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日本図書館研究会研究例会(第284回)報告


日時:
2011年10月18日(火)18:00〜20:00
会場:
大阪府立中之島図書館文芸ホール
発表者 :
常世田 良氏(日本図書館協会常務理事・事務局次長)
テーマ :
震災復旧・復興支援のための著作権法上の課題への対応とその総括
参加者:
19名

はじめに

 東日本大震災の復旧・復興支援のひとつとして,遠方の被災者や被災地の図書館へのファクシミリや電子メールなどを用いた情報提供が行われている。この実現のため,発表者が中心となって著作者・出版者団体に働き掛け,このような形態での情報提供についての特別措置について,合意を得ることができた。
 この研究例会では,この特別措置の実現までの舞台裏と実際の使われ方,また,現時点での総括についてお話をいただいた。
 なお,このテーマについては,すでに発表者による経過説明の記事(常世田良「図書館による被災地への情報提供と公衆送信」『図書館雑誌』105(8),2011.8, p.506-507)が出されているため,あわせてそちらもご参照いただきたい。

1.特別措置の合意までの経緯

 日本書籍出版協会(書協)とは,図書館における著作物等の利用をめぐり,常々やりあっているが,震災直後にすでに申し出を行った。そうしたところ,書協においても非常事態ということで,初期から協力体制を敷いていただいた。
 最初は個別の権利者団体に申入れをしようと思っていたが,ちょうど関係者が出席する会議(第6回電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議)が3月24日にあったので,文化庁や委員,座長に了解をとり,最後に若干時間をいただいて要請を行った。
 事前の根回しの成果もあり,積極的な賛同が得られた。また,マスコミも傍聴に来ており,非常によいタイミングで要請できたと考える。
 日本音楽著作権協会に対しては,直接訪問して要請した。その結果,同協会の管理楽曲すべてについて了解をいただけた。
 また,反対すると思っていたSTM系出版社は,その出版社の出版物を全部ネットから自由にダウンロードできるような措置をとった。
 他方で,いち早く賛成いただけると思っていた児童書の団体のなかには,最後までご了解いただけなかった例もある。

2.合意形成ができた理由

 日本図書館協会は,これまで20年以上,権利者団体と著作権について色々と交渉を続けており,その中で信頼関係を醸成してきた。権利者団体の著作権の担当者はずっと同じ人が担当しており,これらの人はそれぞれ出身団体を背負い,そこの強硬論者の圧力を背に受けて出席している。しかし一方で個人的にはお互いの立場を理解する関係ができている。こういうことで本音の話ができたのではないかと考える。
 その結果,権利者側から,適用地域を「自治体の図書館が機能していない地域」に,期間を「その地域の図書館がサービスを再開できるまで」と限定することを条件として,合意していただける結果となった。

3.特別措置の実施結果

 これを受けて,Help Toshokanを始めた際に数回被災地で数百枚,被災地からの質問に遠隔地の図書館から回答することを呼び掛けるビラを配布し,質問が来るのを期待した。
 ところが,回答担当館(国立国会図書館,東京都立中央図書館および大阪府立中央図書館)への問い合わせは,それぞれ10数件にとどまった。権利者側から結果について尋ねられたので,その旨を報告したら,複雑な顔をされた。大量に送られたらどうしようと心配していたので安心した一方,問い合わせの少なさにがっかりしたようであった。

4.検討が必要な課題

 以前から言われていた懸念だが,東北地方の図書館がレファレンスサービスを十分に行っていたか,働き盛りの人向けに高度な情報提供が行えていたか,「困ったら図書館へ」という結果に結実していたか,ということがあるだろう。
 したがってレファレンスを経験したことのない人々へ情報を仲介する「情報ボランティア」とでもいうべき取組みがあってもよかったが,一般的にはそのような発想がみられなかった。
 また,図書館がこのような情報提供活動を行っているということを,マスコミは積極的にアナウンスしてほしいと思う。NHKに持ち込んだが,なかなかピンと来ない。テレビで20も30も様々な問い合わせ先の電話番号が表示されたが,それをみて被災地のおばあちゃんがいちいちメモして連絡するだろうか。ワンストップで適切にやらなければ効果がない。図書館なら,これらの情報を集約して提供できる。
 問い合わせ先の図書館を一本化したかった。国立国会図書館が統一的な窓口になるよう要請したが,実現できなかったのは残念である。

5.今後の対応

 今回は権利者が快く対応してくれたが,こういう事態が生じてから泥縄式に行うのではなく,起こったときに適切に対応できるような体制を作れるようにしておかなければならない。また,ガイドライン的なものを作らなければならない。これについては,すでに書協等から了解をもらっている。

6.質疑応答

 発表の後質疑応答に移り,公衆送信権が厳しいことへの対処,図書館での問い合わせ一本化費用のスポンサー探し,業界新聞の提供,被災地で撮影された写真の保存,美術家団体への対応,図書館の情報提供機能の再認識,新たな合意書形成のスケジュール,被災地以外の地域での対応準備の必要性,支援例を示す必要性,関連パスファインダーの有用性といった幅広い観点からの質疑応答があった。

(文責:南 亮一 国立国会図書館関西館)