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日本図書館研究会研究例会(第275回)報告


日時:
2010年10月21日(木)19:00〜21:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター
発表者 :
嶋田 学氏(東近江市立永源寺図書館)
テーマ :
地域主権時代の公共図書館政策を考える
参加者:
14名

 発表者は,図書館の存立基盤である地方自治体のあり方について,「地域主権」という政策に注目し,今後の図書館政策の方向性を提起した。

 まず,現在の公共図書館への問題意識を整理した後,分権時代における自治の課題や地方自治が活性化しなかった要因を述べ,地方主権時代における図書館の使命として,個人の必要や地域の課題に的確に応える地域情報拠点として,図書館員が地域に出る必要性を主張した。

1.地方自治の課題と図書館への問題意識

 現在の地方自治体は,戦後復興による中央集権的な地域政策によって,自治の形成過程が未成熟であったとの見方を示し,今後の地方自治の発展を目指す「地域主権」政策の中での図書館のあり方について検討した。また,現在の公共図書館が,資料提供を重んじる余り,図書館の使命を「機能主義的」にしか捉えられていないのではないかとした上で,顕在的な資料要求に応えるだけでなく,地域に潜在する情報ニーズを地域コミュニティの再生や住民自治といった観点から発掘しなくては,「基本的人権の尊重」を支える地域社会や地方自治の成熟に貢献できないとの見方を示した。

2.地域主権時代の自治のかたち

 地方自治が活性化しなかった要因にコミュニティの喪失を指摘する研究があるとした上で,そうした価値を「社会関係資本」=ソーシャル・キャピタルと位置づけ,隣人関係(コミュニケーション力,コーディネート力)や愛着心,問題発見・解決力として評価する社会学の視点があることを紹介した。こうした機能を地域社会に根付かせるには,地域の多様なアクターが相互に交流を深め,信頼関係を結ぶことによって一種の社会ネットワークを構築する必要があるとした。

3.情報ニーズをつかむ協働がもたらす意義

 「まちに出る」とは,図書館員が自己完結的に地域に出ることだけを意味するのではなく,様々な地域の課題に応じた行政部門や市民との協働,市民参画を促す行動が必要となる。協働・市民参画の意義と効用については,次のように整理した。

 以上のような観点を意識しながら合併後の住民自治を活性化する意図をもって様々な事業を展開した東近江市立図書館の事例を報告した。

4.まとめ 〜「まちに出る」とは?

 図書館が,「図書館」という館に閉じこもって利用者を待つ,この姿勢から「出る」ことが,この表現の真意である。図書館を出て,地域や多様な関係者を巻き込むこと,あるいは巻き込まれることによって,混沌よりはむしろ,「味方」と「調整力」が得られたとの経験談を語った。

 その地域の図書館機能の「必要性」は,行政の現場,地域,地域外の広い世界に存在し,図書館員は,そうした世界を広く,深く知る責務がある。「学習する権利」を保障する図書館の力量がそのまちの発展を決めるのだという意識をもって,地域に役立つ図書館づくりを目指したいと提起した。

 図書館が,「地域主権時代」の住民のシンクタンクとして機能するためには,資料を用意し,座して待つ姿勢から,ニーズを把握し,掘り起こすために「まちに出る」,そして「個」としての住民をコモンズ空間としての図書館に誘い,コミュニティ力を高めるソーシャル・キャピタル醸成に必要な三要素を提供していくことが重要であると主張した。

(文責:嶋田 学)