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日本図書館研究会研究例会(第290回)報告


日時:
2012年6月30日(土)18:30〜20:30
会場:
大阪市立総合生涯学習センター第5研修室
発表者 :
渡邉斉志氏(国立国会図書館関西館)
テーマ :
公立図書館におけるレファレンスサービスの現在
参加者:
21名

 公立図書館においてレファレンスサービスが現在どのような状況にあり,今後どのような方向性を持ちうるかについて,大要以下のとおり発表した。

1.レファレンスサービスへの視線

 我が国の公立図書館においては,1970年代以降,貸出しを重視すべきだとの考えが広がりを持ったこともあり,レファレンスサービスへの注力は必ずしも積極的になされてきたわけではないこと,しかしながら,2000年代以降レファレンスサービスを重視する姿勢が相対的に強まってきており,現在では,公立図書館関係者の間では「レファレンスサービスは重要であり,充実を図る必要がある」との認識が一定程度共有されていることを,政策文書(「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」「これからの図書館像」)や図書館員の意識調査から確認した。

2.サービスの動向

 公立図書館におけるレファレンスサービスの現状の数量的な分析を実施。レファレンス質問回答件数の推移について,質問回答件数が蔵書数と相関関係を有していることに着目し,図書館を,(1)蔵書規模に比してレファレンス質問回答が不活発な図書館,(2)蔵書規模に比してレファレンス質問回答が活発に行われている図書館,とに分けると,市町村立図書館においても都道府県立図書館においても,(1)のグループでは総じて件数が増加しているのに対し,(2)のグループでは逆に減少傾向にあることが判った。

3.サービスを取り巻く状況

 書誌検索ツール(OPAC等)の整備,情報探索手段(インターネット)の充実を背景に唱えられている「より難易度が高い質問が図書館に寄せられるようになっている」という通説の妥当性を検証。レファレンス質問回答の種別毎に件数の推移を見ると,難易度が高いと通常言われている「事実調査」が総じて減少傾向にあるのに対し,レファレンス質問回答件数全体が減少している館では特に(相対的に難易度が低いと言われている)「所蔵調査」が大きく減少し,逆に件数全体が増加している館では特に「所蔵調査」が大きく増加していることが判った。これにより,「所蔵調査=低難易度」という仮定自体の妥当性を検証する必要があるものの,レファレンス質問の多寡は「所蔵調査」(すなわち難易度が低い質問)によって大きく規定されており,「より難易度が高い質問が図書館に寄せられるようになっている」という命題の妥当性は疑わしい,ということが判った。

4.レファレンスサービスへの問題提起

 レファレンスサービスを公共サービスとして実施することの妥当性を否定する見方が近年提起されてきていることを,2006(平成18)年10月の石原慎太郎東京都知事(当時)の記者会見での発言,および2008から2009年にかけての大阪府における市場化テストをめぐる議論を踏まえて瞥見し,図書館の利用においては利用者自らが自力で探索するのが基本のはずであり,場合によっては社会から「不要」と見なされる可能性もある,ということを確認した。

5.レファレンスサービスの再定義

 以上のことに加え,(1)レファレンスサービスの認知度が低いこと,(2)日本人の図書館利用リテラシーは必ずしも高いとは言えず,レファレンスサービスが活発化しにくい状態にあること,(3)インターネット上の質問回答サイト(例:Yahoo!知恵袋)に比して,図書館のレファレンスサービスは匿名性が低く,利用者は心理的抵抗を感じるため,サービスが活発化しにくいこと,等をあわせ考えれば,公共支出の抑制への誘因が強い社会環境下においては,たとえレファレンスサービスが質問回答だけにとどまらない広がりを持ち,マーケティングによってサービスの普及を図れる可能性があるにせよ,レファレンスサービスにリソースを割くことに対して「過剰サービスなのではないか?」という異議申し立てがなされることを回避するのは難しく(つまり「利用されている(=需要がある)」という事実だけでは公共事業として行う意義を示すことができない),レファレンスサービスが今後も全国の図書館で継続的・積極的に取り組まれるとは必ずしも言えない,との見方が導き出されることを確認した。

 そして,それを踏まえた上で,レファレンスサービスを「“サービス”から“サービス+政策へのコミット”へ」という観点から捉え直すことが,公立図書館がこれまでに蓄積してきたリソース(特に人的資源)を有効に活用し,かつ地域への貢献度を高め,もって図書館が地域経営の質の向上に貢献するためには有効かつ必要である,という視点を提起した。

 これは,公立図書館は設置母体(=地方公共団体)が直面する政策課題の解決に資するために設置されるものであることに立ち返り,従来から図書館の任務として認識されてきた「文献・資料の提供」にとどまらず,様々な行政施策(すなわち,地域が直面する課題への対処策)にコミットし,図書館が有しているリソースをフルに活用してその遂行に資することも求められているのではないか,との見方である。

 具体的には,子育て施策,経済政策,高齢者福祉行政,障がい者支援,およびその他の地域づくり活動のサポート等,あらゆる分野が関連してくるが,もちろんこれには,既にこれまでも図書館関係者が取り組んできたものも含まれている(例:ブックスタート,子どもの読書活動推進計画の策定,対面朗読,宅配による蔵書の貸出し等)。したがって,レファレンスサービスに関しては,新たに特別なサービスを開発することが課題であるというよりは,むしろ,図書館員がその能力(情報探索能力等)を活かして,利用者に対し優れたサービスを提供するとともに地域づくりのアクターとして機能するという視点に立ち,レファレンスサービス(さらに言うならば図書館サービスそのもの)を地域経営の観点から再定義することが求められているのではないか,との見方を提示した。

(文責:渡邉斉志)