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日本図書館研究会研究例会(第268回)報告


日時:
2010年1月16日(土))14:00〜16:00
会場:
大阪市立弁天町市民学習センター
発表者 :
小谷恵子氏(元・熊取図書館長)
テーマ :
「図書館は成長する有機体である」を実践する−住民参加の図書館づくりから16年,熊取図書館の軌跡−
参加者:
13名

 平成6(1994)年,4年余りの準備を経て開館した熊取図書館。住民参加による開館準備,専門職員の司書の配置等を実践し,行政との調整の苦労なども含め,社会情勢の変化に対応した図書館サービスの展開,継続的な図書館活動の進展など,その取り組みの軌跡を小谷氏に発表していただいた。

1.図書館をつくる

 *住民参加 *専門職 *時間,必要経費の確保

基本計画を策定する

 熊取町は大阪の南部に位置し,人口約45,000人。かつて,おもな産業は紡績産業であったが,今は大阪のベッドタウンである。当初は財政が比較的裕福であった。町長が,「図書館がまだない。図書館の街にしたい。ぜひ図書館をつくりたい」,「子どもを育てるように図書館を育ててほしい」と説明された。準備室の体制を整え,敷地面積は約3,000平米。さらに住民参加のもと,「基本計画」の策定,専門職,必要経費を確保することから準備が始まった。

建物をつくる(設計者,コンセプト)

 準備室が提案した「基本計画」(案)では2館構想であったが,「基本計画」検討委員会の議論を経て,3館構想に修正した(現在はまだ1館)。
 建物は,オーソドックスな設計の図書館である。「基本計画」を示し,設計者選考委員会のもと,プロポーザル方式で鬼頭梓氏の設計となった。住民の意見も反映し,児童コーナーが2階から1階になったが,土地が足りず,買い増しに2年かかった。対面朗読室も,当初建物の真ん中にあって窓のない状態であったのを設計変更した。ハード面でも住民参加が基本にあった。

図書館サービスの方針を打ち出す(広範な利用,児童サービス,生活支援…)

 準備室における準備業務では,図書館法に定められていることを具体的にしていく作業であった。
 「基本計画」の策定では,図書館がイメージできるように書くこと,また広域サービスとして在住・在勤・在学にとどまらないこと,図書館が役に立つ施設であることを打ち出すこと,生活支援に重点を置くこと,などを中心に方針を打ち出していった。

司書の養成(新人司書9名の採用)

 司書の養成では,平成6年までに9名を採用(中堅司書の採用を言ってきたが,人事的に実現できなかった)。約6か月,研修を実施(松原,堺などで実際にカウンターに立ってもらう)。
 また,地域ですでに行われていたおはなし会,子どもの本の勉強会に徹底的に行ってもらった。「おはなしキャラバン」への参加,さらに,児童書について基本的知識を得るため,読み継がれてきた古典を読む読書会も実施。

全域サービスを目指した連携(学校図書館支援,保育所との連携)

 学校図書館に司書を配置すること(学校は市町村が関与できにくい)。学校図書館の図書費増をめざして,学校との懇話会を実施。

2.図書館サービスを深める,広げる

本を選び,蔵書構成を考えていく

 選書協力委員会(松原図書館長,府立図書館児童室,ひこ田中氏ほか)の協力を得た。できるだけさかのぼって蔵書を揃える。7500万円の資料費で,開館時10数万冊となった。

魅力的な書架づくりを実現する

 書架を見た時に魅力的な図書館の顔をつくること。

読書要求への細やかな対応

図書館の核としての「児童サービスの実現」

 すぐれた児童サービスの実現により,一般のサービスもきちんとできるようになる。絵本は表紙を向けて配架している。YAコーナー,児童書研究資料コーナーを設置。

自主読書サークルへの支援,図書館事業の継続的実施

 読書会サークルを育て,支援していく。

全域サービスとしての「移動図書館」「宅配サービス」「駅前返却ポスト」の実施

3.図書館を街づくりの拠点としてとらえる

−図書館のなかで「貸出・レファレンス」からサービスを発展させるために−

子育て支援としてのブックスタート事業

 ブックスタートの予算を要求し,図書費の一部を減らしてでも実現。60万円の予算がついたが,新規事業なので調整が大変であった。ブックスタートは1年間の準備,研修を経て,平成14(2002)年からスタートし,司書が町内すべての4か月の赤ちゃんと保護者に接することができるようになった。

蔵書構成を維持するための除籍資料のリサイクル事業

 財産処分の法的手続きを考えた。その結果,住民による実行委員会に譲渡し,価格を決めて売る。実費以外の売上金を,学校図書館に寄付することとなった。

学校図書館司書配置(全校)による本格的な学校図書館との連携

 平成7(1995)年のモデル校への1名の配置から取り組んで,平成13(2001)年,全校に学校図書館司書が配置された。リクエストを受けて,図書館から毎日学校図書館に本を運び,授業に必要な本を次の日に届けられるようになった。図書の時間の授業も見ながら連絡会を実施。

祝日開館によるサービスの拡大

 祝日開館,司書を2名減(順番に3年間,一般行政へ配置換え),アルバイト5名増。

「熊取町子ども読書活動推進計画」の策定(平成17(2005)年3月)

 開館以来の児童サービスの総括として,できたこと・できなかったことを精査し,他の市町村と違う熊取町に必要な計画をつくる。乳幼児,就学前,学齢期の各連絡会の設置。アンケートと聞き取り調査を実施。私立幼稚園との調整,財政・企画・人事の3課を巻き込む。計画は,具体的に実施することを明記した。

「熊取町図書館計画」策定に向けての取り組み

 図書館協議会への今後の図書館のあり方についての諮問。図書館についてのアンケートの実施(来館者,町内在住者への郵送)。町内すべての福祉施設,関係団体等への訪問聞き取り調査の実施。

「熊取町図書館計画」策定(平成19(2007)年1月)

 町内関係各委員会,関係課との連絡会議等への司書の参加。この時期に,今後のあるべき図書館サービスの在り方を再構築。待っている図書館から,街づくりの核としての図書館をめざし,会議へ,行事へ,施設へ出て行くサービスを実施。平成12(2000)年頃まではすべて館長が関わってきたが,それ以後は分担をし,企画・立案・実施を担当司書がすべて行う。

 最後に小谷氏は,「図書館運営はシステムと人であろう。街づくりの拠点としての図書館を実践するために,司書が街づくりに参画していくことが大切である」と述べられた。

(記録文責:家禰淳一 堺市立西図書館)