日本図書館研究会研究例会(第300回)報告
- 日時:
- 2013年9月14日(土)15:00〜17:00
- 会場:
- ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)情報ライブラリー
- 発表者 :
- 木下みゆき(一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団・大阪府立男女共同参画・青少年センター)
- テーマ :
- 刊行資料から探る災害・復興と男女共同参画(中間報告)
- 参加者:
- 5名
1.はじめに
1995年1月阪神・淡路大震災や2004年10月中越大震災で女性が直面した困難状況を踏まえて,災害支援・復興政策・防災におけるジェンダー視点の必要性が訴えられるようになった。しかし当時,その視点に立った情報発信は限られた数に留まり,また,出版物として広く一般の人の目に触れることもなかった。つまり,防災や復興にジェンダー視点を活かすのに十分な情報資源がまとまっていたとはいえない。
一方,2011年3月11日の東日本大震災に関しては直後から,過去の災害時とは比較できないほど様々な立場の女性によって積極的に多様な情報が発信された。震災から2年間に発信されたこれらの内容を整理・分析することにより,災害や復興に必要なジェンダー視点とは具体的に何を示すのか,何が求められているのかを探りたい。
2.男女共同参画の視点からの防災・復興
特集「男女共同参画の視点からの防災・復興」が組まれた『平成24年版男女共同参画白書』の次のような統計を用いて,ジェンダー統計によって明らかになる被害状況等を紹介した。「東日本大震災の男女別・年齢階層別死者数(岩手県・宮城県・福島県)」「阪神・淡路大震災の男女別・年齢階層別死者数(兵庫県)」「地震の揺れがおさまった後の行動(男女別)」「災害直後からの避難所での生活について困っていること(男女別)」「備蓄や支援物資に対する要望(男女別)」「東日本大震災に関連する自殺者数の男女別割合」「岩手県・宮城県・福島県における女性の悩み・暴力相談実施状況」
多くの専門家が述べているように,平常時に潜在的に存在する性別役割分業が,災害が起こると強化されることがこれらの統計からもよくわかる。
3.女性の視点からの災害復興支援活動記録:特徴的な資料例
様々な立場の女性たちがどのような目的で活動記録を発信したのかを知ることによって,男女共同参画の視点で防災や復興に求められる支援を考えた。例として,下記の資料他計18点を取り上げた(下線は報告者による)。
- 『女たちが動く:東日本大震災と男女共同参画視点の支援』(みやぎの女性支援を記録する会)
「今回と同様の震災が全国のいつどこで発生しても不思議ではない今日,これから発生する震災の被害を少しでも軽減するために,私たちが体験したことを記録に残しておくことは被災地に生きる私たちの責務であると考えた。 日々の暮らしのための仕事と次々と出現する復旧・復興の問題の対応に忙殺されるなかで,本書の出版を企画したゆえんである。」
- 『こんな支援が欲しかった!現場に学ぶ,女性と多様なニーズに配慮した災害支援事例集』(東日本大震災女性支援ネットワーク)
「災害にあった方々は,『被災者』と一括されがちですが,性別,性別自任,年齢,障がいの有無,国籍や母語の違い,家族構成や就労状況によって必要とされる支援は異なります。東日本大震災の支援活動にあたったさまざまな団体の経験から得られた支援事例を集めました。」
- 『3・11 女たちが走った:女性からはじまる復興への道』(特定非営利活動法人 日本BPW連合会)
「東日本大震災という未曽有の大震災で,被災者の半数は女性であり,犠牲者の過半数が女性というのに,復興を支えるあるいは復興の対象者の半数が女性であるというのに,災害・防災・復興のための公的な委員会が男性のみ,あるいはほぼ男性で占められているということはおかしいという気づきがあった。」
- 『3.11後を生きる:シングルマザーたちの体験を聞く』(しんぐるまざあず・ふぉーらむ)
「震災でシングルマザーたちはどうしているのだろう。(中略)子どもとは出会えただろうか。ただでさえ不安定な仕事がなくなっているのではないだろうか。家に住めなくなった人はどうしているだろう。避難先でどうしているだろう。(中略)わたしたち自身の明日でもあるこのことをちゃんとみなさんに伝えたいと思う。」
- 『東日本大震災における支援活動の経験に関する調査報告書』(東日本大震災女性支援ネットワーク)
「私たちは震災後の早い時期から,被災した女性たちのニーズを調査して支援活動につなげたいと考えていた。(中略)直接すぐに支援活動に結びつかないとしても,被災における女性の経験を調べ,記録し,報告することには意味がある。」
- 『福島原発事故と女たち:出会いをつなぐ』(大橋由香子)
「多くのメディアが原発事故や「脱原発」を取り上げてきましたが,それらを読んでいても,なぜかもどかしく,心がざわつきます。満たされない気持ちについて語り,それはどうしてなのかを考えるなかで,この本を作ろうと私たちは考えました。「福島の女たち」という言葉にあちこちで遭遇します。にもかかわらず,女たちの個々の体験や気持ちは充分に伝えられていないのではないか。」
- 『復興の女性たちの声を:「3・11」とジェンダー』(安部芳絵他)
「災害直後から,研究者が大挙して被災地に押しかけているという話を耳にした。果たして,それらの研究は,被災された方々をエンパワーするものになっているだろうかという疑問を抱くとともに,わたしたち自身の姿勢も問われていると感じた。(中略)東日本大震災とその復興において,女・母・女の子の声はなぜ聴かれないのか。この問題を出発点として,災害復興期におけるジェンダーについて考えていきたい。」
- 『40人の女性たちが語る東日本大震災』(特定非営利活動法人イコールネット仙台)
「このひとつひとつの体験の背後には,数知れぬ多くの体験が存在しています。それが東日本大震災の現実です。この震災で困難を抱えたのは,女性たちだけではないでしょう。しかし,女性は自身だけにとどまらず,子どもやお年寄りなど災害時に困難を抱える人々の現実もあわせて引き受けている場合が多く見られます。(中略)どの地域にも起こりうる災害に備え,女性たちの困難が二度と繰り返されないために,本調査を多くの方々に活かしていただけることを期待しています。」
4.さいごに
発信された情報を手掛かりに,今後の被災者支援や防災・復興施策立案に繋げる内容を明らかにすることは図書館員ならでは役割の一つである。発信された情報が政策を動かす力を持つ可能性を信じて,今後も,男女共同参画センターの図書館員としてできることを模索していきたい。
(文責:木下みゆき)