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日本図書館研究会研究例会(第273回)報告


日時:
2010年7月9日(金)19:00〜21:00
会場:
大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)
発表者 :
松井一郎氏(枚方市役所・前枚方市立中央図書館職員)
テーマ :
公立図書館職員による学校図書館ボランティア活動とその後
参加者:
14名

 八幡市立橋本小学校(児童755人)における1997年度以降13年に亘る学校図書館ボランティア活動の経過と現状を,ビデオを含むスライドで紹介し,その経験に基づく発表者の意見を述べた。

 一人娘の誕生を契機とした地域への興味と,阪神淡路大震災に始まるボランティア活動への社会的関心の高まりの中で「公務員は如何に生きるべきか」「仕事で得た技量を地元で活かす方法はないか」等考えるようになった。民間企業に比して拘束時間が短いのは,暗に「住んでいる地域での働き」を期待してのことではないか。それなら全く未知のことを手掛けるより業務上の技術を活かしたいという思いと,或るPTA学級委員の「学校図書館を何とかしたい。力を貸して欲しい」という思いが出会い,学校図書館の整備に関わり始めた。本職(枚方市立図書館)ではお話会の出前など小学校へのサービス展開を始めた時期で「学校に関わっておくことは,将来きっと役立つ」さらに「いつかは枚方でも図書館ボランティアが課題になる」という目算もあった。

 PTAが地域住民の協力のもと,リサイクル収益金を原資として,児童全員で本を選ぶ「選書会」を前年度初めて実施しており「選書会を続けるなら,PTAとして学校図書館支援活動に取り組む」とお墨付きをもらった。古い本を廃棄し「開かずの間」の図書準備室を片付けて活動拠点とする一方,選書会購入図書と寄贈図書に「八幡市立橋本小学校図書館」というバーコードを貼り,ブックコートをして手触りの良い読みたくなる本を増やすことから始めた。

 選書会は回を重ねて20万円から50万円へと予算が増額され,PTAとして運営しやすい「出版社別」から,本を選びやすい「分野別」へと展示も進化した。ブックコートをマスターした保護者も増え,書棚は子どもに人気の本や,美しく装備された定評のある本に入れ替わっていった。「橋小は市内で2番目に公共図書館から遠い」が評価?され,市費の図書費も40万円に倍増した。本部役員や図書館担当の先生と箕面市の学校図書館を見学し,先生向けの研修会まで実施した。しかし貸出管理は手作業のままで,専任職員不在の中では機能するはずもなく,人気本の紛失が常態化した。PTA会長として,2度の卒業式で図書館利用を薦めたのも学校図書館ではなく,公共図書館を想定してのことであった。

 この状況を変えたのは,2004年3月某日の校長室で「諸々の課題解決には,蔵書管理にコンピュータを活用すべき」と,学校とPTAの意見が一致したこと,そして2004年度に選書会予算をそっくりコンピュータシステム導入に充てたことである。司書教諭の先生とともに滋賀県甲西町(現湖南市)の学校図書館を見学して同じシステムを導入し9月1日貸出開始としたが,「人」は曖昧なままだった。そこで橋本在住の元枚方市立図書館職員らに声をかけ,貸出や配架を担ってもらった。貸出は,翌2005年度からは図書委員児童の活動となり,現在はPTAの「ベルマーク図書委員会」と,地域住民も含む図書館ボランティアが,図書委員への支援に回っている。

 学校図書館法改正により,2002年度末までに司書教諭が八幡市内の各校にも配置された。その効果は当時全国的にはあまり評価されなかったようだが,橋小では図書館見学やシステム導入時等含め,常に司書教諭を通じて学校に相談してきたし,市教委や市立図書館との関係も司書教諭を抜きには語れない。

 2005年度から市内全校で市費購入分の図書には「八幡市学校図書館網」と記されたバーコードが貼付された。市立図書館と同じ9桁で,蔵書番号が重複しないよう管理されている。2009年9月には,以前から市議会で(市民からの請願は2003年から)要望されていた学校司書の配置がついに実現した。八幡市教育委員会の決断と,非正規職員ながら1人で3校(中学校1・小学校2)を担当する学校司書4名の奮闘によって年度末,市内12小中学校全ての学校図書館がコンピュータシステム化されたのである。

 システムの導入と,豊富な図書費(今年度は市費+PTA費で約150万円)によって2010年6月末現在9,550冊を所蔵し,近年は児童1人あたり年間30冊前後の貸出がある(注:『図書館界』62(3)誌上の報告にはグラフを添付)。学校では低学年50冊,中学年40冊,高学年30冊の年間貸出目標を掲げており,学校司書の活動が本格化する今年度は相当の上積みが予想される。

 ここまでの経験をもとに,学校図書館についての発表者の意見をまとめてみる。「学校図書館は『学校のなかの図書館』として,何よりもまず学校教育の目的達成と充実に奉仕することが基本」と言われる。主に授業への支援や活用を想定しており,このことの重要性は論を俟たないが,ボランティアとして関わり実感したことは「児童のほぼ全員が利用する」という事実の重さである。例えば,2ヶ月間に1冊以上借りた児童が全校の96%を超える。このことへの評価が低過ぎないか。公共図書館では為し得ないことを日々行っているのが学校図書館なのである。公共図書館で言う「個人貸出」を,学校図書館でこそ徹底して行うことが児童の言葉(活字)の獲得を促し,学校教育の目的達成と充実に寄与するものと思う。

 次に「担い手」について。公共図書館の,特に正規職員に対し,在住する地元の学校図書館における状況と規模に応じた多様な支援を期待したい。300校も小学校がある政令指定都市と,10校に満たない町では,支援の方法は異なるだろう。発表者の場合,市に10校(現在8校)だったからこそ,直接的活動が実を結んだ。自ら動くだけでなく「子どものために力になりたい」という地域住民のパワーをコーディネートする力量も求められるし,実践を通して鍛えられる。今や「子どもから元気をもらえる」と,喜んで協力してくれる多数の人たちの存在に支えられているが,こういった組織化の過程を経験することは,逆に本職の業務にも活かせるはずである。

 さて,例会の中で,岸裕司著『学校を基地にお父さんのまちづくり』(太郎次郎社1999)を「自分が目指すのはこういうことではないか」との感想を持った本として紹介したが,本例会に参加された橋小の保護者が翌週「京都府PTA中央指導者研修会」で,偶然にも岸氏の講演を聴いたそうである。岸氏は8月7日開催のフォーラム「PTAは『新しい公共』を拓けるか」のパネリストでもある。フォーラムの中で果たして,地域に育てられ地域への還元が可能な学校図書館が注目を集めるか,『新しい公共』という捉え方も含め,注視したい。

(文責:発表者)