日本図書館研究会研究例会(第236回)報告
- 日時:
- 2006年6月28日(水) 19:00〜21:00
- 会場:
- 大阪市立弁天町市民学習センター
- 発表者 :
- 高鍬裕樹(大阪教育大学)
- テーマ :
- CIPA合憲判決とCOPA違憲判決の検討:情報を止める位置と手段について
- 参加者:
- 8名
子どもを有害な情報から守る意図で制定された法律に対する合衆国最高裁の2つの憲法判断について発表された。すなわち2003年の「子どもをインターネットから保護する法律」(Children Internet Protection Act:: CIPA)合憲判決と、2004年の「子どもをオンラインから保護する法律」(Child Online Protection Act: COPA)差し戻し判決(下級審の違憲判断を基本的に支持)であり、一見相矛盾するように見える各判決をそれぞれ詳細に分析・検討された。
1.CDA違憲判決
- この種の問題を考える場合、最高裁による1997年の「通信品位法(CDA)」違憲判決が前提となる。そこでは、インターネットが放送メディアよりも活字メディアに近く、最高度に表現の自由が保護されることなどが確認されている。
2.CIPA合憲判決
- CIPAは、学校図書館・公立図書館が補助金を受ける場合にフィルターソフトの導入を義務づけた(ただし成人で研究目的等であれば解除しうるとする)法律である。
- ALAその他の団体による違憲訴訟が行われ、2003年6月に合衆国最高裁は6対3で合憲の判示を行った。
- 多数意見、反対意見ともフィルターソフトが情報を過度にブロックする傾向を認めた。そのうえで容易に解除しうるので合憲とするか、利用者への萎縮効果を無視できず違憲とするか、判事間の意見は分かれたが、最終的には合憲論が多数意見であった。
3.COPA差し戻し判決
- COPAは、WWWを用いた「商業目的」の表現について、未成年者に有害な情報を利用可能とした場合に、かなり高額の制裁金を課す法律である。
- 自由人権協会による違憲訴訟は複雑な経過をたどり、2004年に合衆国最高裁は5対4の僅差で、控訴審の違憲判決を差し戻した。ただし「差し戻し」ではあるが、違憲判断そのものは支持する判決であった。
- 情報の発信元を規制するCOPAの方式と、フィルターソフトを用いた受信段階での規制手段との比較が多数意見と反対意見の分かれ目となった。相対多数意見では、国外情報への効果等の点でフィルターソフトのほうが優れている、即ちCOPA方式は最善の手段ではないという理由で違憲判断を導いた。
4.情報を止める位置と手段
- 両法の大きな違いは、CIPAが情報の受信側で規制をはかり、COPAは発信側を規制しようとするところである。両判決では両者を比較して、情報の受信者による規制の解除可能性(フィルターソフトならば適宜解除可能)が重くみられた。
- 両法のもう一つの違いは情報を止める手段の違いであり、フィルターソフトの評価が判決中では大きな意味を持つ。
- CIPA判決ではフィルターソフト導入が文言上合憲とされたが、実際の運用が合憲とされるかどうかは適用方式による。例えば排除される情報の範囲が過大であったり、無効化が容易でないといった運用であれば、違憲とみなされる可能性が高い。
- 『図書館の権利宣言』解説文の2005年改訂では、フィルターソフトを導入すること自体は否定せず、憲法で保護された言論のブロックを最小とする手だてが必須であることを明記した。図書館での運用方法がより注視されている。
(記録文責:渡邊隆弘)