TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2009年度 > / Update: 2009.4.20
本発表では、日本のアーカイブズ・文書館をめぐる近年の動向を踏まえ、図書館とアーカイブズとの接点がどのようなところにあるか、またどのような点でお互い「学び合う」べきか、を論じた。
日本では2003年の内閣官房長官傘下の研究会設置を契機に、公文書管理体制の強化や国立公文書館の充実に向けた動きが進展してきた。これは福田康夫前首相(2003年当時の内閣官房長官)を中心とした「政策的トップダウン」に依るものと言える。福田氏の首相就任後はその動きがさらに加速し、公文書管理担当大臣職の新設、政府の有識者会議による公文書管理の法制化への提言などが成された。現在の麻生内閣のもとで、2009年3月に公文書管理法案が閣議決定を経て国会に提出されたが、法案への批判も野党議員や市民団体などから多く出されており、また政治状況の不安定さもあって今国会で成立をみるかどうかは不透明な状況にある。
この動きと並行して、アーカイブズをめぐる研究や専門職(アーキビスト)養成をめぐる動向も活発化している。2004年には日本アーカイブズ学会が設立され、多方面での研究活動を支えていると同時に、専門職養成に向けた議論も行っている。この養成の制度化にはまだ至っていないものの、学習院大学は大学院レベルで、別府大学は学部レベルで、専門職養成をうたうコースを開設している。あわせて、国立公文書館が中心となってアーカイブズの領域での国際交流・発信への取り組みも活性化が成されている。
施設・組織としてのアーカイブズないし文書館に関しては、自治体や大学での設立の動きも盛んであるが、「新しいアーカイブズ」をめぐる動向にも注目しておきたい。これは文化関連の資料の収集・整理・保存に関する取り組みが近年、「アーカイブ(ズ)」の名のもとに各方面で成されている、ということである。具体的には日本脚本アーカイブズ、歴史的音盤アーカイブ推進協議会、テレビCM等に関するアーカイブの研究プロジェクト(京都精華大学など)といった取り組みが挙げられる。
近年のMLA(博物館・図書館・文書館)連携に関する研究・政策の動きも踏まえつつ、L・Aについては以下のような接点が考えられる。
これらを踏まえ、図書館とアーカイブズとの間ではどのレベルで―資料の保存、資料の組織化、検索システム構築、人的サービス、トップレベルの方針・政策など―接点や連携の可能性があるかを見極める必要がある。
2.で挙げたことに加えて、以下のような課題を掲げておきたい。特に(4)(5)については、図書館の領域での議論・実践の蓄積が大いに参考になるはずである。
今回の研究例会では、まさにM・L・Aにまたがる多彩な方々にお越し下さったのが、発表者としては何よりの喜びであった。質疑でも各領域の関心を反映した活発な議論が成され、また「行政評価や市場化テストへの対応」など公立図書館・公文書館の厳しい現状も提示された。さらに「MLA連携を考えるためには人のつながりが何より必要」という意見もあり、発表者も大いに同意する。今後も実りある研究・実践に向けて、「人のつながり」を意識した活動を心がけていきたい。
なお、当日の発表資料は京都大学学術情報リポジトリ「KURENAI」に掲載している(http://hdl.handle.net/2433/72813)ので、ご参照下されば幸いである。
(記録文責:古賀崇)