TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2012年度 > / Update: 2012.9.11
発表者の佐藤氏は女性向けコミック雑誌,ドラマ,CMなどで表現される司書や図書館から,社会が図書館をどう捉えているかを追究し続けてきている。今回の報告は,特に東日本大震災を経験した2011年を中心に様々なメディアに登場する図書館を取り上げられた。震災が1つの契機となって図書館の役割が再度問い直される時に,その描かれ方にも何らかの時代性,変化が見て取れるのではないか,という視点が感じられた。
ツイッターなどのweb上の情報から,新聞,雑誌,映画,ドラマ,小説,エッセイなど,様々なメディアを網羅的に調査されており,今回は2011年前後を中心に報告された。今回取り上げられた主な作品は,映画:『コクリコ坂から』(2011.7公開),テレビドラマ:『破婚の条件』,『ストロベリーナイト』,コミック:『夜明けの図書館』,『図書館の主』,小説:門井慶喜『小説あります』,鈴木智之『オッフェルトリウム』,はやみねかおる『都会のトム&ソーヤ(9)』,エッセイ:宮田昇「図書館に通う」(月刊『みすず』連載中)等である。これらの作品中に登場する図書館や司書の特性について,その表現に留まらず,モデルとなった現実の図書館や作者の図書館利用も含め,「図書館がどう描かれたか」を検証された報告で,詳細な調査に基づく分析は興味深かった。
まず,『中居正広の怪しい噂の集まる図書館』などのように番組名や小説のタイトルなどに「図書館」という言葉が使われる事例が増えてきたことが指摘された。これは,ある意味で「図書館」が一般的に身近な存在になったということの現れと取れるのかも知れない。その意味で,近年の図書館の描かれ方にも変化が起こっているはずである。
先述の作品での図書館の描かれ方は,過去のステレオタイプとしての図書館員や図書館のイメージを多少は引きずりながらも,ある程度図書館のことを知って書いていると感じられるものが複数存在する。例えば,『都会のトム&ソーヤ』では,図書館での職業体験学習を取り上げ,専門的な用語である「レファレンス」「装備」「分類記号」「ILL」などが登場したりする。また,レファレンスそのものを題材とした『夜明けの図書館』なども現れている。更に,テレビドラマ『破婚の条件』に出てくる「司書なんてきこえはいいけど,結局あたしたちは,パートの職員じゃない」「だけど手取り10万じゃ,暮らしていけません」といった台詞がある。『図書館の主』でもベテラン司書が他部署に異動させられることが出てくる等,ある程度リアリティのある状況が描かれてもいる。
もちろん,図書館に対する認識が十分ではない事例もあり,そこでは警察に利用者の情報を教えたり,用語の間違いも見受けられるようだ。また,専門職としての司書やそのサービスについては,ある意味での「理想像」が描かれているとも言える。例えば,本に対する並外れた知識を持っていたり,レファレンスでは利用者の求めに応えようと,勤務外でも調査をし,利用者の喜ぶ姿に感動を覚えるなど,司書として“こう働きたい”と思えるような姿が描かれているとも捉えられる場面が見られる。しかし,現実にはこうしたレファレンスのプロといえるような司書が減少して行かざるを得ない実態がある。
これらは,作者自身が実際に図書館で取材したり,日常からよく利用していることなどが,ある程度反映されていると思われる。一般の利用者とは少し異なる調査や取材といった目的を持つ利用者にとって,図書館のレファレンスは重要な役割を持つものであり,「理想の図書館像」として描かれているのかもしれない。
こうした研究手法はコミック,小説,エッセイ,映画などそれぞれのジャンルで研究者の棲み分けがあるようだが,メディアが描くものがステレオタイプとして社会に浸透することは事実であり,いつ,どのように図書館が描かれたかを把握し,検証しておくことは,図書館の社会的位置づけを知る意味でも興味深い。誤った描かれ方には図書館側がアピールし得ていないことがあるかもしれないし,一般の人たちが理想と考える図書館像がそこに見いだせるとしたら,図書館が変わるヒントと捉えることができるかも知れない。
(記録文責:川ア 千加 大阪女学院大学・短期大学)