TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2015年度 > / Update: 2016.3.6
この発表では,複数の自治体で制定され始めている読書条例の概要を紹介し,その現状や課題等について述べた。
読書条例が制定され始めるより前に,読書関連の法律が作られている。「子どもの読書活動の推進に関する法律」(2001年12月公布・施行)と「文字・活字文化振興法」(2005年7月公布・施行)である。読書条例の誕生には,これらの法律が影響していたと考えられる。
2015年7月までの時点では9自治体での制定が確認されている。
2.1 県による読書条例
秋田県が「秋田県民の読書活動の推進に関する条例」を2010年に制定している。同条例では,すべての県民が読書活動を行えるよう環境整備を進めることを求め,読書活動推進に関する基本計画の策定や施策実現のための予算措置(義務規定)のほか,関連機関との連携等についても定めている。
同条例に基づき,2011年には「秋田県読書活動推進基本計画」が策定されているが,計画策定時の県議会では,条例制定も含めた経緯について,「子どもの読書活動の推進に関する法律」等が背景にある旨の説明がなされている。なお,現在のところ,他の都道府県による読書条例は確認できていない。
2.2 市による読書条例
2011年に制定された「仙北市市民読書条例」では,市立図書館の蔵書充実や市立図書館と小中学校図書館等のネットワーク構築等の市の責務を定めている。
2012年に「恵庭市人とまちを育む読書条例」を制定した恵庭市は,条例の制定以前から活発に読書活動を推進していたが,条例施行後には喫茶店や銀行など市内各所に本を置いてもらう「恵庭まちじゅう図書館」や,市立図書館本館を1日限定で24時間開館にする「図書館開館24時」(2013年以降は24時までの開館)等の多様な取組みを展開し,他の自治体からも多くの視察を受け入れている。
2013年には「横浜市民の読書活動の推進に関する条例」と「中津川市民読書基本条例」が制定されている。横浜市の条例は政令指定都市では初めてのもので,条例制定後には市立の小・中・特別支援学校全校への学校司書配置が進められている。
中津川市は図書館の新館建設が選挙の争点となり,最終的に建設中止となった自治体である。同市の条例制定については,図書館の建設中止によって同市に対して持たれたマイナスのイメージを払しょくしたいとの狙いもあったようである。
2.3 町による読書条例
2004年に制定された「高千穂町家族読書条例」は読書条例の嚆矢で,家族ぐるみの読書運動(家族読書)に焦点を当てている点が特徴的である。
2014年には「有田川町こころとまちを育む読書活動条例」と「野木町民の読書活動の推進に関する条例」が制定されている。これらの条例には,施策の実施時に「子どもの読書活動推進法」に基づく計画等との整合性を求めている点や,11月を町民の読書活動推進月間に指定している点等,共通点が多い。なお,野木町では,条例と同時に「キラリと光る読書のまち野木宣言」も議決されている。読書に関する条例と宣言の同時議決は珍しいものである。
2.4 独自性の強い読書条例
2015年には,「北九州市子ども読書活動推進条例」が制定されている。政令指定都市としては二番目になるが,独自性の強い内容となっている。特に,対象を「子ども」に絞った条例は本条例のみで,条文数も19条と他の条例の約2倍になっている。また,「子ども図書館」の設置や「北九州市子ども読書活動推進会議」の開催等,具体的な取組みに関する規定が多い点も特徴的である。
「子どもの読書活動推進法」制定時には,個人的な活動である「読書」について,法律で推進することに懸念を示す意見も見られた。読書条例についても同様の懸念が示されている可能性はあるが,現時点で文章として公表されたものは見当たらない。
条例の制定までは行わず,「読書のまち」を宣言する自治体も多い。この宣言は,自治体の目指すべき方向や重点目標等を示したもので,基本的に議会を通過していることが多いが,法的な強制力は生じないとされている。「読書」をまちづくりの重要な要素としたいが,強制力のある条例制定までは踏み込めない自治体が宣言を選択している可能性がある。
今後も読書条例を制定する自治体は増えていくと考えられるが,ある程度の実績が積みあがった時点で,読書条例の実効性に関する検証を行う必要があるだろう。
(記録文責:日置将之)