日本図書館研究会研究例会(第250回)報告
- 日時:
- 2008年1月24日(木) 19:00〜21:00
- 会場:
- 大阪市立弁天町市民学習センター
- 発表者 :
- 西村 一夫(松原市民図書館)
- テーマ :
- BMの果たした役割を振り返る―松原市民図書館の33年
- 参加者:
- 17名
松原市は1974年に自動車図書館(以下BM)を開始し、2007年3月に廃止した。今年で勤続35年目に入る西村氏は開始時にBM担当として運転もしており、廃止時には館長として苦渋の決断をした。「廃止したからといって後ろ向きな話にせず、出来るだけ前向きな話にしたい」という冒頭の言葉もあったが、西村氏自身BMの必要性を未だに感じているようであった。にもかかわらず廃止という決断をせざるを得なかった状況は他人事とは思えない。お話の内容は大きく分けると、松原市民図書館のあゆみ、BMの活動と廃止に至る状況、の2点である。その概要を報告する。
なお、今回の例会は1977年の第1回から数えて250回目であった。
1.松原市民図書館のあゆみ
- 松原市は面積16.66平方キロメートル、人口12万7千人(2007.12.1)である。大阪市のすぐ南の平坦な地域で、大阪市や堺市などで働く人のベッドタウンとなっている。
- 松原市の図書館はBMから始まった。日野市のひまわり号がお手本であり、活動の基本は児童サービス、貸出サービス、全域サービスであった。
- 図書館サービスをBMから始めたことは、どこでも同じサービスが受けられるという全域サービスを進める上でプラスだった。職員側も常に全市的に考えるという発想ができるようになった。そのことは今も受け継がれている。
- 1976年11月に「松原市図書館設置計画審議会」答申が出された。審議会のメンバーは図書館専門家として森耕一、栗原均両氏、住民として松原子ども文庫連絡会の主要メンバー、その他議員等であった。答申ではBM→分室→分館→中央館の順に整備することとされたが、実際は1980年に松原市民松原図書館という中央館(松原では中心館と呼ぶ)が先に出来た。しかし住民は図書館についての考え方をしっかり持っておられて、「図書館一つで終わらせない」と言い続けてこられた。その声により分館整備が進んだ。住民のそのような発想は、図書館サービスをBMで始めたことが影響している。
2.BMの活動と廃止に至る状況
- 松原の図書館サービスがBMから始まった理由は、BMが 1)財政基盤の弱い松原市でも無理なくできるものであること、2)記念碑的な図書館を市内に一つ作るのではなく、市民の身近にサービスポイントを設置することで市民の読書要求を掘り起こすことができ、さらに全域サービス網の設置を促すものであることが大きい。更に大阪府の補助金が出て、1973年、松原市の補正予算で340万円の自動車購入予算がついたこともある。この補助金のお陰でこの頃府内にBMが増加した。
- BM担当職員は2名で、運転手も兼務であった。前述の通り西村氏もその一人であった。貸出方式は変形トークン式で冊数をチェックする方法であった。誰が何冊借りたということだけを把握するやり方で、今から思えば何とも大雑把であったと思うが、この方法を大阪府内の数館が採っていた。この方法だと予約制度実施は困難であるが、職員が予約された本を記憶し、現場でつかまえ、提供するという原初的なやり方で実施していた。目録や分類はなく、原簿だけがあった。資料費は470万円であった。
- BMは、1)運行開始当初、2)分館網の整備につれて、3)分館網が整備されてからのそれぞれ段階で役割を果たした。1)の段階では、図書館とはどんなものかを市民と行政に知らせたこと、予算が少なくても図書館業務ができることを行政に知らせたこと、市民の中にある読書要求を顕在化させ行政に知らせたこと、当面の読書要求に応えたこと、従来の図書館がもつ古いイメージを一新したこと、市民に資料貸出という公共図書館の本質を理解してもらったこと等が挙げられる。2)の段階では、分館設置へ向けての足がかりとなったこと、図書館システムの一つとして機能したことなど。3)の段階では、ブランクエリアへのサービスをしたこと、図書館利用に障害のある入院患者、高齢者、障がい者の方々に対するサービスをしたこと、施設に直接出向いていってサービスしたこと等がある。
- BMの廃止は行財政改革の中、図書館としても何らかの答えを出す必要があり行われた。実質的にコスト削減ができたというより、行財政改革にあげた事業(BMの廃止)を遂行したとアピールできたことが大きい。しかし職員の反対は結構あった。
- 廃止時期については、1997年のBM買い替えの際、または最後の分館が建設された2000年が適当であったのではないか、との思いは今もある。
- 行財政改革の中で施設の統廃合の話もある。例えば中心館である松原市民松原図書館を増改築し、その上で分館7つを廃止しては、との声もある。しかしそれでは子どもが一人で行ける図書館でなくなってしまう。
- BMを廃止したが、BMは図書館を知らない人、図書館サービスを受けにくい人(生活動線に図書館がない人、高齢者、障がい者、施設に入っている人)に対するサービスのためにまだ必要だと考えている。
(記録文責 村林麻紀)