日本図書館研究会研究例会(第266回)報告
- 日時:
- 2009年10月9日(金))19:00〜21:00
- 会場:
- 大阪市立総合生涯学習センター
- 発表者 :
- 杉田正幸氏(大阪府立中央図書館)
- テーマ :
- 大阪府立中央図書館における盲ろう者へのパソコン支援と米国の盲ろう者
- 参加者:
- 15名
杉田氏は、視覚に障害を持つ大阪府立中央図書館職員である。2001年から彼が担当者となり盲ろう者(視覚、聴覚の両方に重複障害のある人)へのパソコンの講習会を行っている。また、2009年3月に11日間米国へ行かれ、当地における進んだ状況を色々見てこられた。
1.日本における盲ろう者の現状
- 盲ろう者は、視覚と聴覚の両方に障害を持つ人のことを言い、世界的には、ヘレン・ケラー、日本では東京大学の福島智教授が著名である。2006(平成18)年に厚生労働省が行った身体障害児・者実態調査結果では、全国に「推計盲ろう者」は2万2千人と出ている。
- 一般に盲ろう者は「移動」「コミュニケーション」「情報」の3つの障害があると言われ、一部の人を除き、外出の際には一緒に行動する人が必要で、コミュニケーションについても専門的な通訳が必要である。殆どの情報が通訳・介助者からのものになり、得られる情報量もごく僅かである。しかし盲ろう者の多くは通訳・介助という制度があることすら知らず家でとどまっており、情報から隔絶されているのが現状である。パソコンやインターネットを使うことができれば、様々な情報を自ら得られるが、それら支援機器を利用している盲ろう者は日本ではごく一部である。
- 公共図書館における盲ろう者へのサービスは、大阪府立中央図書館、東京の日野市立中央図書館でしか行われていない。
2.大阪府立中央図書館での盲ろう者へのパソコン・インターネット支援
- 2001年、1人の盲ろう者に対しパソコン個別指導を実施したことをきっかけに、2006年からは断続的に15名に対し行い、2009年3月時点で8名の支援を継続中である。
- パソコン個別支援の主な内容は、パソコンの基本操作、点字入力、Windowsの基本的な操作、点訳ソフト、画面拡大ソフト、点字ディスプレイや点字携帯情報端末などの機器、盲ろう者に使いやすいアプリケーションソフト等である。
- 2003年度から盲ろう者向けインターネット講習会を開催している。1回の講習会の定員は2名から4名と少人数を対象とし、触手話通訳者や指点字通訳者を図書館の予算で配置している。
- 講習会をきっかけにパソコンを利用する人が多い。パソコンにより生活の幅を広げた盲ろう者が増えていることは意義あることである。
3.米国における盲ろう者支援
- 杉田氏は2009年3月、ロサンゼルス、ボストン、ニューヨークを訪れた。前半は「第24回障害者とテクノロジー会議」に参加、後半は盲ろう児・者支援に力を入れている盲学校やリハビリテーション施設などを見学された。
- 日本の盲ろう者の中で注目され、今後期待されているのが点字携帯情報端末、つまり持ち運びができ、メールやインターネットのできる機器である。日本では価格が60万円と高く、種類も1種類しかないが、英語圏では多種に亘る。このような機器開発と普及は、盲ろう者の生活の質を高め、職業的自立にも繋がる。しかし作るのに時間と費用がかかるし、作っても売れる数は限られるため高価になってしまう。結果、開発と普及が進まない。このような事業に対しては国の財政援助が必要である。
- ボストンでは「パーキンス盲学校」、ニューヨークでは盲ろう者専門のリハビリテーション訓練施設「ヘレン・ケラー・ナショナルセンター」を見学された。その両方で強調されていたことは、盲ろう者が自立し、独立して生活ができること、職業的な自立を果たすことである。その結果、盲ろう者の多くが社会に出て、雇用され、活躍している。杉田氏にとって、社会の理解はもちろん、支援技術、訓練に対する考え方や指導者の状況、国の支援体制など、日本との差を感じた米国訪問であった。
2時間みっちり話していただいたが、それでも時間が足りなかった。時折、視覚障害者の方が使用する機器を回覧していただき、普段触れることの少ないものを身近に知ることが出来た。最後に、「盲ろう者に対する支援はともすると無駄だと言われかねない。しかし全ての人が情報を得るために不可欠なサービスであることを知ってほしい」と締められた。同感である。不勉強で恥ずかしいのだが、盲ろう者の方が日本にたくさんおられることを今回のお話で初めて知った。そういう人たちがもっと社会に出て来られるように、大阪府立中央図書館における取組みを継続していただきたいと感じた。当日は、実際に杉田さんからサービスを受けている盲ろう者の方がお一人、通訳者の方たちと来られた。例会後、杉田さんと少し話されていたので、その際、実際の触手話を目の当たりにした。盲ろう者の方のコミュニケーションの大変さを思い知らされた。
尚、今回のお話の内容は、以下の文献に詳しいのでご参照いただきたい。
- 「情報の科学と技術」59巻8号,378-384(2009)
- 「点字毎日」海外寄稿 2009.5.28/6.4
(記録文責 村林麻紀)