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日本図書館研究会研究例会(第304回)報告


日時:
2014年3月29日(土)18:30〜20:30
会場:
大阪市立総合生涯学習センター第5研修室
テーマ :
少年院・少年鑑別所の読書環境について:「少年院・少年鑑別所における読書環境等に関する調査」報告
発表者 :
日置将之氏(児童・YA図書館サービス研究グループ)
参加者:
12名

 この発表では,児童・YA図書館サービス研究グループが実施した「少年院・少年鑑別所における読書環境等に関する調査」の結果を報告し,今後の展望等について述べた。

1.調査の概要について

 少年院・少年鑑別所の読書環境等について,少年院法改正前の実態を知ることを目的として実施。2005年にも同様の調査を実施しているが,少年院のみを対象としていた。今回は少年鑑別所も対象としている。調査対象は全ての少年院と少年鑑別所(計104施設)で,全29問の質問紙を対象施設に郵送し,回答を返送してもらった(調査時期は2013年6月から7月)。回収率は,少年院28施設,少年鑑別所29施設の計57施設で,55%だった。

2.調査結果について

 調査結果の中から,基本的な項目や特徴的な項目に絞って報告した。

 蔵書冊数の平均は少年院が5,599.7冊,少年鑑別所が2,714.1冊だった(概数の施設も含む)。少年院が少年鑑別所の約二倍の蔵書冊数になっている点が特徴的である。前回の調査では平均4,940冊であったため,少年院については増加が認められる。

 年間資料購入費の平均(概数含む)は,少年院が275,351円,少年鑑別所が178,500円となっており,こちらも少年院が少年鑑別所を大きく上回っている。前回の調査では平均312,500円だったため,蔵書冊数とは違い減少している。

 蔵書数,年間資料購入費ともに,少年院が少年鑑別所を大きく上回っている。これには,両施設の収容期間や規模等の違いとともに,少年院が矯正教育の実施を主目的としている施設である点が大きく影響していると考えられる。

 寄贈の有無については,少年院では回答のあった全施設で寄贈を受けており,少年鑑別所でも約9割が受けているとの結果だった。蔵書中の寄贈図書の割合は,少年院が平均17.2%(最高65%)で,少年鑑別所が20.1%(70%)だった。施設によっては大きく寄贈に依存していることが明らかになった。

 マンガの有無については,少年院の「所蔵あり」が57%だったのに対し,少年鑑別所は97%が「所蔵あり」だった。所蔵マンガの内容については,少年院が手塚治虫作品や歴史関係等の比較的堅実なものが多い一方,少年鑑別所は『ワンピース』等の少年マンガを所蔵している施設が多かった。教育を重視する少年院では,少年鑑別所よりもマンガの所蔵内容も教育的になっているのではないかと考えられる。

 読書を活用した矯正教育の実施状況については,少年院では89%の施設が「あり」と回答している一方で,少年鑑別所でも37%の施設が「あり」と回答していた。名目上は矯正教育を行わない施設である少年鑑別所でも,読書を活用した取組みが見られる点は興味深い。具体的な取組み内容は,ともに「読書感想文」が最も多く,少年院の場合は「読書感想文発表会」や「朝の読書」を実施している施設も多く見られた。少年院では,同時に2〜3種類の取組みを行っている施設が多かったが,少年鑑別所はほとんどの施設が1種類のみとなっていた。

3.考察

 少年院と少年鑑別所とでは,少年院の方が読書環境は充実しており,多様な取組みがなされていると分かった。2005年との比較では,蔵書冊数は増えていたが,予算は逆に少なくなっていた。ほぼすべての施設が寄贈を受けており,寄贈に大きく頼る施設もある点は,予算減少との関連が伺われる。

 図書館サービスの活用については,2005年より割合の上昇が見られるものの,いぜんとして「知っているが利用していない」施設も多い。図書館側からの積極的なPRも必要かと思われる。

 2014年の通常国会で上程中の少年院法改正法案成立後,一定期間経った後に再度調査を行い,読書環境等の変化を見ていく必要があると考えられる。

(記録文責:日置将之 大阪府立中央図書館)