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日本図書館研究会研究例会(第315回)報告


日時:
2015年6月27日(土)14:00〜16:30
会場:
大阪市立総合生涯学習センター第3研修室
テーマ :
図書館職の記録研究グループ研究成果『図書館から,図書館を超えて:視覚障害学生との出会い,DAISY,国際貢献』について
発表者 :
深井耀子氏(椙山女学園大学名誉教授)
浜口美由紀氏(独立行政法人国際交流基金関西国際センター図書館)
田口瑛子氏(京都精華大学名誉教授)
参加者:
17名

はじめに

 日本図書館研究会図書館職の記録研究グループは,現代図書館史の研究方法の一つとして,司書の仕事を記録し,「シリーズ 私と図書館」として,これまでに豊後レイコ,北野康子,山田伸枝,伊藤昭治らの記録を5冊刊行している。
 今回,『図書館から,図書館を超えて:視覚障害学生との出会い,DAISY,国際貢献』(シリーズ 私と図書館 No.6)(語り手:河村宏,聞き手:赤瀬美穂,田口瑛子,深井耀子,小林卓 女性図書館職研究会・日本図書館研究会図書館職の記録研究グループ発行 2014年10月)を刊行したことから,研究グループの成果報告として3つの発表が行われた。以下はその概要である。

1.河村宏氏の記録について(浜口美由紀氏)

 本書の内容について,章に沿って紹介があった。
 河村氏は,東京大学総合図書館司書としての仕事のなかで視覚障害者に出会い,IFLAで盲人図書館分科会議長を務め,現在はスイスを本拠地とする法人(DAISYコンソーシアム)理事として活躍している。本書は,視覚障害者だけでなく,すべての人たちの知識と情報へのアクセスの保障をライフワークとした氏の仕事について,語り下ろした記録であり,大きくわけて3つのパートに分かれている。
 第1章「一番はDAISY/DAISYコンソーシアム」は,氏の活動の中心となったDAISY/DAISYコンソーシアムでの活動の記録である。
 第2章「東京大学総合図書館で働く」は,東京大学理学部卒業後,東京大学総合図書館でスタートした図書館員としての仕事と活動や,視覚障害学生との出会いと,その後の日本図書館協会障害者サービス委員会や多文化サービス委員会の活動が記録されている。その流れのなかでIFLAの盲人図書館セクションの活動へとつながる経緯が述べられている。
 第3章「DAISY・国際貢献」では,現在取り組んでいる活動の内容について,グローバルに動いている様子が記録されている。
 そして最後の章では,ご家族のサポートのことなど,プライベートな部分の河村さんの人間的な面も紹介されている。
 発表者は,障害者サービス全般については本の上の知識しかなかったとのことだが,非常にボリュームのある活動記録のその内容に圧倒され,また,河村氏の職業人としてのスタートが大学図書館であったことは,本書序文にある小林卓氏の言葉を借りれば「すべての活動が同じフィロソフィーのもとに実現されている」ということに尽きると感じたと話を締めくくられた。

2.記録事例の先行研究について(深井耀子氏)

 今回の記録は,5冊目までの本人による書き下ろし記録とは異なる「インタビュー」という手法を使っていることから,口述やインタビュー,座談会などによる優れた先行事例について紹介があった。
 これらの手法を使うことにより,論文などでは表現しにくい言葉のニュアンスと,即興になるため生き生きとした語り口が随所にあらわれている。また,相手がいる対話だからこそ,思いがけなく引きだされる貴重な生の証言や裏話,秘話などが明らかになっていると指摘された。
 挙げられた主な事例は,次の通りである。
(1)(口述・記録)『図書館との半生 読書・思索・智命』森耕一著,森昌子,統一,拓二郎編集発行,1993.11.
(2)『アメリカ図書館史に女性を書きこむ』スザンヌ・ヒルデンブランド編著,田口瑛子訳 京都大学図書館情報学研究会発行 日本図書館協会発売,2002.7.
(3)(自伝)『ゾイア!:ゾイア・ホーン回顧録,知る権利を求めて闘う図書館員』ゾイア・ホーン著,田口瑛子訳 京都図書館情報学研究会発行 日本図書館協会発売,2012.3.
(4)(インタビュー)『「中小都市における公共図書館の運営」の成立とその時代』オーラルヒストリー研究会編,日本図書館協会,1998.3.
(5)(インタビュー)『ハンセン病図書館 歴史遺産を後世に』山下道輔著,柴田隆行編,社会評論社,2011.10.
(6)(インタビュー)「関係者が語る都立中央図書館開館への歩み」『図書館を創る力:都立中央図書館開館への記録』東京都庁職員労働組合教育庁支部日比谷分会,2013.10.
(座談会)「現場から見た図書館行政」『週刊とちょう』第216号,1969.
(7)(インタビュー)「アメリカ女性図書館員の運動マーガレット・マイヤーズさんを訪ねて」聞き手:田口瑛子 1986年6月4日 於・ALA本部 『図書館雑誌』80(11),1986.11.
(8)(口頭報告)「誰かがハードルを:38度線を超えたクムス文庫」全国図書館大会1990年度大会。
(9)(インタビュー)「公共図書館の誕生を支える 図書館長清水正三の歩み」『みんなの図書館』(180)〜(185),1992年5月号〜10月号まで連載。
(10)(座談会)「『界』の過去・現在・未来を語る」川崎良孝,糸賀雅児,松井一郎,渡辺信一などによる。『図書館界』48(5),1997.1.
(11)(座談会)「障害者サービスと日本図書館研究会〜障害者会員が語る,これまでとこれから〜」立花明彦,服部敦司,前田章夫,『図書館界』66(4),2014.11.
(12)『見えないものと見えるもの−社交とアシストの障害学』(シリーズケアをひらく)石川准著,医学書院,2004.1.

3.資料紹介:管理職女性の声・アメリカ(田口瑛子氏)

 図書館職の記録研究グループの研究テーマに関連して,アメリカの管理職女性に関する文献の紹介があった。
(1)Women view librarianship: nine perspectives
by Kathryn Renfro Lundy; with pencil portraits by Duane Hutchinson.
(ACRL publications in librarianship, no. 41) American Library Association, 1980
 ACRL加盟大学図書館の館長など指導的女性管理職へのインタビューを収録。仕事や経歴,図書館における女性の役割などへの見解を語っている。
(2)『アメリカン・ライブラリーズ』の特集2件。
3月は女性史月間ということで特集が組まれた。
・Landgrap, Greg “Women in management, revisited," American Libraries, Mar/Apr 2015, Vol. 46 Issue 3/4, p60‐64.
 1985年のAL誌の記事“Spotlight on women managers”の6人の管理職女性のうちの4人にインタビューし,30年間で変化したことや変化しなかったことなどについて尋ねている。
・Deyrup, Marta Mestrovic “A career of our own," American Libraries, Mar/Apr 2015, Vol. 46 Issue 3/4, p65‐67.
 6人の大学図書館長へのインタビューをまとめたもの。ジェンダーと大学図書館職という視点からも尋ねている。

 当日は東京,新潟,静岡など遠方からの参加者も多く,発表後には活発な質疑応答が行われた。
 加えて,参加者の立花明彦氏から,文献(5)に挙げられたハンセン病図書館の状況についても詳しく伺うことができた。

◆『図書館から,図書館を超えて:視覚障害学生との出会い,DAISY,国際貢献』について
 ぜひご一読ください。また,購入を希望される方は,氏名・送付先を明記の上,下記までご連絡ください。
 連絡先 akase@center.konan‐u.ac.jp
 なお,価格(送料込み)は1,200円です。

 

(文責 赤瀬美穂 甲南大学)