TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2004年度 > / Update: 2005.4.1
PFI事業(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)は,民間の資金,経営能力,技術的能力を活用して,公共施設の建設維持管理運営の促進を図るというのが趣旨である。その根拠となる法律は,「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」である。この法律は1999年7月に成立し,この法律に依拠する実際の事業は,翌年3月に内閣府が出した「基本方針―民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針」以後である。
PFI法が必要になった背景には以下のようなことがある。まず,国を初めとする地方自治体,公共施設等を整備する責任主体に,全く財政的な力がなくなってきたことである。あるいは,公共施設等に考えを及ばすことができなくなってきたということである。バブル崩壊以後,公共施設を整備するため財源がなくなってきた。それにもかかわらず公共施設設置の要求は,住民や国民から依然として強い。こういう状況のなかで,PFIという手法がでてきたのである。なおPFI法の基にある考えは,かなり以前から存在した。そして,同法は官主導であるかのように見せながら,現実には民の主導で,しかも民の思うようにできる可能性があるものだと考えてよい。
2003年12月の段階で250件を超えるPFI事業が挙げられており,237件までは現在実施中もしくは検討中である。一方,21件は断念されているが,その中に例えば東京都北区の中央図書館や大阪府大東市の図書館が入っている。
まず東京都北区は,「大手ゼネコンが入ってくるから地元企業にプラスにならない」という理由で断念した。地元企業を重視するという考えは,各自治体の基本的な視点として存在する。大阪府大東市では,「長期間にわたるリスクを抱え込むことになるから」という理由である。PFI事業者を使っているあいだ,常に事業者が逃げ出さないかとか,約束どおりに事業が実現されているのかを,チェックしていく必要があり,そうしたリスクを抱えるのは行政としては大変だということである。なお熱海市は年平均8億を30年間も支出できないという理由で一時凍結にし,現在の財政状況では事業をこれ以上展開しないことにした。
断念した理由をみると,各自治体は自治体行政全体の視野から,1つ1つの事業を検討して判断している。今後は介護保険が大変になるといった予測や,合併後の状況まで視野に入れて,PFI事業の是非を考えていくことになると思われる。
当然ながら,法律は公正さと公開性を求めている。契約を結ぶところまでは公正さが重要であり,進行する過程では企業であるPFIの事業者に公開性を徹底的に求めなければいけない。なお単独に図書館を対象としたPFI事業は,あまりないだろう。複合施設でのPFI事業ということになると,複合された相手方の事業内容や収支についても的確に理解しないと,事業全体としての評価はできない。さらにPFI法そのものの中で期待されていたことは,新しい事業が作られる,起こされるということである。これまで図書館の委託問題が出てくると,最初に言われるのは引き受け手の有無という話であった。しかしPFI法は,「引き受け手を作れ」と主張し,作った引き受け手に法制上,税制上,財政上,さらには金融上の支援を求めている。
図書館界のPFIへの見方を振り返ると,委託の一形態ではないかという視線が支配的であった。国による基本方針が示されたのは先ほど述べたように2000年3月で,この年に発行されている『図書館年鑑』に,既にPFIの話は出ている。しかし,図書館の現場にいるほとんどの人たちは,これは委託の一形態だといった。
『図書館法と現代の図書館』で山本順一さんは,委託,アウトソーシングの一形態であり,その主要な目的は原価圧縮で,これは図書館サービスの発展にとって問題が多いと言わざるを得ないと否定的見解を出している。2000年ごろの話題ではいつも「新しい委託の形態が出てきた」ということで,研修会などで論議があったが,本当にそうなのだろうかということが分からないままで進んでいったきらいがある。何となくうさんくさい事業だという印象をずっと与えてきたというのが2000年の後半というふうに考えられる。
『図書館法と現代の図書館』にはほかにも議論があり,北克一さんがPFI事業と自治体との関係をいくつか区分けして述べている。やらなければいけないことというのは,財政支出軽減,これはもう至上課題であり,必然的に求められていくだろう,しかし一方では質,量共に水準の高い公共サービスをしなければいけないということがやはり求められるのだとまとめられている。
PFI事業はほとんどの場合が図書館単独ではないので,図書館という場だけでの独立採算を論議する必要はない。また,図書館というかたちでの公共サービスを購入するという形態は,PFIにおいてはあり得るのではないかということを『図書館法と現代の図書館』で松岡要さんが述べている。
館長を含めて管理的な職務も委託できる「指定管理者制度」が,昨年9月,地方自治法の改正によって進んだ。12月の段階で文部科学省は多分相当な圧力を受けた結果だろうと思うが,公民館,図書館,博物館も指定管理者制度の対象となることをあらためて通知するという状況になった。
指定管理者制度を取り込んで,図書館全体を委託してしまう。それが企業論理を徹底させるところだということになると,市民・住民はどこにいってしまうのか,非常に心配が大きくなる。それから教育の話,学習の話は公共サービスで,公でやらないといけないという原点論については納得できるが,いつまでもそれを主張できるのかという点で危うくなっている。
どんなふうにこれを守っていくのかというのがこれから先のわれわれに与えられている課題ではないか。多分,これはPFIにしても指定管理者にしても,いろんなかたちでの図書館の運営を,新しい方式にしようというときに,いかに住民と意見を交換し,そしてそれを最終的な決断を出す議会に対して反映させるのかということだと思う。
(文責・西村一夫/松原市民図書館)