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日本図書館研究会研究例会(第285回)報告


日時:
2011年12月19日(月)19:00〜21:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター第4研修室
発表者 :
川崎安子氏(武庫川女子大学附属図書館)
テーマ :
米国大学図書館におけるライティング・センターの役割について
参加者:
21名

はじめに

 2010年12月に「大学図書館の整備について(審議のまとめ):変革する大学にあって求められる大学図書館像」(科学技術・学術審議会)が公表され,大学図書館による学習支援はいわば,積極的に推進されなければならないものとなった。日本では2007年頃から国立大学図書館を中心にラーニングコモンズの開設が相次ぎ,大学図書館が担うべき情報リテラシー支援への関心が高まっている。一方,大学教育の動きでは,多様化する学生への対応としての初年次教育やキャリア教育への取り組みが課題となってきている。  こうした中,今回は報告者の川崎安子氏が2011年に見学されたジョージ・ワシントン大学及びジョージタウン大学におけるライティング・センター(以下W.C.)の運営を中心に,日本の大学図書館におけるW.C.の事例と現状についてもご報告いただいた。なお,本報告は,私立大学図書館協会でのご発表に新たな情報を追加していただいたものである。本例会で配布されたレジュメは,同協会の海外認定研修報告書(2010年度)として公開されている。

1.大学図書館とライティング・センター

 まず,近年のW.C.はラーニングコモンズの発展形として,大学図書館の中に設置することが増えているとされる。今回のジョージ・ワシントン大学とジョージタウン大学も同様である。

ジョージ・ワシントン大学では,大学1年次に「アカデミック・ライティング」が全学必修科目とされている。この科目を担当するのは6人の専門教員と12人のサブジェクト・ライブラリアンであるという。またW.C.においては,大学院生9人と学部学生25人のチューターが各専門分野の支援に当たっている。教員とライブラリアンはペアでクラスを担当し,入念な事前打ち合わせを行っているという。またこのペアは一度確定すると滅多に変更されることもないという。ライブラリアンと教員相互の意志疎通が率直に行われており,ライブラリアンの専門性が伺えるところである。

 ジョージタウン大学ではプレイスメント・テストでライティング・スキルが十分ではないと判断された新入学生は,1セメスターに開講されるライティングの授業を受講する。この授業を担当するのはテニュア教員だが,各教員間でプログラムは統一されていないという。W.C.での相談には,院生と学部学生のチューターがスタンバイしており,連日予約が埋まっているほどの盛況ぶりであるという。なお,学生達が製作したW.C.の広報ビデオも公開されている。

 両大学とも,W.C.を図書館に設置しているものの,センターの運営や指導プログラムの決定に関わるのは専任の教員であり,残念ながらライブラリアンは直接関わっていない。また,日常の学生への個別指導は教員と選抜された学生チューターが行っている。しかし,学生チューターの養成,選抜方法が確立されており,チューターに選ばれることが学生のステータスになっていることは興味深い点である。

 日本ではラーニングコモンズというと,飲食やおしゃべりができるスペースという点が注目されることが多い。そこには,W.C.がまだ十分に発展していない上,アカデミック・ライティングをはじめとする図書館の活用も含めた初年次教育が確立されていない事情があるのかもしれない。また,日本のラーニングコモンズでもチューターを採用していることが多いようだが,一定の選抜方法,養成プログラムを確立できれば,優秀なチューターを確保することで,図書館のステイタスをも高める相乗効果を発揮することが考えられるのではないだろうか。

 

2.日本のライティング・センターの事例

 次に,実際に見学されインタビューを実施されたもので,金沢工業大学と国際基督教大学(以下ICU)のW.C.について事例が紹介された。

 金沢工業大学ライブラリーセンター(KIT‐LC)は館内に学習支援デスクとW.C.を設置している。ホームページによると学習支援デスクは,専門分野の教員が決められた時間帯に,専門基礎科目に関する学習相談や個別指導・グループ指導を行っている。また,W.C.では,課題として出された小論文やレポートの文章添削,就職試験のための小論文,履歴書,各種手紙文,講演レポートなど,多様な文書作成に関する添削の個別指導を行っているとされる。

 これらの指導を行うのは,SL(サブジェクト・ライブラリアン)と呼ばれる25人の教員である。SLは理事長が任命し,任期は2年(更新可能)でその間の授業の減免措置があるという。彼らはオフィスアワーを設けて学習支援デスクやW.C.だけでなく,レファレンスカウンターにも待機している。最先端の知識と情報を持ち,教育が行える専門家である教員が,直接図書館のレファレンス業務も行い,専門分野における蔵書構築からセンターの企画まで全般に責任を負っている。SLは「図書館と教育研究をつなぐ」役割を担っているのだとされる。

 次に,ICUは図書館利用率の高さで毎年全国1位にあがる等,リベラルアーツ型教育で有名である。2000年にオープンした新館オスマー図書館のスタディエリアには学習用のパソコン約140台を設置,授業が可能なマルチメディアルーム,グループ学習室,AVキャレルなどを擁し,本館との連動で図書・雑誌とデジタルメディアの融合を実現している。更に,ライティングサポートデスク(以下WSD)が2010年冬学期から教養学部長室と図書館の共同で運営されている。ここでは運営は図書館員が行い,学部学生のアカデミック・ライティングの支援は院生のチューターが行っている。詳細はWSDのホームページに詳しい。川崎氏が見学した際には,WSDの浸透を図るための広報を課題とされていたとのことだが,図書館が何を行う上でも絶えずアピールをする必要があることを感じさせられた。

 最後に川崎氏の所属する武庫川女子大学での初年次教育やアカデミック・ライティングに関わる授業の状況についてご報告いただけた。全学共通教育科目「論理的思考法T・U」が人気を博していること,そのことから「アカデミックスキルズ」の図書館担当プログラムが立ち上がろうとしていることなどが報告された。更に,「読活プロジェクト」という取り組みで,学生の読書についてビブリオバトルや読書会を開くなど様々な角度から図書館がリテラシー関連科目にコミットする姿勢が報告された。

 日本の大学ではラーニングコモンズもW.C.もこれからである。川崎氏はアメリカの真似ではなく,新しいラーニングコモンズの在り方を模索されており,図書館員がしっかりと学生の教育・学習に関わるべきだと提言された。

3.質疑応答

 大学教員からは,初年次教育と情報リテラシー科目は行われているが,それと図書館を結びつけることの困難さ,また大学図書館員からはラーニングコモンズがあり,W.C.としての機能はあっても,それを担うのは図書館員ではないことなどが報告された。また,ライティングなどを指導できるだけのスキルが図書館員側にないという不安や初年次教育自体がまだ立ち上がっていないこと等,参加者の方々からは現場の悩みや実態が率直に発言された。それだけ大学及び大学図書館にとっては喫緊の課題でもあり,図書館が大学教育・学習の拠点となる大きなチャンスであるという思いもまた高まっていることが感じられた。しかし,TAの養成講座を企業が請け負っている事例もあり,ここにも教員側,図書館員側の課題が見いだされた。

 さらに,学生の「読む力」の育成についても言及され,川崎氏からは学生は読めないわけではないこと,ソーシャルリーディングを活用するなど,読むことの支援についても多面的なアプローチが必要ではないかと提言された。

 ラーニングコモンズという空間はあっても,誰もいなければ人が集まらないという参加者の発言もあり,学生が集い,学習する楽しさを感じられる,共に苦労して成果を導き出せることを支援するのが「誰か」ということが重要であることも考えさせられた会であった。

注 *いずれも[引用日:2012-01-19]
1) 私立大学図書館協会海外認定研修報告書2010 〈http://www.jaspul.org/kokusai-cilc/nintei_report2010_5.pdf〉
2)ジョージタウン大学のW.C.の広報ビデオ〈http://vimeo.com/18050672?〉
3)金沢工業大学ライブラリーセンター〈http://www.kanazawa-it.ac.jp/kitlc/〉
4)ICU図書館のWSD 〈http://www-lib.icu.ac.jp/WSD/index.htm〉

(記録文責:川ア 千加 大阪女学院大学・短期大学)