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日本図書館研究会研究例会(第263回)報告


日時:
2009年6月20日(土))14:00〜16:00
会場:
エル・おおさか(大阪府立労働センター)
発表者 :
谷合佳代子氏(財団法人大阪社会運動協会大阪産業労働資料館)
テーマ :
新しい経営手法による図書館運営を模索して:エル・ライブラリー開館8ヶ月
参加者:
15名

1.(財)大阪社会運動協会について

 大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)を設置運営する財団法人大阪社会運動協会(社運協)は,大阪の労働運動史づくりをきっかけとして1978年,労働組合,労働福祉事業団体,研究者,弁護士などにより設置された公益法人である。大阪府および大阪市の補助金も得,当初から公的資金を前提とした組織であった。『大阪社会労働運動史』全9巻の編纂をはじめ,大阪城公園内にある「大阪社会運動顕彰塔」の管理および毎年10月15日の「大阪社会運動物故者顕彰追悼式」挙行などが主な事業である。

2.エル・ライブラリーの誕生まで

 社運協として『大阪社会労働運動史』編纂のための資料収集保存を行っていたことにあわせ,2000年4月から,大阪府が直営で運営していた「大阪府労働情報総合プラザ」も受託運営をスタートさせた。このプラザ運営については様々な創意工夫と人件費を含めた経費節減を実現し,さらに,8年間で利用者を4倍に増やした。

 このような成果にも関わらず,大阪府財政再建プログラムによって2008年7月末をもってプラザは廃止された。同時に大阪府および大阪市からの社運協への補助金も全額廃止となり,この結果,協会は年間予算3,200万円のうち2,200万円の収入を失うことになった。

 しかし,社運協は,労働組合や市民団体,企業の内部資料などの貴重な一次資料数万点を散逸させず次世代に引き継ぐため,協会資料室をリニューアルオープンし,図書館運営を継続させることを決意した。こうして2008年10月21日,大阪府が廃棄を決めた図書17,000冊も引き取って,蔵書数12万冊の図書館として「エル・ライブラリー」がオープンした。

3.労働専門図書館から産業労働資料館へ

 行政から自立した図書館運営をするには,「労働専門」という資料の希少性はマーケットの狭さという短所となった。今後は労使双方の資料に目配りしてこそ産業の全体図を描くことができると考え,「働く人々の歴史を未来に伝える図書館」というコンセプトを打ち立てて,産業労働資料館と銘打った。目標は「MLAの連携」((1)労働組合・団体の三次元資料を所蔵する博物館 (2)労働組合・企業・団体の内部文書を所蔵する文書館 (3)最新の労務管理情報・賃金データなどを収集する図書館)を1館で体現することである。

 主な利用者は,最新データの利用者と歴史資料の利用者に分けることができる。前者は社会保険労務士,企業の人事担当者,労働組合役員などで,後者は大学教員,大学院生・学部生,在野の研究者などである。フローとストックの両方の利用ニーズに目配りする大変さを実感している。

4.新しい経営手法の模索:財政難克服のために

 財政難克服のためには,「出の抑制」と「入の増加」の双方向が必要である。「出の抑制」としては,職員減,正職員の賃金カット,購入資料の厳選,光熱費などの日常経費の節約,ボランティアの活用,非来館サービスの充実などを実施している。「入の増加」では,サポート会員制度の導入,他所の事業受託,賃金管理ソフトの販売斡旋や図書管理ソフトの開発協力など企業との連携事業,助成金申請,出版事業,労働運動史の教材づくりなどを模索している。いずれもたいへん厳しい状況である。

 今後のライブラリーの在り方として,公的資金だけに頼るべきではないと考えている。しかし,もし,この経営手法が成功したら,「民営化,自立化で十分。サービス向上が可能」という誤った認識を生む可能性があるのではないかというジレンマを抱えている。また,職員の犠牲の上に成り立つ運営をいつまで続けることができるのかも大きな疑問である。

5.さいごに

 運営にはサポート会員のみなさんからの寄付が何よりの頼りである。心からご協力をお願いしたい。

(記録文責:木下みゆき 大阪府立男女共同参画・青少年センター)