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日本図書館研究会研究例会(第257回)報告


日時:
2008年10月28日(火)19:00〜21:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター
発表者 :
山本順一氏(桃山学院大学)
テーマ :
公共図書館における法情報サービス
参加者:
16名

 法情報サービスを図書館が提供するというのはいまはじまったわけではない。日本の多くの公共図書館、とりわけ都道府県立図書館は法令集や判例集を所蔵し、本人訴訟をしようとする健気な人たちを含め、それらを利用に提供し、レファレンス・サービスも実施してきたので、その意味ではずうーっと昔から法情報サービスを行ってきた。アメリカでも事情は同じであり、S.ローススティーンの学位論文(邦訳のタイトルは、「レファレンス・サービスの発達」(日本図書館協会, 1979))にもかなり早い時期に州や地方自治体で立法調査支援サービスを行ってきたことに言及されている。

 アメリカ図書館協会のウェブページをみても、傘下のレファレンス・対利用者サービス協会が‘医療、法律、ビジネス情報サービスガイドライン’を掲げており、公共図書館のサービスメニューに法情報サービスがあがっている。国立国会図書館が提供している電子ジャーナルのひとつ「カレントアウェアネス」にも「米国における法律情報提供サービス」(http://current.ndl.go.jp/ca888)という論稿がある。

 日本の図書館界でいま法情報サービスがもてはやされているのには別の事情があるように思われる。来年度から‘裁判員制度’が導入され、小学校から法情報教育をというとんでもないことを言う人もいないわけではない(社会科のなかで十分に対応できるはずだと個人的には考える)。この裁判員制度の関係が公共図書館の法情報サービスの背景のひとつにしっくりくるということはかまわない。しかし、ビジネス支援サービスや医療情報サービスなどがもてはやされる事情とそうは異ならないとみるのは偏見か。東京都立図書館や鳥取県立図書館は法情報サービスについて積極的に取組んでいることがそれぞれのホームページのサービスメニュー一覧からも見て取れる。

 しかし、わざわざ「このサービスは、資料や情報の提供のみを行うものです。法律相談や特定の弁護士・法律事務所の紹介はいたしません」との断り書きはどのような意味をもつものだろうか。図書館員の専門性と条理と図書館法などが法認しているはずの‘正当業務行為’の範囲を考えているのだろうか。医学情報の提供、宝石の鑑定や身の上相談、将来予測はしてはいけないと古臭いレファレンス・サービスのテキストには書かれていたが、家庭医学の本はどさっと出版されているし、宝石鑑定の本もある。あたらない占い師のような人たちの本も所蔵されているようだし、未来学という立派な学問分野も存在する。関係文献情報や情報源を提供するという仕事の流儀さえ守れば、図書館に禁じ手はないと認識すべきだと思う。図書館員の情報を取り扱う専門職の存在態様をもっと真剣に詰めるべきだし、そのことが法情報サービス・プロフェッショナルの存在を可能とするはずである。公共図書館で育成し、配置しなければならない主題分野に一定の素養を求められるプロフェッショナルのひとり、法情報サービスの専門家、ローライブラリアンは、弁護士や弁理士、司法書士、行政書士などとは異なる次元で‘正当業務行為’の範囲と専門職としての業務の態様を自覚すべきだと思う。さまざまな民事事件、行政事件訴訟に巻き込まれることが多く、また条例等の立法作業にも取組んでいる地方公共団体においては、図書館業務に通暁し、法情報提供にも強い図書館員はその気になれば育つはずだと思うし、育てない、育たないのは形式的で形骸化した学校教育を主体に所管する教育委員会の問題ではなく、設置自治体自体の問題だと思われる。

(記録文責 山本順一)