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日本図書館研究会研究例会(第259回)報告


日時:
2009年2月12日(木)19:00〜21:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター
発表者 :
深井燿子氏(椙山女学園大学文化情報学部)
テーマ :
読書のすすめに携帯を生かす:司書課程学生の読書と公共図書館利用:いくつかの事例から
参加者:
19名

0.はじめに

 99%の大学生が携帯電話を所有し、その内19%が2台目の携帯電話も所有していると言われる。携帯と読書の関係は図書館に関わる人々にも大きな関心事である。今回は司書課程学生の公共図書館利用や読書について、報告者自身の学生との関わりの中から得られた事例を元に分析がなされた。しかし、報告の中で示唆されたことは司書課程受講者であることを捨象して、現在の学生の読書傾向、図書館利用の実態がうかがえるものであった。

1.昨今の読書論

 最初にここ最近の読書に関する議論の流れが紹介された。その中でも図書館界における読書観、物語と読書、ビジネス界における読書ブームなどが報告された。PISA型読解力の必要性や活字離れに対する危機感が反映されているのか、読書に関する議論も増えている印象がある。少なくともビジネス界のこうした動きは、就職を控えた学生に「読書」は大事だという意識をもたらす可能性はあると思われる。

2.司書課程学生の公共図書館利用と読書の傾向

 現在の司書課程受講学生の図書館利用や読書の状況を学生のレポートから紹介がなされた。そこには司書課程学生にも図書館を使ったこともなければ、本も読んだことがないという学生が存在すること、一方で子どもの頃から身近な図書館を利用し、読書をしてきた学生との二極化が報告された。さらに、司書課程で学ぶ過程で、図書館の様々なサービスの存在を知り、それが十分機能していないことへの疑問を持ったり、資料の果たす役割に気づくという「図書館に対する問題意識の発芽」が起こり、積極的に図書館と関わろうとする変化が見られることが報告された。深井氏が受け持つ司書課程の授業に加え、卒業研究と就職活動にも読書を結びつける実践について報告された。

 1つは、授業でのブックトークで学生に本を紹介すること。また『華氏451度』や『図書館戦争』などを読んで、その本について”司書課程受講生としての”レポートを書く課題など、本に触れる機会を創出されていた。ある程度の量がある本を読み切る経験もまた、達成感と次への自信をもたらすのではないだろうか。

 さらに、卒業研究と就職活動のサポート、指導に携帯電話を活用し、個々の学生の状況に応じた情報を提供し、相談に応じる。その中でも相互の資料・文献の紹介を行い、読書を促すようにされている。相互という点では特に学生が教員に向けて図書を推薦する形で、主体的な読みを重視されていた。一方で、本を読む習慣がない学生にとっては、課題として読まなければいけない状況を作ることも、必要なプロセスではないだろうか。様々な角度から本に触れる機会を増やし、適切なときに適切な資料と出会うことが、次の読みに繋がるものと思われる。

 報告の中では、約200名の学生を対象に読書との関わりを調査され、読書が好きになったきっかけのトップが、学校での朝の読書や感想文入賞であったことが述べられた。この2番目は「学校図書館の司書や先生に薦められた1冊」が上がっていて、学校図書館の活動が読書に有効に働くとも考えられた。その他、家族や国語の時間で薦められたものが上位を占め、読書のきっかけには他者による本の紹介や薦めも重要であることが示唆された結果となっている。しかし、大学入学後にそのきっかけがあったとする回答もあり、司書課程を取る学生=本が好きとは必ずしも言えなくなっている現状がうかがえた。

3.学生の携帯利用

 学生の携帯利用については、「1人で過ごす1時間があれば最優先すること」のトップが携帯であり、読書は2番目に位置するものの、携帯の3分の一程度の人数になってしまう結果も報告された。教員との連絡やインターネットの検索もパソコンより携帯であり、携帯は学生が利用する中心的なメディアであり、あきらかに日常の多くの時間を携帯でのメールや電話に費やしていることが分かる。

 しかし、「ケータイ小説」については司書課程受講者であるためか、あるいはケータイ小説の読者対象が中高生中心であるためか、現状では概ね否定的な意見が寄せられたという。学生は紙メディアによる読書と携帯で読むことは違うと感じているが、今後コンテンツが充実し、紙メディアと変わらない多様なものが出てくれば、携帯による読書が本による読書に勝るかもしれないとの学生の指摘も興味深いものであった。本よりも軽く持ち運べる携帯の利便性は高く、日常の必需品になっている携帯による読書推進も視野に入れる必要があるのかもしれない。こうしたメディアの変化と読書行為の変化については、今後他分野での研究が待たれるテーマでもある。

4.図書館の利用と携帯

 大多数の学生がインターネット閲覧も携帯で行っていることから、公共図書館のホームページを携帯で閲覧し、若者を惹きつける図書館ホームページについても検討された報告がなされた。携帯サイトを立ち上げている岐阜県図書館のサイトを検討した結果、OPAC検索の便利さは好評であったものの、全体に文字量が多く、学生には堅苦しい、URLから入るのは困難等の意見が出された。改善点として、返却日の3日前通知や図書館のマスコット・キャラクターを作り、親しみやすさを出すなどの学生らしい意見が出た。

 また図書館員がお薦めの本を書く、司書による書評や仕事内容についてのブログを作るなど、身近に図書館を感じられる工夫を求めていることも示唆される内容であった。深井氏は若者利用者を増やすためには、携帯サイトが有効ではないかと提案された。その充実には学生の感性を反映させる工夫も必要なのかも知れない。

5.まとめ

 深井氏は学生が携帯利用で日常の多くの時間を費やしている実態から、「図書館は携帯に負けている」という視点を持ち、携帯をツールとした読書のすすめを実践されており、大学生に限らず「読まない、読めない」若者に読書を広げること、図書館の利用を促進させることは、個々人を育てる上でも、この国の教育の有り様を考える上でも重要なことと思われる。

 学生は誰かに本を薦められることを望んでもおり、読書のきっかけとしては授業でのブックトークを通しての本の紹介、携帯を活用した資料の相互の紹介や感想のやり取り等、様々な場面で本に触れる機会を持つ工夫は非常に参考になった。ブックトークは本の装丁のおもしろさも共に伝えることができ、紙メディアの親和性が生かされるものである。

 今回紹介された主な本は、藤原正彦「教養を培う−私の読書ゼミ」(『読書のすすめ』 岩波書店)、勝間和代著『読書進化論』、水野敬也著『夢をかなえるゾウ』、大島真理著『司書はふたたび魔女になる』、ヴィッキー・マイロン著『図書館ねこデューイ』、装丁のおもしろい吉本ばななの英語版『キッチン』、Margriet Ruurs. ” My librarian is a camel: how books are brought to children around the world ”、 William Miller & Gregory Christie. “Richard Wright and the library card”等であった。

 若者の読む力の低下、メディアの変化による読書形態の変化は図書館界にとっても大きな関心事であり、今後は多分野での研究が待たれるテーマである。

(記録文責:川ア千加 大阪女学院大学・短期大学)