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日本図書館研究会研究例会(第297回)報告


日時:
2013年4月27日(土)14:00〜16:00
会場:
大阪市立難波市民学習センター第4研修室
発表者 :
大平睦美氏(京都産業大学)
テーマ :
小規模校における学校図書館活用授業の実践−島根県の学校をめぐる調査報告
参加者:
18名

1.調査の概要

 本報告は,学校教育に寄与することであることを踏まえ,学習指導要領にある児童生徒の「生きる力」の育成に学校図書館を,より有効に活用することを目的として島根県の学校図書館を調査した報告である。
 島根県を対象として学校図書館を調査した理由は,県行政が中心となって「生きる力」の育成に学校図書館活用教育を推進していることがある。島根県では2009年度「子ども読書活動推進事業」により,全ての学校に学校図書館職員(図書館職員A,図書館職員B,図書館ボランティアの中から学校が選択する)を配置してきた。また,今年度からは配置義務が猶予されている11学級以下の学校も含め全ての学校に司書教諭の発令を始めている。
 そこで,2012年10月30日〜11月2日の4日間で島根県内10校の学校図書館を調査した報告と,継続的に調査研究していた大田市立旧富山小学校(2013.3閉校,2013.4より朝波小学校に統合)における複式学級での学校図書館を活用した授業実践の取組みについて発表した。

2.調査結果

 調査した学校10校中9校が,11学級以下の小規模校であったが,これは意図して調査したのではなく,学校図書館活用教育の推進に取り組む学校を選んだ結果であり,小規模校が全体の約73%を占める島根県の実情を表していると考える。10校の学校は,読書活動や,調べ学習の推進などそれぞれの学校にあった学校図書館活用教育を行っていた。しかし,図書購入費などの予算は,児童生徒数によるところが多く,小規模校の予算は少額になることから,いずれの学校も少ない予算の中,資料の不足が課題となっていた。
 これまでの調査で,小規模校であることを現場の教員は,「人間関係の固定化」,「予算規模が小さい」,「近くに友だちがいないため,長時間テレビやゲームで時間を過ごす」など,マイナスとして捉えていることが分かっていたが,(1)全校生のコミュニケーションが取りやすい,(2)児童生徒一人に対する教員の数が中・大規模校よりも多い,(3)保護者,地域が学校に協力的である。という利点があり,その利点を活用した学校教育の展開が可能であると考えた。
 富山小学校は全校児童20名3学級の複式学級の学習スタイルを用いる。学校図書館法で司書教諭の配置義務が猶予されている11学級以下の学校であるが,先に述べた「子ども読書活動推進事業」により,学校図書館ボランティアが配置されている。そのような環境では,複式学級の学級経営においては,授業で学校図書館を活用することで一斉授業では困難な習熟度が異なる個への働きかけを可能としていた。それは学校図書館の機能だけではなく,学校図書館職員(富山小学校の場合は,図書館ボランティア)による授業への関わりが,児童の個に対応する際,大きな役割を担っていることがわかった。

3.まとめ

 課題としては,教育課程を支える学校図書館が実現するために,学校教育のカリキュラムは規模に関わらず同じであることから,不足している資料を充実するため,図書に限らず学校図書館メディアの構成を検討すること,そのために必要な情報活用能力の育成とともに,少人数によるコミュニケーション能力を高めるカリキュラムの構築が必要であると考えた。
 また,学校図書館活用教育は学校ごとに異なり,県内のすべての学校が有効な学校図書館活用を行うには,さらなる環境整備や学校図書館担当者のみならず,教員への研修が必要であることを報告した。

(文責:大平睦美)