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日本図書館研究会研究例会(第281回)報告


日時:
2011年6月18日(土)14:30〜16:30
会場:
同志社大学今出川キャンパス至誠館3階会議室
発表者 :
井上 真琴氏(同志社大学企画部)
テーマ :
目撃せよ!紙片が宝に変わる瞬間(とき)−図書館員のアーカイブ資料探検−
参加者:
48名

 発表者が同志社大学図書館在籍中に取り組んだ,同館所蔵の田中稲城・竹林熊彦文書の整理について,事業の意義,概要等について報告がなされた。

 田中稲城・竹林熊彦文書とは,日本近代図書館史の研究者として知られ,同志社大学で教鞭をとった竹林熊彦(1888-1960)のご遺族から同大学が寄贈を受けた文書で,竹林が研究・資料渉猟した帝国図書館の初代館長・田中稲城に関する史料を含む,わが国の図書館史研究にとっては第一級の史料である。同文書は,寄贈を受けた後,長く未整理のまま保管されていたが,今回の発表にあるとおり,2003年度・2004年度の2か年で整理が実施され,2005年から利用に供されるようになったものである。

整理の概要

 発表者は,整理に先立ち,文献調査を実施したほか,約3か月にわたり欧米のアーカイブズ先進事例を訪問・視察するなど,入念な準備を行い,整理のストラテジーを組み立てた。

 整理事業は外部委託によって行われたが(受託者は株式会社紀伊国屋書店),これにより,(1)優秀なコンサルタントを得ることができた,(2)文書類の整理能力を持つ人材を獲得することができた,等のメリットを得ることができたと評価されている(コンサルタントには小川千代子氏(国際資料研究所代表,米国アーキビストアカデミー公認アーキビスト)を,整理作業者には,受託者の選抜により歴史学の素養を持つ人材を獲得)。
 外部委託により事業を実施したということで,仕様書の内容を詰めることが非常に重要な作業であったが,この部分が適切に行われたことで,事業全体が順調に進むこととなった。
 また,実際の作業に当たっては,委託者,コンサルタント,受託者(作業者)の三者により密なコミュニケーションを図ったが,この点においても,事業の進捗は比較的スムーズであった。

 整理事業は,アーカイブ整理の四原則(出所原則,原秩序尊重原則,原形保存原則,記録の原則)に則って行うこととし,また,初期的目録(Initial Inventory)の作成を事業の射程とした。
 初期的目録の作成を目標としたのは,一見すると慎重な目標設定であるように見えるかもしれないが,目録の充実を図ろうとする場合,まず初期的目録を作成し,その後段階的に精緻な目録を整備してゆくことが妥当,一般的と判断,決定したためである。

 整理にあたっては,収納後の利用の便を考え,アーカイブボックスとフォルダを使用することとした。

 史料にはアイテム番号を付与し,情報化シートを作成して,その属性・特徴の適切な記録に努めた(シートの記述に関しては,注記の充実にも配慮)。また,将来的にも利用の便が確保されるよう,Finding Aidsの作成にも力を入れた。

展 望

 今回整理の対象となったような文書類は,大学図書館においても利用が少ないというのが実情である。

 しかし,文献調査において文書類を参照する意義は決して低くはない。

 したがって,今後,一次資料や二次資料がインターネットで公開される事例が増えてゆくことが予想される中で,利用者と図書館員の両者がリテラシーの向上を図り,有用な史料が活用されるようになってゆくことが望まれる。

質疑応答

 この事業は,史料の整理という観点からみても非常に充実したレベルのものであり,これに取り組んだ同志社大学に対する評価の声が寄せられた。

 また,初期的目録が作成された今,さらに精緻な目録を作成することになるのかとの問いに対し,発表者からは「それは相当息の長い作業になるであろうし,当該文書に関する知識の豊かな担当者を得ることができるかどうか等にかかってくるのではないか」との見方が示された。

 さらに「図書館におけるレファレンスサービスで,探索する文献の範囲を,刊行物だけでなく文書類にまで広げる必要性があるのではないか」との発言がでるなど,図書館とアーカイブズとの相違点・連携の可能性等についての議論が深められた。

まとめ

 今研究例会は,出席者が約50名に達するほど盛況で,また,例会の前後には,同志社大学図書館のご厚意で田中稲城・竹林熊彦文書の見学もさせていただけるなど,大変充実した会であった。

(記録文責:渡邉斉志 国立国会図書館関西館)