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日本図書館研究会研究例会(第230回)報告


日時:
2005年11月29日(火) 19:00〜21:00
会場:
大阪市立弁天町市民学習センター
発表者 :
亀井元子(独立行政法人国際交流基金関西国際センター日本語教育専門員)
テーマ :
海外の図書館司書のための日本語教育:専門科目のための教材開発を中心に
参加者:
12名

 国際交流基金の日本語事業の一つである「司書日本語研修」について,その実施内容や現在までの経緯をお話しいただいた。さらに研修時のテキストの開発及び実際の研修を通して感じて来られたことなどの報告がなされた。

 本事業は図書館界でもあまり知られていないと思われるが,海外の図書館事情を知り,自国の図書館界の現状や課題を見直す視点を持つ意味でも貴重な事業であると考える。

1.司書日本語研修の概要

 司書日本語研修は国際交流基金が実施する「専門日本語研修」の一つとして,1990年から実施されてきた。対象者は海外の高等教育・研究機関,文化交流機関,公共図書館等の司書で,職務上日本語能力が必要とされる者であり,毎年6ヶ月間,約10名の司書が研修を受けている。研修の目的は,業務に必要な日本語能力を高め,日本の図書館事情及び日本文化・社会についての理解を深めることである。

 この研修が同センターの浦和から関西に移行した1997年から2005年までの参加者は89名であり,地域別に見るとアジアからの参加者が62名,その他中南米9,東欧15,中近東・アフリカ3名となっている。館種別では最も多いのが大学図書館の40名で,国立13,公立10,専門25,学校1名である。

2.研修内容

 これらの研修参加者は自館ではそれぞれが目録やレファレンスなどの業務を担当している場合もあるが,経験年数も少なく司書資格を持たない人もいる。また,少人数のところでは図書館運営一切を行なっている場合もある。そのため研修へのニーズも日本語だけではなく,目録のデータベース化,日本語資料の分類・整理,日本における図書館運営や図書館協力など全般にわたる。

 半年間の研修は一般日本語科目と専門日本語科目,日本の図書館事情理解に関するプログラム,文化社会プログラムの3つに大別される。専門日本語では,図書館員のための語彙・聴解・会話・読解・漢字のほか,コンピュータによる情報検索やメール,レポート作成やプレゼンなどのスキルを身につける。これらに利用するテキストを日本語教育専門員やセンター図書館の司書が協力し作成している。

 また,図書館事情を理解するプログラムでは図書館見学や日本の図書館での4日間の実習,交流が重視されている。これらを通して各自が課題テーマを設定し,研修を受けながらこのテーマの解決に取り組み,最終レポートとして報告がなされる。さらに,日本の文化に親しむプログラムは,日本の理解を通し帰国後の日本に関するレファレンスにも役立つものと考えられる。

3.まとめ

 毎年,日本語レベルや司書の経験年数の差異,多様なニーズを持つ海外司書を受入れ,その内容も充実して来ている。今回の報告者は司書ではないが,それだけにテキスト開発などでは相当に工夫し,苦労をされたと思われる。参考となる誰にでもわかる図書館学の資料がないこと,日本語レベルの低い研修生への対応に苦労されたお話などは,参加者の利用者へのガイダンスで感じていることとも共通する事象であり,意見交換も活発に行なわれた。

 持参されたテキストの内容の木目細かさは,図書館で日常使っている言葉や図書館の仕組みについて,私たちは利用者がわかっているように錯覚していること,誰にでもわかる説明をすることの難しさをあらためて感じさせるものでもあった。また,研修生の図書館実習を受入れている館にとっては,研修の中での実習の位置づけや今後の協力体制についても認識を新たにするものとなった。

 今後このような研修事業がさらに発展するためにも,日本の図書館界に広く事業の意義が伝わること,海外からの研修生を受け入れられるだけの図書館の確保と維持,さらに研修生と日本の司書との交流が広まることが望まれるのではないだろうか。

(文責:川崎千加 羽衣国際大学学術情報センター)