TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2012年度 > / Update: 2013.3.17
この発表では,矯正施設の読書環境等への関心を高めてもらうため,矯正施設の概要や図書館との連携事例等を紹介し,今後の展望等について述べた。
刑務所,少年刑務所,拘置所,少年院,少年鑑別所及び婦人補導院の総称で,刑事施設(刑務所,少年刑務所及び拘置所)と刑事施設以外(少年院,少年鑑別所及び婦人補導院)に大別できる。刑事施設は約190か所,少年施設は約100か所あり,全施設の1日平均収容人員(2011年)を合計すると,約7万4千人となる。
少年院については,2005年に日図研児童・YAサービス研究グループが調査している。全般的に蔵書数や予算の乏しい施設が多く,読書環境は十分とは言えない状況となっている。
一方,刑事施設については,読書環境に関する調査はなされていない。断片的な情報からは,少年施設と同様,読書環境が整っていない施設が多い様子が伺える。
多くの施設で実践されている主要な取組みとしては,課題図書,読書会,読書集会,読書感想文発表会等が挙げられる。また,一部の施設では,童話・絵本を素材とした読書指導(貴船原少女苑)や朝の読書(奈良少年院),民間協力者と連携した読書集会(福岡少年院)等の,独自の取組みを行っている。
2010年に全国公共図書館協議会と国立国会図書館が実施した2件の調査には,矯正施設との連携(サービスの提供)に関する設問がある。連携(サービスを提供)していると回答した図書館数は,それぞれ35館,26館となっており,極めて少ない。
図書館から提供しているサービスの種類は比較的豊富で,団体貸出,移動図書館,図書等の寄贈,選書に関する情報提供,レファレンスサービスの実施が確認できている。また,かつては,少年院の院生による図書館見学の受け入れや,司書が施設内の読書会に参加するなど,幅広い連携がなされていたことが記録に残っている。
読書環境が整えば,読書を通じて少年の立ち直りを支援し,成人の矯正と社会復帰を促すことが可能と考えられる。また,矯正教育で読書を積極的に活用すれば,再犯率の低下等にも寄与できる可能性がある。刑務所入所者の50%以上が再入所者で占められている現状を考えると,読書環境の改善は,重要な社会的ミッションであると言える。
多くの図書館員は,被収容者をサービス対象として意識したことがないと思われる。しかし,広義の障害者サービスは,「図書館の利用に障害のある人々へのサービス」とされているため,被収容者もサービス対象として意識すべき存在と言える。また,「ユネスコ公共図書館宣言」では,“理由は何であれ,通常のサービスや資料の利用ができない人々”には“特別なサービスと資料が提供されなければならない”としている。実際に,米国や英国では,自治体内に矯正施設がある場合,ほぼすべての図書館がサービスを提供している。これに対し,日本での取組みは不十分なものである。人々の知る自由を保障することを使命としている公共図書館の関係者には,矯正施設の中にいる,自由な読書から隔てられている人々にも,是非意識を向けていただきたいと考えている。
参考文献(文責:日置将之)