TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2007年度 > / Update: 2007.10.12

日本図書館研究会研究例会(第246回)報告


日時:
2007年8月4日(土) 15:00〜17:00
会場:
大阪女学院大学
発表者 :
小松 泰信(大阪女学院大学)
テーマ :
eラーニング化された情報リテラシー必修科目と個別学習空間としての図書館
参加者:
13名

1.はじめに

 近年大学または短期大学への進学率が50%を超える過程で、大学における教育環境に目に見えない質的変化が見受けられる。大学に入ってくる学生には、年齢・学習パターン・就学形態等において多様化が生じる過程で、学力・学習動機においても極度の多様性が生まれる可能性がある。したがって教員・図書館員を問わず教育に関与するものには、すべからく過去の大学生像からの脱却と新たな学習モデルの確立が潜在的に急務の課題となっている。

2.科目の概要

 大阪女学院では、短期大学では図書館を利用する情報リテラシー科目として「研究調査法」を1998年より導入必修科目として設け、大学でも同様の性質を有する科目「情報の理解と活用」を2004年の開学当時から必修科目として設定してきた。その内容は、1年次に大学での学習の進め方と生涯にわたる自立的学習能力を身につけるべく、13週の間に小論文1編の完成を求めるものである。その過程において、図書館でのレファレンス資料の使い方や書誌データベースの検索方法を学び、インターネット上の情報源へのアクセスや情報発信およびコミュニケーションの基本を実習し、加えてそれら資料の批判的読解を身につけていく。学生にとってここでの図書館利用とは、たぶん役立つであろうといった抽象的な内容ではなく、科目の具体的な学習内容に関わる具体的かつ切実なものである。

3.eラーニング化された学習手法

 さらに、前述の学習者の性質の変貌に対応すべく、2001年度からeラーニング化のためのパイロット授業を試行し、2004年度からはLMS(学習管理システム)を全学的に導入し、これら大学および短期大学の情報リテラシー科目のトータルな教育情報化を実施してきた。その際、ICT寄りの導入必修科目も併せてeラーニング化を全学的に実施しているために、ICTスキルと図書館利用の両面からカリキュラム運営の情報化を図ってきた。すなわちそれら科目間の学習項目間に生じる相関関係に呼応し学習オブジェクト(Learning Object)間で科目を超えて密接に関連させることが可能となった。

 それぞれの学習項目は、LMS上で個々の学習者がふるまう学習プロセスによって、学習成果の数値化がリアルタイムで記録化されている。これにより、学習成果の評価も逐次収集できるため、従来の評価が「手遅れの評価」になりがちであったのに対して、学ぶ側教える側双方が相互に参照しうるアセスメント情報として学習過程をより実りあるものにするための資源となった。加えて運営上、ある教科目の学習項目の前提条件となる別科目の学習項目は、実施スケジュールの上で先立って実施される必要があるが、それら科目を超えた学習項目間のネットワークが成立している。加えて電子化の利点として、ID(Instructional Design)による設計やLOM(Learning Object Metadata)による管理が可能であるために、それぞれの学習項目ごとに学習設計が綿密に組み立てられる。

4.開放された学習環境

 ここでは、「研究調査法」および「情報の理解と活用」におけるeラーニング化された論文作成過程について述べる。情報検索や情報発信および批判的読解の過程に存在するスキル的学習項目とは別に論文作成は、各学習者それぞれのテーマに沿って個別に進捗する多様な学習過程である。教育情報化によって、学習教材および学習の進捗状況は、教室から開放され必要な時と場所で継続できるものとなった。従来の一つの教室に一人の教員が張り付くスタイルから、複数の学習支援者が個々の学習者に関与できる可能性が開かれたのである。閉じられた教室の中では参照できない資料も同時に手に取ることが図書館なら可能である。

 教室に集まる集合授業でスキル的学習項目の実習を行い、ネットワーク上で非同期に各学生の論文指導が時間や場所を選ばず継続的に実施されている。現在、教室実施のクラスに加えて、図書館司書や複数の教員がLMS上で学習過程を管理する、教室をもたないWebクラスも実施されている。eラーニング手法は、教育の場を教室という閉じられた空間から、図書館の閲覧室を含めた様々な場と、図書館員を含めた様々な支援者がそこに参画できる機会を開いた。

5.授業評価

 最後に今年度前期の「研究調査法」および「情報の理解と活用」での全体的授業評価アンケートでは、こうした教育方法の背景となる学生の自宅でのPC所有率が93%におよんでいること、大学での21時までの情報関連設備の開放と併せて授業外でのLMSへのネットワークアクセスの比率は極めて高いこと、が明らかになった。また満足度などの基本的評価項目がいずれも90%以上を占めるとともに、「将来この科目で学んだことが役に立つと思うか」という学習動機に関わる問いに関する数値では98%が「役に立つと思う」という印象を寄せている。情報検索や情報の整理、批判的読解といったスキルの習得に加え、論文作成過程においては多様な情報源に触れ、複数の資料を参照することが求められる。図書館の利用はこのプラクティカルな学習動機に支えられているといっていいだろう。結果として各学習目標の達成についても十分な成果が得られていることが数値で報告された。

6.発表に関する質疑応答および寄せられた意見

 この科目について、授業直後だけではなく3-4年次に成果を確認する評価アンケートは、取られていないのか、という質問があった。年次を超えた評価アンケートはまだ取られていない。ただ、卒業生に対し卒業後に具体的にどのように役に立ったか否かを回顧してもらうインタビューを実施していることが報告され、インタビュー時のビデオも例示された。

 LMS上のeラーニングコンテンツは、市販のものかオリジナル制作のものかという問いに対しては、本教材はオリジナルコンテンツである旨が報告された。また、教室を持たない授業形態の運営の中で課題はなにか、という質問に対しては、eラーニング化によって動機が明確な学生の学習進捗は加速化されるのに対して、動機が相対的に弱い学生の学習が進み難い点が課題として挙げられた。動機付けの明確でない学生にとってeラーニングが有効に働くためには、内容的・技術的に優れたコンテンツの存在だけでなく、人によるアシストが極めて重要であることが指摘された。したがって今後多様化する学生を受け入れる大学の教育が効果をあげるためには、授業担当教員一人の工夫や責任に任せるのでなく、大阪女学院が行っているように、図書館員をも含めた人的支援スタッフがチームとなり関わるシステム作りが必要であることが改めて確認された。eラーニング 化されている教科目の場合には、支援者である図書館員自身が、教員が意図しているコンテンツ内容を自分も確認でき、学生がどこに躓いているかを知ることが出来るので、より効果的な支援が可能になる。

 また、司書が教育に関わって支援しうる範囲はどこまでかという問題も論じられ、専門主題分野に関わる内容が、主題を持たない司書には範疇外になり、情報検索などにおのずと限定されるのではないかという指摘があった。しかし学問分野の方向にのみ学習・教育の地平は広がっているわけではない点を考慮すれば、学習支援は別の広がりを有するはずである。

 最後に、この科目に参画する現場の図書館司書は、どのように考えているのか聞かせてもらえないか。という質問が寄せられた。これには、本例会に参加していた図書館長および館員から直接コメントがなされた。まず図書館長が図書館運営を考える立場から、「ぜひ館員を参加させるべきと推進している。理由はこうしたスキルの獲得が図書館の生き残りを考える上でも不可欠であると判断するからである」との所見を寄せた。また館員からは、「閲覧室など教室以外のところでも必要に応じて学習環境が提供されるシステムは、支援の場や人を限定しないため、支援を行う立場から便利である」という旨の意見が寄せられた。

(記録文責:小松泰信)