TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2013年度 > / Update: 2014.5.1
常勤ポストにない若手研究者の文献入手環境に関わる「カレントアウェアネス」上での問題提起をきっかけに,これに図書館がどう関われるのかという問題意識の下,今回の例会は企画された。当日は,西洋史研究をバックグラウンドに持ち,「若手研究者問題」に取り組んでいる講師お二人の発表の後,会場を交えた活発な質疑が行われた。参加者は大学図書館員を中心に,若手研究者や公共図書館員など多様であった。なお,今例会は,大学図書館問題研究会京都支部と共催で開催された。
最初に,多数の若手研究者が専任教員ポストに就職できないことを巡る「若手研究者問題」が80年代以降の高等教育政策を背景に生じた歴史と現在の状況が示された。そして,人文社会科学振興の観点から,図書館に望むことを提示された。それは,研究支援組織として,レファレンスやILL,データベースのサービス対象を広くして研究環境を提供すること,ついで学会誌の電子化やオープンアクセス化を支援して,発表の場を維持することである。さらにコンソーシアムの組織などにより,国内大学全体の底上げを図ることがある。一方,教育支援組織としては,電子資料の活用法等を伝える取り組みやプレFD的な取り組みが提案された。
まず西洋史若手研究者問題検討ワーキンググループによるアンケート調査の結果概要が報告された。図書館に関わるものでは,若手研究者の文献入手環境の悪さは明らかで,また,大学図書館の利用ニーズがある。ついで,「カレントアウェアネス」記事への批判に対する応答が示された。まず,そうしたサービスは公共図書館が担うべきという意見には,サービス対象を所属者に限っている大学図書館の制度自体への問題提起に対する反論にはなり得ないとされた。ついで,支援を行うべきは図書館界全体であるという意見には,それを是とした上でむしろ将来の利用者となる若手研究者へ大学図書館をアピールする機会と捉えてはどうかとの提案がなされた。
講師と会場の各館種の図書館員,若手研究者らによる意見交換が行われた。そこで,望まれるサービスのあり方が確認される中で,大学図書館員と公共図書館員間で互いにILL等の敷居が高いと感じていること,一口に「若手研究者」と言っても分野によって図書館への主たるニーズは異なること,一般に研究者は図書館サービスや運営のあり方に明るいわけではないことなどが,あらためて浮き彫りになった。また,大学図書館であれ公共図書館であれ,サービス対象を拡大するには,ステークホルダーのコンセンサスを得る必要があることを踏まえた上での問題提起が必要との指摘がなされた。
講師からも指摘があったように,文献入手環境を巡る問題は,「若手研究者問題」の中のごく一部である。そうした中で全体的な状況を変えていくには,既に一定のポジションにある研究者などアカデミアに関わる人たちが,大学や国のポリシーに働きかけていくことも求められる。一方,図書館は,既存の利用者像に縛られることなく,社会の変化に対応して,サービスのあり方を検討していく必要があろう。
1)菊池信彦「若手研究者問題と大学図書館界−問題提起のために」カレントアウェアネス,No.315,2013.3.(文責:赤澤久弥 京都大学附属図書館)