TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2008年度 > / Update: 2008.7.25

日本図書館研究会研究例会(第255回)報告


日時:
2008年7月17日(木) 19:00〜21:00
会場:
大阪市立難波市民学習センター
発表者 :
塩見昇氏(日本図書館協会理事長)
テーマ :
2008年図書館法の改正とこれからの課題
参加者:
30名

 2008年6月、図書館法の一部が改正された。この改正が図書館の周辺にどのような影響を及ぼすのか、気になるところである。そこで今回の例会では、日本図書館協会(日図協)の理事長として、文部科学省(文科省)との協議等に参加されていた塩見氏に、改正に関する様々なお話をしていただいた。

 改正の背景やポイント等については、すでに各所で執筆・報告されているため(注1)、本稿では特に興味深い内容であった日図協の動きや国会での議論のほか、重要な論点を含んでいた今後の課題や質疑にスポットを当てて報告する。

1.日本図書館協会の動き

 今次の法改正に対して日図協は、積極的に発言をしていこうというスタンスをとった。具体的には、文科省との協議や意見交換を複数回行っただけではなく、国会議員への働きかけにも力を入れた。国会議員については、各党の文教関係委員や読書関係の議員連盟に対して、以下の4点に焦点を絞った資料を提示して要請した。

  1. 図書館建設のための各省庁の補助金、起債の活用
  2. 実効性のある資料費の措置
  3. 司書と司書有資格の館長の配置
  4. 図書館資料の相互貸借のための経費負担

2.国会での議論

 国会審議の内容には上記の1〜3が大きく反映されており、図書館の足場を支えるような発言もあった。また、改正案に直接関連しない事柄が議論の中心になっていた点がユニークだった。

 文部科学大臣の答弁では、期間を短く区切る指定管理者制度は図書館になじまないといった趣旨の踏み込んだ発言も見られた。また、図書館には、司書が配置されていることが望ましいとの発言もあった。

 なお、最近発行した『図書館政策資料XII』(注2)には、国会審議の内容を整理して掲載している。

3.今後の課題

 今回の改正は、それ程重要な内容を含んでいるとは言えないが、国会での活発な議論や附帯決議が出されたことは特筆に価する。日図協では、この議論や付帯決議を今後の図書館振興に生かすために、以下のような活動を展開したいと考えている。

図書館の評価について(第7条の3関係)
文科省では評価の基準・ガイドラインは図書館団体で作成してもらい、文科省はそれを督励する立場と答弁している。そこで、日図協に作成を委託するよう要求しようと考えている。
文科省からの地方自治体への通知文書
改正に関する通知は既に出ているが、通り一遍の内容である。国会の議論や附帯決議の内容を踏まえた、丁寧なものを出してもらいたいと考えている。
国による出版物の無償提供について(9条関係)
文科省もやると言っているので、確実に実行してもらうよう要請していきたい。ただ、条文中で「独立行政法人国立印刷局の刊行物」と表現されている点には注意を要する。国立印刷局以外で印刷したものが除外される可能性もあり、その範囲の確定にも留意したい。
指定管理者制度について
指定管理者制度の留意点について、総務省は最近「効率化(経費削減)」を挙げなくなってきている。弊害への配慮に言及した附帯決議の内容も含めて知らしめ、活用していく必要がある。
教育振興基本計画について
今後は、国が策定した計画を参酌して地方自治体の計画が策定される。何もしなければ学校教育の計画にしかならないと予想されるため、図書館(公立・学校)の整備に言及した計画にするよう働きかける必要がある。

4.質疑

質問:
今回の改正については個人よりも社会に目を向けた方向にシフトさせている面があると言われたが、それが「課題解決型サービス」等に直接的に連動しているのだろうか。
塩見氏:
重なる部分はあると思う。「これからの図書館の在り方検討協力者会議」が出した『これからの図書館像』もこの流れに乗った内容になっていると言える。
質問:
第3条1項に加えられた「電磁的記録」には、ネットワーク情報資源も含めるべきではないだろうか。(日図協はもっと主張すべき)
塩見氏:
文部科学省の見解では「入れない」としている。ただ、NDLでは試験的にネットワーク情報資源の収集を行っている。今後は、これと連動させて改めて考えていかなければならないと思う。
質問:
司書養成のカリキュラム改定について、何か情報を掴んでいるか。
塩見氏:
日図協では、これまであえて文科省に尋ねることはしなかった。日図協としては、教育部会での議論を踏まえた意見を文科省に提示しているが、単位数の議論はあまりやっていない。改定案は、今日の「これからの図書館の在り方検討協力者会議」で提示されたようだが、まだ内容は確認していない。
質問:
カリキュラムの内容は大綱化して欲しい。そうすれば自由度が上がり、大学ごとに戦略的なカリキュラムが組める。
塩見氏:
大綱化も一つの手ではあるが、司書講習との兼ね合いがあるため、最低限の部分は同じでないとならないだろう。

5.所感

 今回の例会には、大学、公共、学校といった様々な館種の関係者が参加していた。また、岡山市など遠方からの参加者もあり、図書館法改正に対する関心の高さが伺えた。

 塩見氏の話で特に興味深く感じたのは、日図協の活動とそれを受けた国会での審議についてである。日図協の活動が、法改正にどの程度影響を与えたかは分からないが、少なくとも、国会での図書館に関する議論を促し、文部科学大臣の突っ込んだ発言を引き出した点は有意義であったと思われる。

 今後も日図協には、図書館にとって望ましい変化を生み出すための、「有効」な活動を続けていただけるものと期待しているが、日図協に頼るばかりではなく、図書館の現場レベルで出来ることも考えていく必要があるだろう。

注1)
例えば、以下のような文献がある。
塩見昇「教育基本法・図書館法改正とこれからの図書館(上・下)」『みんなの図書館』2008.6(p.34−52)、2008.7(p.78-94)
塩見昇「今次の図書館法改正とこれからの課題」『図書館雑誌』 102(7),2008.7,p.436−439.
塩見昇「新教育基本法と図書館法改正」『図書館界』60(3), 2008.9 掲載予定
注2)
『図書館法改正関係資料 -図書館政策資料XII-』日本図書館協会.2008.7,120 p.

(記録文責 大阪府立中央図書館 日置将之)