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日本図書館研究会研究例会(第228回)報告


日時:
2005年7月26日(火) 19:00〜21:00
会場:
大阪市立弁天町市民学習センター
発表者 :
大平睦美(賢明学院図書室)
テーマ :
校務分掌から見た学校図書館の役割と現状に関する一考察
参加者:
8名

 朝の10分間読書,司書教諭の配置,総合的な学習の時間の導入,または「文字・活字文化振興法案」の衆院本会議での可決など学校図書館に関する話題は昨今豊富である。にもかかわらず,学校図書館の現場には大きな変化が認められない。国の方針・政策としても言及されているように,学校図書館が,学校教育におけるその重要性が認められ,もっと活用されるように期待するのだが,実態はあまり活発に動いていない。

 このギャップは何ゆえなのか。学校図書館の考える学校図書館像と,学校側の考える学校図書館像。学校図書館側と学校側とでは,学校図書館に期待する機能や学校内での位置付けに対する認識に,ずれがあるからではないだろうか。双方の学校図書館像というものを知ることができれば,互いに求める学校図書館を実現するための一助となるはずである。そこで,学校側の考える学校図書館像というものを明らかにする手がかりとして着目するのが,図書に関する校務分掌である。

 「校務分掌」とは,校長が責任を持ち,教職員が分担して受け持つ学校の事務のこと。図書に関する校務分掌は,学校図書館の執行機関である。ところが,少子化により学校の統廃合が計画されたころから,図書に関する校務分掌も他の分掌と統廃合されてきた。図書に関する校務分掌の数の推移や,どの分掌と統合されたかを調査することは,各校における学校図書館の位置付けを知る一つの手がかりになるだろう。

 大阪府の高等学校全てを対象に,1994年度から2003年度までの約10年間において図書に関する校務分掌の推移を会員名簿(大阪府学校図書館研究会)により調査したところ,図書単独の分掌,他の分掌と統合された分掌どちらも,大きく数の減少が見られ,大阪府にある高等学校の約半分以上に「図書」という校務分掌が存在していないという結果が出た。また他のどの分掌に含まれるようになったか ―これには,各校の学校図書館に求める機能が示されると考えられる― という点では,教務部に所属する割合が高かった。これには,学校図書館が授業を行うのに必要な機能を求められているためだと考えられる。そのほか,学校における文化活動の一つであると考えられることから文化委員会に,または生徒図書委員会を指導する立場にあるため生徒活動部に含まれる場合もある。

 さて,この調査を通じて次のような課題が得られた。図書単独の校務分掌が存在するということは,学校図書館の運営に専念できる分掌があるということであり,常に図書館担当職員によって学校図書館が運営されることは,利用者サービスの基本である。学校内での学校図書館を必要とする意識も高いといえよう。しかし,校務分掌に「図書」があるからといって,学校図書館の活動が盛んだとは限らず,「図書」の校務分掌がなくても,活発に活動している学校図書館もある。ただし,そういった場合,一学校司書の,または校務分掌を超えた一担当者の”個人的なガンバリ”に左右されてしまう部分があり,問題である。また担当者だけでは全教科を網羅した資料収集等に限界がある。

 ところで,例外的ではあるが次のような報告もあったという。図書の校務分掌が他の分掌に含まれたことによるメリットというのだが,他の分掌との統合により結果的に図書館運営に関わる教職員の数が増え,それまで学校図書館に興味がなかった人も“半強制的”に学校図書館に足を運ぶうち,これをきっかけとして学校図書館やその資料について関心を持つようになり,図書館の活動を活発にしつつあるというのだ。

 つまり,生徒だけではなく教職員も含め学校内の全ての人が,一人でも多く学校図書館を利用することで,学校図書館に対する関心を持てば,学校図書館の活動はより一層充実したものとなる。そのためには学校図書館側から積極的にアピールしていく必要がある。忙しい教職員に,どうすれば学校図書館の利用を促せるかという戦略も意識しつつ,学校図書館側からアピールし情報を発信していくことで,学校図書館を学校教育の中でさらに魅力的な存在とすることが今後の課題である。

(文責:秋山由衣 大阪教育大学附属図書館)