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日本図書館研究会研究例会(第242回)報告


日時:
2007年3月9日(金) 19:00〜21:00
会場:
大阪市立難波市民学習センター
発表者 :
志保田務(桃山学院大学経営学部)、藤間真(桃山学院大学経済学部)
テーマ :
“図書館”をテーマにした諸本と用語:誤用の指摘は専門職の責務!?
参加者:
13名

0.はじめに

 今回の例会は図書館奉仕研究グループの活動として前半を志保田務氏,後半を藤間真氏が担当し,発表された。『図書館戦争』(有川浩著,メディアワークス,2006.3)等の「図書館をテーマとした諸本」を取り上げ,図書館学教育や図書館員がこれらの小説をどのように受け止めるべきかについて,検討を加えたご報告であった。

 なお,「図書館をテーマとした諸本」は図書館外の著者によって記され,タイトルに“図書館”という語があり,作品中に図書館用語を使用した著作」と定義されていた。また,当日は『図書館戦争』3部作をはじめ,10点以上の図書館をテーマとした本の表紙なども展示された。

1.図書館をテーマとした諸本と用語の問題

 最初に,図書館外から書かれた図書館関係の本をA.図書館利用に関する本,B.フィクション,小説という2種に分類し,それぞれの専門用語の使い方などの検討がなされた。A群では『図書館に行ってくるよ:シニア世代のライフワーク探し』(近江哲史著,日外アソシエーツ,2003)で,OPACを“Outline Public Access Catalog" と誤っていることや,『図書館のプロが教える“調べるコツ”:誰でも使えるレファレンス・サービス事例集』(浅野高史,かながわレファレンス探検隊著,柏書房,2006)における,“レファレンジャー”,『使えるレファ本150選』(ちくま新書,日垣隆著,2006)の“レファ本”なる言葉,またNDLや『図書館雑誌』での“レファレンサー”という用語の使用など,図書館利用を促進している本以外でも,用語の誤用がある現状が報告された。

2.図書館の根源に関わる表現の誤用

 B群の有川浩著『図書館戦争』では,図書館の自由を柱としてストーリーが展開されている。「図書館の自由に関する宣言」の1−4項目が小説の各章目次に使用されており,この「自由」を守るために戦闘を繰り広げる図書館隊員が描かれていることから,図書館界でも様々な話題を呼んだ。この『図書館戦争』第4章目次について,須永和之著「ちょっと待った!『図書館戦争』,『図書館内乱』」(『図書館雑誌』2006.12)の同様の意見も紹介し,「図書館はすべての不当な検閲に反対する」となっていることの問題点が指摘された。この“不当な”の文言は1979年改訂版では削除された言葉である。この文言を削除することで,不当でない検閲はないと,改訂当時の図書館界の強い意志を表したと報告された。また報告では,この小説における誤用がその参考文献上の記述にも一因があるとの指摘がなされた。

 こうしたいわば図書館の根源に関わる表現の誤用の指摘は,専門職としての責務ではないかということが今回の発表の主旨である。こうした一連の「図書館をテーマとした」小説は,一定の広報効果が見込まれるものであることに理解を示しつつも,図書館員や図書館に関わる者は,やはりこのような誤用などに対し,敏感になるべきであるという主張は,面白く読み切った筆者にも耳が痛い指摘であった。

3.まとめ

 「図書館をテーマとした諸本」の多くは,図書館を知らない人々が,図書館のことを考えるきっかけとして使えるものも多い。特に「図書館の自由」について知る利用者は少ないと思われる。藤間氏は,団結して戦うことができない図書館の現状を指摘されたが,確かに常にこの宣言を意識して闘えるほどの理念を持つ司書も少数になっているのではないだろうか。その意味では,戦闘という過激な形ではあるが,『図書館戦争』がこの「図書館の自由を守る」という強い意志を見事に描いていることに魅力を感じてしまったのは,筆者だけではないと思う。それだけに,図書館で仕事をする者,あるいは司書課程の学生やその学生の教育に携わる者は,その誤用や誤解を招く表現には,十分な注意をはらい,伝えたい。そのことも「自由を守る」行動の一つと言えると,この発表から刺激を受けた。

(記録文責:川崎千加 大阪女学院大学・短期大学)