日本図書館研究会研究例会(第306回)報告
- 日時:
- 2014年6月25日(水)19:00〜21:00
- 会場:
- 大阪市立総合生涯学習センター第5研修室
- テーマ :
- 「大阪府下の学校図書館に関する研修の現状調査」からの考察
- 発表者 :
- 学校図書館研究グループ 谷嶋正彦氏(大阪信愛女学院図書館)
- 参加者:
- 21名
1.アンケート調査の目的
私たち学校図書館研究グループは,2012年に「大阪府下学校図書館現状調査」 を実施した。その結果,学校図書館担当職員(以下,学校司書という)は,不十分な雇用形態ではあるが配置自治体が増えており,教育委員会も公立図書館も学校図書館の充実に向け,様々な研修を実施していることが分かった。しかし,果たしてそれらの研修は,学校図書館の活性化に結びついているのだろうか。それを探るために,大阪府下全自治体の教育委員会へのアンケート調査を実施することにした。
2.調査の経緯
2013.10 大阪府下の全ての教育委員会学校図書館担当者にアンケートを依頼
2013.11 回収と集計(発送数:43,回答数:29,回答率:67.4%)
3.調査からわかったこと
(ここではアンケート結果の細かい数字や指摘は省き,結論のみを記す)
3.1「現在実施されている研修内容」の結果
- 学校司書対象では,「読書推進活動」「学校図書館と公立図書館の連携」にかなり偏っている。
- 学校司書に対し,「個人情報保護」についての研修を実施している自治体が全くない。
- 学校司書の「初任者研修」が実施されていない。
- 司書教諭対象では,「利用教育」「資料提供やレファレンス・予約」「個人情報保護」についての研修はほとんど行われていない。
- 一般教諭,管理職対象の研修はあまり実施されていない。
- 公立図書館司書対象の研修を実施している自治体は少ない。実施内容は「学校図書館と公立図書館の連携」「読書推進活動」である。
3.2 「今後必要と考える研修内容」の結果
- 学校司書対象では,「読書推進活動」「学校図書館を活用した授業」「学校図書館と公立図書館の連携」の回答が多く,授業活用に学校司書が役立つことが求められている。しかし,学校司書の役割である「利用教育」「資料提供やレファレンス・予約」などの研修を考えている自治体は少ない。
- 司書教諭対象では,「学校図書館を活用した授業」「読書推進活動」と回答した自治体が多く,学校図書館を活用した授業の必要性が高まってきていることが伺える。
- 一般教諭対象では,「学校図書館を活用した授業」「読書推進活動」「学校図書館の運営体制」と回答した自治体が多く,学校図書館を活用した授業を一般教諭にも認識してもらう必要があると考えられている。
- 管理職対象では,「学校図書館の運営体制」が必要と考えられている。
- 公立図書館司書対象では,「学校図書館と公立図書館の連携」と回答した自治体が多かった。
4.まとめ
以上の調査結果から,研修が実施されているとはいうものの,その中身は学校図書館の活性化に結びつくまでには至っていないことがわかった。特に,
- 子どもたちの図書館利用情報など,個人情報の取り扱いについて,研修が不足している。
- 学校図書館の活用は,司書教諭,学校司書だけでなく学校全体で取り組む必要がある。一般教諭,管理職に対する研修はもっと行われるべきではないか。
- せっかく配置された学校司書に対し,初任者研修を実施するなど,学校として受け入れる体制を作る必要があるのではないか。
- 資料提供,レファレンス・サービスなど,図書館機能を充実させるためには公立図書館の支援は不可欠で,公立図書館司書にも学校図書館の機能について理解を深めてもらう研修が必要である。
などがあげられる。
この後,調査結果から「学校図書館に関する望ましい研修内容」を提案し,参加者から「個人情報の取り扱い」「公立図書館の機能」の研修が必要であるなど多くの意見をいただき,討議した。
1)飯田寿美「学校図書館と公立図書館との連携−大阪府下学校図書館現状調査からの考察」『図書館界』65(2),2013.7,p.124―125.
(文責:谷嶋正彦)