TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2008年度 > / Update: 2008.7.22
江上氏は、2007年4月から1年間、ハーバード大学イェンチン図書館に、研修プログラムにより滞在された。これは、イェンチン図書館が日本からvisiting librarianを年1名、3ヵ年に渡り受け入れるプロジェクトで、滞在中は、実務体験、交流および研修者のテーマによる調査・研究を行うというもの。実務としては、おもにイェンチン図書館蔵の日本古典籍の補遺目録出版プロジェクトに携わった。この目録は、近々刊行予定である。
ハーバード大学は、90近くの図書館・室を有する。その一つであるイェンチン図書館は、北米最大級の東アジア専門図書館であり、大学のメインライブラリーであるワイドナー図書館や学部学生用図書館のラモント図書館等とともに、“Harvard College Library(HCL)”を構成する。またHCLには、Collections Conservation Lab(貸出用図書の修復・保存を担当)やImaging Service(資料撮影を担当)等の専門部署も含まれる。さらに、HCLおよびHCLに属さない図書館を包含して構成される“Harvard University Library(HUL)”がある。HULもまた、Harvard Depository(共同保存書庫)などの専門部署を持つ。これら図書館や専門部署は、それぞれの明確なミッションに基づいてサービスを行っている。一例をあげれば、ラモント図書館では基本的に資料を保存しないが、これは資料を新鮮に保つためであり、一方で、24時間開館や図書館カフェなどのサービスを展開している。また専門部署は、それぞれに特化した人材や設備、合理的に構築された処理フローをもって、全体のサービスを支えている。
発表は、担当した実務、見聞した多様な図書館の業務やサービス、参加した学会などを巡るトピックが滞在中のカレンダーに沿って紹介され、アメリカでの1年間を追体験するように進行した。また発表後には活発な質疑が行われた。その中で江上氏は、アメリカの大学図書館の運営を見る際には、その根底や周辺にある事象も含めて捉えるべきことを強調された。例えば、24時間開館とラーニング・コモンズの背景には、全寮制やキャンパスの立地条件があること、またラーニング・コモンズの設置にあたっては、大学全体のコモン・スペース配置計画から構想されるべきものではないか、ということである。そして、紹介されたアメリカの多様かつ活発な大学図書館の活動を支える背景として、「日本とアメリカの大学図書館員の違いとして感じたものは何か」という問いには、「課題に対して自身の判断と責任であたるという当事者意識の強さ」にあるのではないかとされた。
最後に記録者個人の感想になるが、多様なトピックにエピソードを交えての発表であり、ネット等により手軽に海外の多くの情報を入手できる昨今でも、直接話すことやその場に行ってこそ得ることのできる情報の広がりと深さを改めて認識した。
なお、「ハーバード日記: 司書が見たアメリカ」は、研修体験の共有を目指して、京都大学図書館機構のwebサイトに、ブログ形式で連載されたレポートのタイトルでもある。本報告で紹介できたのは発表の一部に止まるため、ご一読をお奨めしたい。
「ハーバード日記 : 司書が見たアメリカ」http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/wordpress/
(記録文責 奈良教育大学学術情報研究センター図書館 赤澤久弥)