TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2010年度 > / Update: 2010.9.3
発表者の篠原氏は,中学校の図書館を中心に,約10年間,司書として勤務された後,大学院に進み,現在は授業を担当するかたわら,館長の立場で大学図書館にもかかわっている。以前から,学校図書館問題研究会で,パスファインダーについて長野県の会員の間で検討をすすめてきていたが,大学で司書や司書教諭の科目を担当するようになり,パスファインダーを学生とともに作成して,その活用状況について検討をかさねてきた。その過程で,パスファインダーには「情報サービス」と「利用者教育」のふたつの側面が存在することを意識するようになった,という。
パスファインダーの制作を検討する過程で,東京学芸大学をはじめとした大学での事例や,北広島市立図書館(北海道),ワシントン州にある小学校のケースなどを参照したことが紹介された。
実際に作成する際に検討すべき要因としては,「量か質か」「公開か非公開か」「提案型か受注型か」「紙かwebか」などの点をあげ,「誰に」「何のために」「何を」「どのように」伝えようとするのか,編集に気を配る必要があることが述べられた。
篠原氏が勤務している短大の学生にとっては,そこが,「学びの終着駅」であり,「すぐに得られる回答」を待っていることが,まず,指摘された。実際に作成する際は,できるだけもりこむ情報量を減らし(用語集は別に添付),デザインに配慮することを心がけた。学生がどのように活用したかについて,アンケート調査を実施し,結果を分析することで,質の向上だけでなく,大学図書館の課題−配架のわかりにくさ,なども明らかになった。新聞雑誌記事の活用へ誘導するためには,適切なキーワードを提示することが重要であり,また,一回限りでなく何度も活用を図る必要があることも述べられた。
教員から図書館が依頼を受けて作成する受注方式も有効であり,原則として公開を前提とした電子版は,紙媒体とは別に考える必要があることも指摘された。
公共図書館の参加者はなかったが,学校・大学,専門図書館からの参加があり,各館種から実践の場における課題や各館での工夫が紹介されるなど,積極的な質疑応答が行われた。篠原氏からは経験と実践の蓄積に即した具体的提案や解答を得られ,事例の共有を測る機会ともなった。
篠原氏が指摘される各科目に応じたパスファインダーの作成には,教員との連携が必要であり,職員としての立場から連携を計る難しさも報告された。しかし,多くの教員は図書館を使わせたいと考えており,図書館利用教育などの実践が「現代GP」として認められる事例が,教員が図書館を巻き込むことで実現していることからも,教務課を通しての科目等との連携の可能性を指摘された。
会場からも卒論担当の教員へのパスファインダーの提供や図書館が実施する様々なガイダンス,検索講習,初年次教育への参画機会を捉えてパスファインダーを広報するなどの提案がなされた。また,作成したパスファインダーが実際に活用されるためには,個々の課題に則したテーマ,様式を持った多様なパスファインダー(ブックリストも含む)を作成しても良いのではないかとの提案もあった。一方で,図書館現場の人的状況に応じ,「レファレンス協同データベース」や「パスファインダー・バンク」も活用するなど手間をかけすぎないことも重要であることが指摘された。
さらに,学生の読む力の低下が指摘され,パスファインダーの内容は厳選し,イラストを使うなど,親しみやすさや見やすさに配慮が必要であることから,知的関心が低い学生をいかに資料に結びつけるか,などについても,熱心な議論が交わされた。
(文責:1〜3佐藤毅彦,4川崎千加)