%)
 となっている。
・公共図書館のサービスの重要度について「とても重要」「いくらか重要」と回答した割合の上位は「本や
 CDなどの無料の貸出」(75%),「読書や勉強をするための場所の提供」(68%),「ウェブサイト
 での蔵書目録などの情報提供」(63%)となっている。

2.利活用事例
2.1 子の有無と図書館利用・情報行動の関係
 佐藤翔氏(同志社大学)が情報メディア学会第14回研究大会(2015年6月)で発表。子の有無と,
 図書館利用・情報行動及び図書館への認識についての分析を行い,同居する子を持つ親は図書館をよく利用
 するが,多くは付添で,自身のための利用になっていないことを明らかにした。

2.2 社会階層と図書館利用
 野口康人氏(筑波大学),岡部晋典氏(同志社大学)らが社会情報学会(SSI)学会大会(2015年9月)
 で発表。社会階層と図書館利用について検証し,経済資本,文化資本,社会関係資本を多く持つ人ほど図書館
 利用の割合が高いことを明らかにした。

2.3 図書館利用と地域差
 同志社大学の学生グループが図書館利用と都市規模等のデータを分析。第17回図書館総合展フォーラム
 (2015年11月)で佐藤翔氏が発表。大都市居住者の方が図書館利用者の割合が少ないことを明らか
 にしたが,その要因は居住地域の図書館の所在地を知らないことによると考察。

3.類似調査との比較
 調査内容が類似しており,実施時期も近い毎日新聞社の調査(2014年8〜9月)と総務省の調査
 (2014年11月)との比較を行った。(調査対象の範囲や調査方法等が異なるため厳密な比較はでき
 ないが,類似内容の質問項目についておおまかに比較)

3.1 メディア別の情報取得行動の頻度
 三調査とも「テレビ」は似た割合にある一方で,その他は全体的に総務省調査の利用割合が低くなっている。

3.2 情報機器の所有・利用状況
 総務省調査との比較のみ。テレビの所有・利用状況は両調査とも似通っている一方で,録画機は総務省調査が
 高くなっている。パソコンはNDL調査が全体的に高い一方で,スマートフォンは総務省調査が全体的に高く
 なっている。

3.3 メディア別のコミュニケーション行動の頻度
 総務省調査との比較のみ。メール,動画サイトの利用割合はNDL調査が全体的に高くなっているが,ソーシャル
 メディアについては両調査とも似た割合を示している。

4.おわりに
 公開している調査結果は,ローデータ,調査結果の単純集計等にそれぞれ特徴があるので,目的に応じて
 参照して欲しい。なお,ローデータの利用は統計的な処理や分析が前提になるため,一定の専門知識が必要に
 なる。研究だけではなく,学生用の演習素材としても有効かと思うので,可能ならば是非活用して欲しい。
 
                             (記録文責 日置将之 大阪府立中央図書館)