TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2014年度 > / Update: 2015.10.31
第311回研究例会は,ワークショップ的な研究会であり,そのテーマは「近未来,たとえば2030年の図書館像の想定とそこへの道筋についての模索」というものであった。まず,基調報告として,山本順一氏よりアメリカの図書館界の方向性についての報告を受け,その後,各参加者から,基調報告で示されたアメリカの方向性を踏まえ,自分の居る場所及び経験から見えてくる図書館の現状と展望,問題点,解決方策について,近未来を創造するという視点から発題があり,参加者の討議を通じてそれを深めた。討議は夕食を挟んで21時まで続け,希望者は更に合宿形式で深夜まで討議を行った。
基調報告では,日本の図書館は,情報技術の影響を取り込むという点で,アメリカに非常に遅れをとっているという指摘から始まった。そして,図書館に限らず社会が急速に変化しているという現状は,ここ20年の情報環境の変化によるものであり,生物としての人間については,古代ローマの時代からそれほど変化がないことが指摘され,更に,未来を見据えるためにロングスパンの歴史観を持つ必要性があること,主体的な変動演出の可能性のための底流する動向・発展方向を把握することが重要であることが示唆された。そして,「knowledge & learning(知識と学習)」から「知識創造を容易にする事による『improving society(社会を良くする)』」という大きな潮流があることが紹介され,またこれが伝統的な図書館観と決定的に異なるとするより,程度問題として捉える余地があることが説明された。
上記導入部の議論を踏まえ,五つの視点から,アメリカ図書館界の潮流が紹介された。その五つとは,@Stuff(モノ・資料),APeople(図書館で働く人々),BCommunity(地域社会),CPlace(場所),DLeadership and vision(リーダーシップと将来展望)という五つの視点であり,Joseph Janes編『Library2020』の枠組みに従ったものである。
@Stuffでは,アメリカの図書館界の急速なデジタル化の事例が紹介され,続いてAPeopleで,アメリカの図書館員の状況の変化が紹介された。BCommunityが基調講演でもっとも広く深く話をされた部分であり,重要なキーワードとして「Embedded librarians(コミュニティに組み込まれた図書館員)」が紹介された。続いてCPlace DLeadership and visionにおいて,4,5年かけて寄付の意義を説き続けることを始めとして地道な努力が進められていること,さらに,図書館友の会等が寄付集めの手足となって動いていること,更にはリーダーシップの中に予算獲得の力が含まれているなど,図書館の財政について上から公的資金が降ってくるのを待つのではなく,積極的に確保に動いている姿が紹介された。
この基調講演を受けて,各参加者がそれぞれの立場から発言し,またお互いの知見・経験を共有することによって,それぞれなりの「図書館の未来像」について深める事ができた。14時開始,討議終了が21時,希望者対象合宿も付置されたこともあり,通常の研究例会よりはるかに深い議論が展開できた。なお,討議の詳細については更に深めた上で,山本氏の本務校である桃山学院大学の紀要において共著論文として公表予定であるため,ここでは基調報告の概要についてのみの報告にとどめる(授業や雑務に取り紛れ,原稿化が遅れているとのことである)。
(担当:藤間真)